表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【一章完結】TS兵士が戦場で生き残るには~平和な世界で生きていたわたしが、どうしてこんな戦場に!?~  作者: 月星 星成
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/68

祝福

「おまえらぁ! よくやったなぁ!!」

「――ぅぅ!」


 オーランド軍曹の元に行くと、彼はわたしたちを見るとすぐに駆け寄ってきて、その大柄な身体を使って、わたしたちを抱きしめた。

 大きな胴体が、わたしたちの顔を覆い、呼吸することが出来なくなるが、オーランド軍曹はそんなことを気にするそぶりもなく、わたしたちを抱きしめ続けた。


「ぐ、軍曹‼ 呼吸が出来てません!」

「落ち着いてください!」


 先輩たちは、オーランド軍曹の腕を慌てて引きはがそうとした。腕を掴む者、背中を押す者、声だけで止めようとする者。

 けれど、軍曹の腕はびくともしない。


「軍曹! 離してくださいってば!」

「窒息しますよ、ほんとに!」

「うぅぅうううぅ!!」


 そうして、しばらく時間が経った時、オーランド軍曹はようやく腕の力を緩めた。

 解放された瞬間、私は大きく息を吸い込んだ。肺が痛いほど空気が入ってくる。


 グレン小隊長は、部下を褒めることはあまりしなかったため、そこを不満に思ったこともあったのだが、部下を褒めるタイプは、それはそれで迷惑な上司なんだと実感してしまった。

……仕方ないでしょ、もう少しで窒息死してしまうかと思たんだから。


「悪い悪い、つい、な」


 オーランド軍曹は頭をかきながら笑った。

 その笑い方は豪快なのに、どこか照れ隠しのようにも見えた。


「つい、じゃないですよ……ほんとに死ぬかと思いました」


 ジグが胸を押さえながら言う。

 肩が上下していて、まだ呼吸が整っていない。


「生きてるんだから問題ねぇだろ!」


 オーランド軍曹は胸を張った。

 その声に、周りの先輩たちが苦笑する。


「軍曹、もう少し優しくしてやってくださいよ」

「そうですよ。帰ってきたばかりなんですから」


 先輩たちは口では文句を言いながらも、どこか安心したような顔をしていた。

 そのおかげで、すこしだけ空気が軽くなる。


「セラも、ジグも、もっと自分のことを誇れ。この勝利は、おまえたちのおかげで手に入れたんだからな」


 今度こそ、オーランド軍曹が優しく頭を撫でてくる。それは温かくて、どこか心が安らいでしまう。

 でも、その温かさを心の底から受け入れることは出来なかった。何故なら、この勝利がわたしのおかげのモノだとは、到底思うことが出来なかったからだ。


 確かに、わたしはこの戦いで活躍しただろう。

 けれど、それだけだ。ジグやオーランド軍曹、それに先輩たちだって、それぞれ活躍し、勝利に貢献してきた。

 だからこそ、わたしたちのおかげという表現には、違和感を覚えてしまうのだ。


 それに……


(わたしが、それほど凄い兵士だったのなら、みんなは死ななかった)


 その考えが胸の奥に沈んだ瞬間、視界が少しだけ揺れた。風が吹いたのか、ただ疲れているだけなのかはわからない。


「セラ?」


 ジグが覗き込んでくる。

 その顔は、さっきまでの笑いが消えていて、眉がわずかに寄っていた。


「……大丈夫ですよ」


 そう言って前を向くと、オーランド軍曹がこちらを見ていた。

 腕を組んだまま、何かを言いかけて、やめたような顔。


「無理すんなよ」


 オーランド軍曹はそれだけ言って、視線を外した。

 その横顔は、いつもより少しだけ静かだった。


「よし、撤退を再開する。背後に気を付けながら撤退しろ。魔力に余裕が無い者は、今のうちに薬剤を飲んでおけ」

「はい!」


 全員の返事が重なり、部隊の空気が一気に引き締まった。さっきまでの笑い声が嘘のように消え、足音と装備の擦れる音だけが残る。

 そして、わたしたちは、また殿としての位置に戻った。

 この戦いのせいで、他の部隊とは少し距離が出来てしまっていたため、駆け足で進んでいく。


「セラ、魔力は?」


 ジグが横に並びながら聞いてきた。

 息は整っているのに、声だけが少し低い。


「薬剤を飲むレベルじゃないよ。あれって、出来るだけ飲まないほうが良いんでしょ」

「そうだな。まだ魔力が残っているなら、飲まないほうが良い」


 ジグは前を向いたまま頷いた。その横顔には、さっきまでの疲れがまだ残っている。

 後方の森から、風が低く鳴った。

 枝が揺れ、葉が擦れ合う音が、妙に近く聞こえる。


「後方、異常なし」


 先輩の一人が振り返りながら報告した。

 その声は静かで、無駄がなかった。


「油断すんなよ。あいつら、しつこいからな」


 オーランド軍曹が前方から声を飛ばす。

 その声は大きいのに、どこか落ち着いていた。


 わたしは深く息を吸った。

 肺の奥に残っていた苦しさが、まだ少しだけ残っている。

 けれど、足は止まらない。止める理由もない。


 わたしは、生き残った者として、最大限働かないといけないのだから。







 こうして、わたしたちは都市を次々と撤退していた。

 まずは民間人を逃がし、その後に補給部隊や魔導隊を逃がしていく。そんなサイクル。


 実際、これが一番死者を少なく出来る方法だった。

 ダズ少将だけでなく、他の戦線にいた指揮官たちも、同じように都市を捨てて撤退し、出来るだけ死者を少なくしようとしている。


 けれど、そうしたところで、何の意味があるのだろうか?


 

 国土は、永遠に続いているわけではない。

 都市を一つ捨てれば、その分だけ後ろに下がる場所は減っていく。 そして、後ろに下がる場所がなくなれば、そこで終わりだ。


 ダズ少将の戦線だけではない。

 北部でも南部でも、同じように都市が放棄され、部隊が後退していた。

 敵は広範囲に散開し、各地で浸透を繰り返している。どの戦線も、押し返す余力を失っていた。


 撤退は、ただの時間稼ぎに過ぎない。

 時間を稼いでいる間に、どれだけの民間人を逃がせるか。

 どれだけの兵を再編できるか。どれだけの物資を後方へ運べるか。


 それだけが、今の戦争の目的になっていた。


 もちろん、政治家の人たちは、この現状に対して何もしなかったわけではない。

 他国に助けを求め、支援物資や義勇兵の派遣を要請し、外交官たちは昼夜を問わず動き続けていた。


 だが、現状は甘くない。


 事が起きたのは、バリエーヌやスレブルクよりと北で接している国――オゼアリム。

 この国は、バリエーヌやスレブルクほど武器が発達しているわけではないが、兵士の数という観点から見れば、常に戦争を続けていたせいで、兵士不足になっている二国よりかは遥かに多かった。


 それに加え、バリエーヌとスレブルクの両方に接している。

 そのため、この国がバリエーヌの味方をしてくれるのなら、戦況が大きく変わる可能性があったのだ。


 しかし、たった一つだけ、誤算があった。

 それは、この国が()()()()()()()


 必ず味方にするために、オゼアリムにはバリエーヌの大統領が、直接交渉に行ったのだ。

 だが、十年に渡る戦争が一瞬で終わらせかけたスレブルクを恐れ、オゼアリムはバリエーヌの大統領を殺し、その首をスレブルクの皇帝に送ることで、自国のことを守ろうとした。


 それは、歴史の転換点だった。

 その事態を受け、バリエーヌの大臣たちは、無条件降伏をしようと準備を進めた。

 もはや戦争を続けるだけの国力は残っておらず、これ以上の犠牲を出さないためには、それしか選択肢がなかった。


 なのに、後世の歴史では、バリエーヌが無条件克服をしたと一言も書かれていない。

 その理由は、新大統領が就任してからの動きにあった。


 大統領の死を受けて、急遽選出された新大統領は、降伏文書の作成を中断し、各戦線の司令部に首都決戦を命じたのだ。

 彼の名は、ヴァルター・グロズニイ。後に人類史最悪の狂人と呼ばれる人物。


 後世の歴史家たちは試算している。

 ヴァルター・グロズニイがいなければ、少なくとも二百万人は死なずに済んだだろう、と。


 ただ、一つだけ言うのなら、彼は悪人と見なすには、少しばかり語弊があると言うことだけ。

 彼がどういう人物なのかは、自分の目で確かめてほしい。



――第二章「撤退偏」完

  

 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ