表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【一章完結】TS兵士が戦場で生き残るには~平和な世界で生きていたわたしが、どうしてこんな戦場に!?~  作者: 月星 星成
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/68

二人の軍曹

「ああ、忘れていた。これはお前に預ける」


 臨時指令所から出ようとした時、わたしは背後からダズ少将に呼び止められた。

 振り返ると、ダズ少将は、グレン小隊長の軍剣をわたしに対して差し出しており、その手つきは、まるで壊れ物を扱うように慎重だった。


「え……? でも、それは、……」

「このような老人が持っていても、何の役に立たないものだ。儂が持っておくより、前線で戦う兵士が持っていたほうが良い」

「でも、わたしでは使えこなせなくて」


 そうだ、あの森の中で戦っていた時、わたしはその剣を使いこなせなかった。

 剣を振ろうとしても、その重さに負けて、満足に振ることが出来ず、出来たことと言えば、盾が割に使うだけ。だから、わたしよりもオーランドさんやレン伍長に渡したほうが良いだろう。


 わたしはそう思って、断ろうと口を開きかけた。

 けれど――


「それに、今すぐ使いこなせと言っているわけではない。何年か先、使いこなせるようになれば、きっと役に立つはずだ。……その頃まで、戦争が続いていないのが、一番だがな」

「そう、ですね……。ありがとうございます」


 わたしは、ダズ少将から、グレン小隊長の軍剣を、正式に受け取った。

 その剣は、わたしにとっては、まだ重く、使いこなすことは出来ないだろう。けれど、いずれこの剣を使いこなせれたら、その時はきっと、グレン小隊長の部下として、胸を張れるような自分になっているはずだ。


「では、わたしはここで失礼します」

「ああ、何かあったら、儂のところに来い。ある程度のことは、してやれるからな」


 そうして、わたしは深く頭を下げ、臨時指令所を後にした。

 扉を開けた瞬間、外の空気がひんやりと肌を撫でた。さっきまで胸の奥に渦巻いていた熱が、少しだけ和らぐ。

 けれど、腕に抱えた軍剣の重さだけは、まったく変わらなかった。


 廊下を歩くたび、鞘がわずかに揺れて、金具が小さく音を立てる。

 そのたびに、胸の奥がきゅっと締めつけられた。


「よし、それじゃあ、さっそく訓練しにいくか」

「はい」


 オーランドがわたしに話しかける。


「改めて自己紹介をするぜ。俺は、オーランド・ヴォルク。階級は軍曹だ」

 

 オーランドは腕を組んだまま、にやりと笑った。

 挑発的で、乱暴で、でもどこか頼もしさを感じさせる笑みだった。


 わたしは軍剣を抱え直し、軽く頭を下げる。


「わたしは……えっと、セラといいます。よろしくお願いします」

「よろしくな、セラ。アリサの奴のところから出ていきたくなったら、いつでも俺のところに来い」

「ははは……」


 オーランド軍曹の冗談(?)を受け流して、わたしは苦笑いを浮かべた。

 その軽口が本気なのかどうかは分からない。けれど、さっきまでの張り詰めた空気とは違い、どこか安心できる温度があった。


「ストップ、何勝手なことを言ってんの?」

「あ、アリサさん。喧嘩はやめてください……」


 すると、背後からレン伍長とアリサの声が飛んできた。

 振り返ると、アリサは頬をぷくっと膨らませ、レン伍長は半泣きのような顔でアリサの袖を引っ張っている。


「セラは私の隊に来るんだからね! 勝手に勧誘しないでよ!」

「お前が死んだ場合、またセラが浮くからな。その時のことを考えて言ったまでだ」

「あぁ? 私が死ぬって? どう考えても、アンタの方が先でしょうに!」

「言ったなコイツ。なら、今度こそ魔法か盾、どっちの方が強いのかためそうじゃねぇか!」


 けれど、レン伍長の静止の声は、彼女たちに届かず、やっぱり喧嘩が始まってしまった。

 こうなってしまった以上、どうすることも出来ない。だから、私たちはこの喧嘩を傍から見ることしか出来なかったのだ。


「レン伍長……」

「ごめんなさい、私にはどうにも……」

「ですよねー」


 わたしたちは同時にため息をついた。

 目の前ではアリサとオーランドが、まだ喧嘩を続けている。はぁ、何でこんなことになったのだろうか。

 

 


「はぁ、今のところはこれでいいや。勘弁してあげる」


 しばらく時間が経った後、やっとアリサが腕を組み、ふんっと鼻を鳴らして喧嘩を終わらせた。


「あげるってなんだよ、あげるって」

「何でもないですー。それで、これからよろしくね、セラちゃん。私は、アリサ・イェルト。階級は、グレンと同じ軍曹ね」

「あ、よろしくお願い致します」


 アリサはさっきまでの怒りが嘘のように、ぱっと明るい笑顔を向けてくる。

 その切り替えの早さに、わたしは思わず瞬きをした。


「セラちゃんは可愛いねー。グレンと同じくらい可愛い」

「え……」

「目、腐ってんのか? お前……」


 意味が分からないことを言われたわたしは、思わず瞬きをした。

 アリサは本気で褒めているような顔をしているし、オーランド軍曹は本気で呆れている。


「ちょっとオーランド、何その反応。セラちゃん可愛いでしょ?」

「いや、可愛いとかじゃなくてだな……グレンと同じって何だよ。あいつは可愛い枠じゃねぇだろ」

「可愛いよ? あの無愛想で不器用なところとか、すっごく可愛いじゃん」

「お前の可愛いの基準どうなってんだ……」


 アリサは胸を張って堂々と主張し、オーランド軍曹は頭を抱えている。

 レン伍長はというと、完全に巻き込まれたくないという顔で距離を取っていた。


「え、いや……その……」


 どう返せばいいのか分からず、わたしは軍剣を抱えたまま視線を彷徨わせる。

 アリサはそんなわたしの反応すら嬉しそうに見つめてきた。

 

「ね、セラちゃんもそう思うよね」

「……セラ、嫌になったら、俺のところに来い。……本当に」


(癖が強すぎるよ、二人とも……。レン伍長のところに行きたいな)


 けれど、ダズ少将が決めてしまったんだ。もう、どうすることも出来やしない。

 わたしはただ諦めて、この流れに身を任せた。


「アリサさん、オーランドさん、時間は大丈夫なんですか……?」


 すると、レン伍長が助け舟を出すように口を開いた。

 その一声で、アリサがハッとして、わたしから視線を外す。


「そっか、そうだった。私の隊に、新型の銃のことを伝えなきゃいけないんだ。じゃ、セラちゃんまたね!」


 嵐のように、アリサ軍曹は、くるりと踵を返して走り去っていった。

 その背中は、さっきまで喧嘩していた人とは思えないほど軽やかだった。


「……行ったな」


 オーランド軍曹がぽつりと呟く。


「行きましたね……」


 レン伍長は胸を撫で下ろし、わたしも思わず同じ動作をしてしまった。

 道には、アリサ軍曹が残していった熱気だけがふわりと漂っている。まるで本当に小さな嵐が通り過ぎた後のようだった。


「……あの人、いつもあんな感じなんですか?」


 恐る恐る尋ねると、レン伍長は遠い目をした。


「はい……。あれでも、まだ落ち着いてる方です」

「落ち着いてる方……」


 わたしは軍剣を抱えたまま、思わず空を見上げた。

 オーランド軍曹は肩をすくめる。


「気にすんな。あいつはああいう生き物だ。慣れろ」

「生き物って……」

「事実だろ」


 レン伍長は苦笑しながらも否定しなかった。

 わたしはそっと息を吸い、軍剣を抱え直す。


(……癖が強い人たちばかりだけど)


 不思議と、嫌では無かった。

 ルークさんやシス伍長、それにグレン小隊長の死のせいで作られてしまった、心の空白を埋めようとしているだけなのかもしれない。

 けれど、彼らの存在は、救いになりつつあった。

 

 胸の奥にぽっかりと空いたままの穴を、無理に埋めようとするのではなく、ただそばにいて、騒がしくて、勝手で、でも温かい空気で包んでくれるような――そんな救い。

 わたしは軍剣を抱え直し、そっと歩き出した。オーランド軍曹は前を歩きながら、ちらりとこちらを振り返る。

 

「じゃあ行くぞ、セラ。訓練場はこっちだ」

「はい、オーランド軍曹」


 アリサ軍曹の嵐が去った廊下は、少しだけ静かで、少しだけ温かかった。

 握り直した軍剣はまだ重い。

 でも――その重さを、わたしは嫌だとは思わなかった。


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ