訓練
「セラ、もう一度盾を作れるか?」
「は、はい」
オーランド軍曹に言われて、わたしは魔力の盾を作り出す。
ただ、もう二回も盾を作ってしまっている。そのせいで、わたしの少ない魔力量が尽きそうになってしまっており、ゴム弾ですら防げないほどの、薄い盾しか作れなかった。
「くっ……」
「あー、なるほどな。だから、グレンのとこに行ってたのか。女は大抵、衛生兵に行くんだが、この魔力量じゃ、【癒】は無理だしな」
それを見て、オーランド軍曹は納得したように頷いていた。
……文句はない、ほんとのことだし。けれど、その呟きで、わたしには才能が無かったという事実を、あらためて実感してしまい、ちょっとだけ惨めな気持ちになった。
(ま、そのおかげで、先輩たちと会えたんだから、悪いことばかりじゃないんだけど)
それに、魔力方面に才能が無いだけで、身体能力の方は、才能が無いわけではない。
ちゃんと訓練すれば、ある程度の動きは出来るようになるし、身体能力も同じ年にそこまで劣っている訳でない。……まぁ、武器になるほど、優れていないのは確かなんだけど。
「ちっ、こんな奴に俺は引き分けたのか……」
そんなわたしを見て、ジグが悔しそうに吐き捨てた。
喉を押さえたまま、まだ呼吸が整っていないくせに、負けを認めるのだけは絶対に嫌だという顔をしている。わたしの薄い盾を見て、余計にプライドが刺激されたのだろう。
「は? あのまま戦ってったら、わたしが勝ってたけ……と思いますけど」
危ない。頭に血が上って、ため口になるところだった。
あ、でも、同じ年くらいだから、ため口でもいいのかな? そう考えればため口でいいと思うんだけど、戦場に来てからため口で話してたのって、リナぐらいだから、敬語で慣れちゃったんだよね……。
けれど、そんな思いなど、ジグには関係なく、わたしのことを睨み、意地や苛だちがごちゃ混ぜになった感情を、わたしにぶつけて来た。
「何言ってんだよ!? あのまま戦ってたら、お前の方が先に参ってたんだぞ! それを、引き分けって形にしてやったってのに、まだそんなことを言うのか!?」
確かに、その可能性もある。彼が肘打ちなどが、わたしの脇腹に当たり、意識が飛びそうになっていた。
けれど、ジグの意識が落ちる時間を考えれば、わたしが限界を迎えるよりも、ジグが限界を迎えたほうが早く、どう考えても、わたしの勝ちだと断言できる。
なのに、こんなことを言うなんて……もしかして、まだ子供なんじゃないのかな。
「はぁ、それでいいですよ。子供の強がりですから、わたしは許します」
「てめぇ、ふざけんなよ! それは、自分の方が上だと思いたいだけじゃねぇか! 大人ぶってりゃ、俺より上になるって思ってんのか!?」
カチンと来た。
「はいはい、そうですか。子供の癇癪に付き合うこちらのことも考えていただきたいのですが」
「んだと! もう一回やるか!?」
「望むところです」
「あのなぁ、俺から見れば、本当に五分五分だったんだぞ。だから、落ち着け。訓練をするぞ」
また喧嘩になりそうになった時、オーランド軍曹が止めてくる。
上官の命令は絶対だから、今のところは許してあげるけど、胸の奥では、まださっきの怒りの余熱がくすぶっていた。やっぱり、ジグは嫌いだ、大っ嫌いだ。いつか絶対、痛い目を見せてやる。
そう思って、ジグの方を睨みつけたのだが、同じことを思っていたのか、ジグもわたしの方を睨んでおり、目が合ってしまった。
やっぱり、コイツは嫌いだ。コイツと一緒に訓練したくない。
「「ふん」」
「はぁ、セラも子供だったんだな。まぁいい、訓練の方が大切だ。セラ、盾で重要なことは分かるか?」
子供と言われるのは不服だけど、そんなことよりも訓練をしないといけない。
確かに、今は訓練できるほどの時間がある。でも、その時間は無限にあるわけではない。こうしている間にも、敵国は侵攻する準備を進めているのだから。
「えっと……やっぱり強度ですか?」
「確かにそれも重要だ。だが、もっと必要な物がある」
強度よりも必要な物? それはいったい何なのだろうか?
わたしが実戦で盾を使ったのは一回。魔力が尽きかけていたこともあって、一発しか弾を防げなかった。しかも、それは防ぐというより、相殺と言った方が正しいほどの品物であり、その証拠に弾を逸らした瞬間、盾が割れてしまった。
そのことを踏まえて、強度が一番重要だと思っていたのだが、オーランド軍曹の考えは違うらしい。
もっと、深く考えないと……
(今までに見た盾使いは……あの二人を参考にするのが良いかな?)
盾使いで真っ先に思い付いたのは、グレン小隊長と、スレブルクの青年だった。一応、他にも盾使いを何度も見たことがあるのだが、彼らについてはあまり印象に残っておらず、 誰よりも頼りになる人と、一番苦戦した相手が思い浮かぶのは当然だった。
わたしと、彼らの違いは……
「持続力……?」
ふと、思い浮かんだ。
グレン小隊長は、常に盾を貼りながら、敵部隊へと突撃していた。スレブルクの青年は、常にと言うわけでは無かったものの、私が銃口を向けた時には必ず盾を貼っていて、攻撃が通ったのは、動揺し盾を貼るのが遅れた時だけだ。
これらに共通するのは、盾は一発限りの大技と言うわけではなく、引き金を引くことのような基本動作の一部になっているということだった。
わたしの盾は、一日に三回程度。それも、戦闘では銃を使うため、使用できる回数はさらに減るだろう。
このままだと、盾はせいぜい保険程度のものに成り下がってしまい、肝心な場面で使うことが出来ないこともあるだろう。だからこそ、この弱点はいち早く克服する必要があった。
「おお、正解だ。よくわかったな」
「グレン小隊長を、見てましたから……」
「そうか、よく見てたな。それで、今からやる訓練は、その持続力の訓練だ。ジグ、石を持ってこい」
「……はい」
オーランド軍曹に言われて、ジグが石の入ったバケツをわたしたちのところへと持ってきた。
中には大小さまざまな石がぎっしり詰まっていて、持ち上げるたびにじゃらりと重たい音が鳴る。ジグはまだ悔しさの残る顔をしていたが、軍曹の前では逆らえず、黙ってバケツを地面に置いた。
「まさか……」
「お、察しが良いな。ちゃんと防げよ」
石を見たとたん、わたしは嫌な予感に襲われた。勘違いだったらよかったのだが、オーランド軍曹の顔を見ると、その推測は正しかったのだと、ひしひしと伝わってくる。
「ま――」
「安心しろ。最初は手加減する」
石が投げられた。
わたしは反射的に魔力を集中させ、薄い盾を展開する。
さっきまでの戦闘で魔力を使いすぎているせいで、盾は本当に頼りないほど薄い。それでも、今はこれしかない。
(くる……!)
石の勢いは、銃弾と比べると、遥かに弱い。
けれど、次の石が飛んでくる気配が、一向に途切れず、わたしは呼吸を整える余裕すらなく、気合だけで盾を貼り続けていた。
「いつ、までっ――」
「俺が終わりというまでだ。気を付けろよ、骨折するほどじゃねぇが、当たると痛ぇからよ」
気が遠くなる。
終わることの無い訓練に、走り込みとはまた違う種類のしんどさが、じわじわと身体の奥に溜まっていく。呼吸は浅く、魔力は底をつきかけ、集中が一瞬でも揺らげば盾が崩れそうだった。
(でも、まだ――)
しんどい、やめたい。でも、わたしがそれを許さない。
生き残った者として、より戦果をあげないといけないのだから。
その思いを胸に、わたしは訓練を耐え続けた。




