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【一章完結】TS兵士が戦場で生き残るには~平和な世界で生きていたわたしが、どうしてこんな戦場に!?~  作者: 月星 星成
三章 首都決戦偏

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戦争

「まだだ! まだ敵はいるぞ!」

「了解!」


 アリサ軍曹が叫び、魔導隊の先輩たちが魔法を使用する。

 敵兵が見えるようになってから数時間が経っており、敵兵も接近し、城壁の上まで普通の銃弾が届く距離になってしまっていた。


「くっ」

「セラも撃て! ただ、守りも忘れるなよ!」

「りょ、了解!」


 ただ、敵兵はそれ以上近づいてこない。

 それには、いくつかの理由がある。


 一つ目は、魔法の精密さ。

 魔導隊の扱う魔法は、遠距離になればなるほど精密性が落ち、狙ったところに撃てなくなる。

 二つ目は、魔法の弾速。

 魔法は銃に比べて弾速が遅く、ある程度の距離があれば見てから回避できる。それを防ぐために量でカバーしているのだが、それにも限度という物があり、銃が届くぎりぎりの距離だと躱されることも多々あるのだ。


 でも、そんなこと、アリサ軍曹が一番よくわかっている。


「マルコ、右に三十五度。レーネ、左に十度。飛距離を三十メートル伸ばせ!」

「「了解」」


 アリサ軍曹は、魔法の着弾位置を指示し、敵兵同士がぶつかるように軌道をずらしていく。

 狙いは殲滅ではなく、隊列の乱れだった。

 放たれた炎弾が左右から挟み込むように着弾し、敵兵たちが互いに進路を塞ぎ合う。前に出ようとした兵が、横から逃げようとした兵と衝突し、列が波のように揺れた。


(すごい……)


 ただ撃つだけじゃない。敵の動きを読み、誘導し、混乱させ、足を止める。

 魔導隊の砲撃が、ただの火力ではなく戦術として成立しているのを、わたしは初めて目の当たりにした。


「今だ、撃ち込め!」


 アリサ軍曹の号令と同時に、先輩たちの魔法が一斉に放たれる。

 乱れた敵陣に、炎の奔流が容赦なく降り注いだ。悲鳴と怒号が混ざり合い、敵の前進は完全に止まる。


(……押し返してる)


 もちろん、未だ兵の人数差は健在だ。どれだけ敵を殺したとしても、スレブルクとバリエーヌの優劣が変わることなどなく、危機的状況は続いている。

 でも、アリサ軍曹の指揮のおかげで、その差は小さくではあるものの縮まっており、アリサ軍曹率いる魔導隊が配属された方向での戦場は常に有利をとっていた。

 


 けれど、それだけだと意味はない。



 今現在、この都市はスレブルクの兵に囲まれていて、アリサ軍曹が見ることのできない方角からも攻め込まれている。

 もし、一か所でも城壁を抜けられた場合、地近距離戦闘のできない魔導隊では、背後から奇襲され、瞬く間に制圧されてしまうだろう。


 そして、問題はそれだけではない。


「敵の魔導隊が来たぞ! 気をつけろ!」


 魔導隊がいるのはバリエーヌだけではない。スレブルクにも魔導隊は存在し、この状況ではどんな隊よりも脅威だった。


 敵兵の魔導隊が魔法を使う。

 アリサ軍曹ほどの大きさではなかったものの、決して無視できない炎の砲弾が上空を飛び、わたしたちがいる城壁へと襲い掛かる。


 けれど、わたしたちはスレブルクの兵士たちと違って、逃げることが出来ない。

 わたしたちにとって一番大事なのは、命よりもこの城壁であり、ここを失えば――その瞬間に、都市そのものが終わる。


「放て!」


 アリサ軍曹の号令と共に、再び魔法が放たれる。

 けれど、それらは今までとは違い、敵陣に着弾することはなく、上空で敵の魔法と衝突した。


「くっ」


 空を覆い尽くすほどの爆発が起き、吹き降ろされた風が城壁の上を叩きつけた。

 砂塵と熱気が混ざり合い、視界が一瞬で白く霞む。何が起きているのか、全くわからない。


「まずい、伏せろ!」


 誰かの声と共に、地震のような振動がわたしたちを襲った。

 それは、完全に相殺しきれなかった魔法が、城壁に届かなくとも近くの地面に落下し、その衝撃で大地そのものが揺れたのだ。


 そして――


「マルコ!」


 マルコさんの肩に赤い花が咲き、衝撃を殺しきれず、城壁から落下した。

 スレブルクの狙撃兵が、魔法の振動によって壁から姿を露わにしたマルコさんを撃ち抜いたのだ。


「マルコさんっ!」


 叫んだ声は、爆風にかき消された。

 手を伸ばしたけれど、指先は空を掴むだけで、何も届かない。


 ほんの一瞬。

 ほんの一発。

 たったそれだけで、長年戦い続けていた兵士が死んだ。


「……セラ、切り替えろ」

「……はい、わかってます!」


 でも、ソレについて悲しんでいる暇は無い。

 敵兵たちは、今この瞬間にも攻め続けていて、わたしたちが立ち止まれば、その一瞬で城壁が破られる。


「セラ、三分だ。三分稼いでくれ」

「はい!」


 再び敵の狙撃が、アリサ軍曹に襲い掛かる。けれど、今度こそはわたしの盾で逸らした。弾丸は盾の表面で火花を散らし、軌道を外れて城壁の外へと消えていく。

 魔力の盾は、金属の盾とは違って、腕が痺れたりすることはないが、その衝撃はしっかりと身体の芯に響いているため、わたしの軽い体重では受け止めるのがやっとだ。


(でも、それが何だ!)


 今この瞬間に戦っているだけいるのは、わたしだけではない。

 アリサ軍曹も、魔導隊の先輩たちも、他の場所でオーランド軍曹やレン伍長、それにジグだって戦っているはずだ。

 だから、情けない姿を見せるわけにはいかない。何があっても、わたしは最後の瞬間まで胸を張って戦い続け、誇れるのような生き様を世界に刻むんだ。


「よくやった。少し下がってろ」


 アリサ軍曹がわたしの肩を軽く押し下げるようにして言った。

 同時に、無数の炎の塊が空へと打ち上げられる。


 けれど、それは迎撃ではなかった。


(……違う。これは――)


 炎の塊は上空で爆ぜることなく、さらに高く、さらに遠くへと飛んでいく。

 まるで空の彼方へ吸い込まれるように、一直線に。


 そして――敵陣の奥深くに着弾した。


「なっ、あんな遠くまで……」

「私が撃たれた時とマルコが撃たれた時の角度は同じだった。狙撃銃を見たことないせいで詳しいことは分からんが、射程が長い代わりに機動力を削っているのだろう。だからこそ、これが効く」


 その証拠に、しばらくの間は狙撃銃の弾が飛んでこなかった。

 敵兵が死んだのか、銃を撃てるほどの余裕がなくなったのか、それとも――ただ警戒しているだけなのか。


 正解はわからないけど、狙撃兵が何らかの被害を受けたのは間違いなかった。

 あれほど正確に、途切れなく撃ち続けていた銃声が、今はまるで嘘みたいに止まっている。


「そこまで見て……」

「当然だ。戦場では情報が満ち溢れている。それらを一つたりとも見逃すなよ。命を救うこともあるんだから」

「は、はい!」

「そして、今のうちだな。皆、今だ! 狙撃されないうちに、敵を焼き殺せ!」


 アリサ軍曹の号令が響いた瞬間、魔導隊の先輩たちが一斉に詠唱を始めた。

 声が重なり、空気が震え、城壁の上に熱が満ちていく。

 狙撃の脅威が消えた今だけの隙を逃すまいと、全員が一歩前へ踏み出した。


 そして――無数の炎弾が、敵陣へ向けて一斉に放たれた。


 青空を裂くような轟音とともに、炎の奔流が伸びていく。敵陣で爆発が連鎖し、黒煙が立ち上った。


(……これが、アリサ軍曹の戦い方)


 守るために撃つんじゃない。勝つために撃つんだ。

 わたしは銃を握りしめたまま、その背中を見つめた。次に来る反撃に備えながら――胸の奥で、熱いものが静かに燃え上がっていた。


 

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