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【一章完結】TS兵士が戦場で生き残るには~平和な世界で生きていたわたしが、どうしてこんな戦場に!?~  作者: 月星 星成
二章

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配属

「へぇ、やるじゃねぇか」


 わたしを見て、オーランドと呼ばれていた男が呟いた。

 先ほど、この男はわたしに向けて、銃弾を発砲した。いつもの勘が働いてくれたおかげで、わたしは何とか魔力の盾をはり、それを防ぐことが出来たのだが、それが少しでも遅れていれば、間違いなくわたしの身体に命中していただろう。


「オーランド! 貴様、何をしている!」


 それを見て、ダズ少将が怒号を飛ばした。

 その時の彼の目は、尋常ではなかった。深い皺の奥に宿る光は、戦場で部下を守り続けてきた指揮官のそれであり、同時に、グレンの部下を傷つけることを許さないという、もっと個人的な怒りでもあった。


 けれど、オーランドは飄々とした様子で言い返す。


「ただのゴム弾ですよ、当たったところで死にはしない」

「死なないからと言って、何をしてもいいというわけではない。貴様も、軍規を理解しているだろう!」

「軍規ですか。今の状況では、俺を殺せないでしょうに」

「貴様……」

「はぁ、グレンといい、オーランドといい、何で軍規を軽視しているのか……。怪我は無いか? 悪かったな、この馬鹿が勝手なことをして」


 そんなオーランドの様子に、ダズ少将がより怒りを募らせ、アリサと呼ばれていた女性が、呆れながらわたしのことを気遣ってくる。

 これらは一瞬のことであり、わたしの意識が付いて行けず、茫然と茫然と立ち尽くしてしまった。


 耳に入ってくる声は確かに聞こえているのに、どこか遠い。

 怒鳴り声も、呆れた吐息も、心配する声も――全部が混ざって、頭の中で反響していた。


「それにしても、お前さん、その歳で盾を作れるとは、中々の逸材だな。グレンにでも習ったのか?」

「え、あ……いえ、死にそうだったから、見よう見まねで……」

「見ただけでか! すげぇな! 魔力量が少ねぇのが玉に瑕だが、鍛えれば俺の部下ぐらいには使えそうだ!」


 ダズ少将の怒りを受け流し、オーランドが話しかけてくる。

 その目に、罪悪感などが含まれていないところが、少しだけ癪だけど、わたしの立場では、言い返すことすら出来ない。階級の差とは、そういうモノなのだ。


「しかも、反射神経……いや、勘が鋭いと来た! ダズ少将、コイツ貰っていいか?」

「え?」


 思わず声が漏れた。わたしだけでなく、アリサもレン伍長も、そしてダズ少将までもが一瞬固まった。

 その中心で、オーランドだけが本気とも冗談ともつかない顔でわたしを指している。


「おい、オーランド……貴様、何を言っている?」


 ダズ少将の声は低く、怒りを押し殺したような響きだった。


「いやだって、見ただけで盾を作れて、銃弾を弾けて、勘も鋭い。こんな逸材、放っとくのはもったいねぇだろ? うちの隊ならもっと伸ばせるぜ。それに、グレンが死んだから、今はまだ浮いてるだろ」

「……レンのところに任すつもりだったのだが」

「つもりだろ? それなら、今はフリーってわけだ。これからよろしくな」

 

 オーランドが、わたしに対して手を差し伸べてくる。何が起きているのか分からない、頭が追いつかない。

 けれど、その勢いに押されてしまって、ついその手を掴もうとしてしまった。


――その瞬間。


「だーめ」


 誰かが、わたしを後ろから抱き上げて、オーランドの手の届かない位置へと引き寄せた。

 視界がふっと揺れ、足が床から離れる。


「えっ!?」


 驚いて振り返ると、そこにはアリサと呼ばれていた女性が、わたしの身体を持ち上げていた。


「ちょ、ちょっとアリサさん!? お、下ろして――」

「だめだってば。えーっと、名前は……レン、教えて」

「……セラさんですよ」

「セラ! いい名前だね! 君は、私の部隊に入るべき人材なんだから、あんな盾馬鹿のところに行っちゃだめだよ!」


 アリサは、目を輝かせて、わたしのことを見上げてくる。

 いや、それだけじゃない。アリサは、私のことを持ち上げたまま、くるくると回転してくる。そのせいで、目が回ってきて、視界がぐらぐらと揺れ、頭の中の重心がどこにあるのかすら分からなくなっていく。

 アリサは楽しそうに笑っているのに、わたしは必死に彼女の肩にしがみつき、落ちないようにするだけで精一杯だった。


「ちょ、ちょっとアリサさん、本当に……ま、回って……!」

「アリサちゃんは軽いねー、もっと食べて身体を大きくしないと」

「待てアリサ! お前は、魔導隊だろ! セラを入れるメリットなんて無いはずだ!」


 オーランドが声を荒げた瞬間、アリサはぴたりと動きを止めた。わたしを抱えたまま、くるりとオーランドの方へ顔だけ向ける。その表情は、さっきまでの無邪気な笑顔とは違い、どこか呆れと怒りが混ざったような、鋭い視線だった。


「メリット? はぁ? あるに決まってるでしょ」


 アリサはわたしを抱え直し、片腕で支えながら、もう片方の手でオーランドを指さした。


「セラの話をちゃんと聞いたの? グレンが最後の突撃の時に、遠くから狙撃されたって。おそらく、スレブルクは新型の銃を開発してる。うちは、盾魔法が苦手な人が多いから、敵から見れば、格好の的なんだよ」


 その顔に、さっきまでの笑顔ではない。部下を率いる立場の人間として、相応しい顔つきに変わっていた。

 アリサの声は明るさを残しながらも、芯の部分だけが鋭くなっていて、わたしを抱えた腕にも、さっきまでとは違う緊張が宿っているのが分かった。


「今から盾魔法を鍛えるとしても、かなりの時間が掛かる。そんなことをするくらいなら、セラを入れて、戦闘に使えるレベルで鍛えた方が早いよ。私達に時間が無いことくらい、君でもわかるでしょ」

「それはそうだが、どうやって鍛えるんだ? お前の隊は、盾魔法を鍛える環境が整っていないと思うんだが」

「そんなの、あんたの隊で鍛えて貰ったらいいだけでしょ。私のためにセラを鍛えて、私のためにセラを差し出して」

「てめぇ、ふざけんなよ!」

 

 オーランドの声が一段低くなり、空気がぴりりと張り詰めた。

 オーランドとアリサ、その二人の言い合いは、お互いに自分のことだけしか考えてなく、常に平行線で、どちらも一歩も引く気配がなかった。

 アリサはわたしを抱えたまま睨み返し、オーランドは拳を握りしめて歯ぎしりし、二人の間に火花が散っているのが見えるようだった。


……そして、この間も、わたしはアリサにずっと抱えられている。


「れ、レン伍長……」

「すみません、私にはどうすることも出来なくて……」


 近くでわたしを見ていたレン伍長に助けを求めたが、レン伍長は目を逸らして、わたしのことを見捨てた。きっと、オーランドとアリサに関わりたくなかったのだろう。この薄情者。


 けれど、そんなことを思ったところで、事態は好転しない。どうにかして、この局面を切り抜けないと……



 そう思った、時だった。


「ここがどこだか、分かっているのだろうな?」


 ダズ少将の、低く、地を這うような声が響いた。その声は怒鳴り声ではないのに、アリサとオーランドの言い合いを一瞬で凍らせるほどの重みを持っていた。空気が変わった。

 さっきまで火花を散らしていた二人でさえ、反射的に背筋を伸ばす。


「少将である儂の前で、そのような言い争いをするとは、なんとも嘆かわしい。ここは、儂の指示に従ってもらうぞ。セラも、それでよいか?」


 静かで、淡々としているのに、逃げ場のない声だった。アリサもオーランドも、首根っこを掴まれたように動きを止め、ダズ少将の言葉を待っていた。


「は、はい……」

「それなら、セラの配属について決めるぞ。――アリサ、お前の部隊で、セラを運用しろ。ただし、その前に、オーランドの元で、盾魔法について学ばせろ」

「あっ」

「は?」

 

 アリサとオーランドの声が、まったく同じタイミングで重なった。

 アリサはわたしを抱えたまま固まり、オーランドは眉をひそめて少将を睨む。アリサの要望が全て通った形に、思考が追いついていないのがはっきり分かった。


「なんで、そんなことを俺が――」

「儂の決定だ、黙って従え。それに、理由もある。お前たちは、まだ新型の銃に対応できるだろう。だが、魔導隊はどうだ? グレンの腕を遠距離から狙撃した銃から身を守れるとは思えん。魔導隊は、良くも悪くも攻撃特化の隊だ。盾を用意するのは当然のことだろう?」


 ダズ少将の声は静かだった。静かだったのに、胸の奥にずしりと響く重さがあった。


 「だからこそ、セラを魔導隊に置くのは理に適っている。だが、未熟なまま放り込めば、守るどころか死ぬだけだ。まずは盾魔法を鍛えねばならん」


 ダズ少将はオーランドを鋭く見据える。


「盾魔法の訓練環境があるのは、お前の隊だけだ。突撃隊は常に前線に立つ。盾の重要性も、盾の使い方も、誰より理解している。セラを鍛えるには最適だ」

「……ちっ」

 

 オーランドは舌打ちを飲み込み、悔しそうに視線を逸らした。


「分かりましたよ、これ以上粘るのも、グレンの奴に叱られそうだし、その命令に従います」


 そう言って肩をすくめると、オーランドはようやく拳をほどき、わたしから視線を外した。

 その瞬間、張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ緩む。


 アリサはわたしを抱えたまま、ほっとしたように息を吐いた。

 けれど、すぐにダズ少将の鋭い視線が向けられる。


「アリサ。そろそろセラ伍長を下ろせ。話が進まん」

「……はーい」


 アリサは名残惜しそうにわたしをゆっくりと地面へ降ろした。

 足が床に触れた瞬間、ようやく世界が安定した気がして、思わず膝が震える。

 そして、レン伍長が慌てて駆け寄ってきた。


「セラさん、大丈夫ですか……?」

「だ、大丈夫……です……」


 声が震えていたのは、回されすぎたせいか、緊張のせいか、自分でも分からなかった。

 ダズ少将は全員を見渡し、短く頷いた。


「よし。これで決まりだ。セラは一時的にオーランド隊で盾魔法を学び、その後アリサ隊で運用する。異論は認めん」


 こうして、わたしの行き先は強制的に決まり――同時に、逃げ場のない未来が静かに形を成し始めていた。

 

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