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【一章完結】TS兵士が戦場で生き残るには~平和な世界で生きていたわたしが、どうしてこんな戦場に!?~  作者: 月星 星成
二章

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友達

「あと、今どんな状況なのか、教えてくれませんか?」

「暇では無いんだけど……ま、それくらいは話せるかな」


 わたしの身体を見終わって、衛生兵がわたしから離れて行こうとした時、ついそんなことを口にしてしまった。

 今の状況なんて、レン伍長に聞けばいいのは分かっている。けれど、衛生兵である彼女は、リナの居場所について知っているかもしれないって思ったんだ。


「今のバリエーヌは、かなり危機的状況なんだよ。何故かスレブルクの侵攻が遅くなったから、こうして誰かを治せるほどの余裕が出来たけど、この都市ももう少しで捨てる必要があるんだ。ある程度の兵士はここに集まってるけど、スレブルクの連中と戦うには少なすぎるからね」


 衛生兵は淡々と説明しているように見えたが、その声の奥には、どうしようもない焦りと諦めが混ざっていた。

 医療者として冷静であろうとしているのに、現実がそれを許していない――そんな声音だった。


「……じゃあ、この都市は……」

「うん。長くは持たない。撤退の準備も始まってるし、負傷者の移送計画も立ててる。でも、全部が間に合うとは限らない。あの一日で、軍の三割以上は死んでしまったからね」


 驚きは無かった。

 わたしは、敵の戦術をこの身で浴びた。だから、アレを受けて、三割以上の兵士が死んだと聞いても、むしろ――少ない、とすら思ってしまった。


 けれど、わたしが知りたいのは、そっちじゃない。

 兵士たちの死ではなく、わたしの友達の生死を知りたいんだ。


「あの……リナって衛生兵はいますか? わたしの友達なんですけど」

「リナ? どこの所属か教えてくれない?」


 わたしがそう言うと、衛生兵は、わずかに眉を寄せた。

 さっきまで淡々としていた彼女の表情が、ほんの一瞬だけ固まる。


「所属……あ、わたしはグレン小隊長って人の下で戦ってたんです。そこの近くの野戦病院で、リナは働いていました」

「あー、あの戦闘狂の。ちょっと待っててね。場所が分かったから調べてくる」


(戦闘狂って……まあ、否定はできないけど、そんな風に思われてたんだ)


 そう言えば、あの野戦病院でもグレン小隊長は嫌われていたな。グレン小隊長は、部下のことをちゃんと見ている人ではあったけど、その戦い方は無茶ばっかりだったから死傷者が多かった。

 戦果は少なくなるものの、やろうと思えば死傷者はもっと少なくできるはずであり、そういう所が嫌われていたんだろう。


(衛生兵と、わたしたちの常識は違うから、わたしはグレン小隊長のことを嫌ってないんだけどね)


 そんなことを思っていると、リナのことについて調べ終えたのか、衛生兵がわたしのところへと戻って来た。

 しかし、その顔はあまりにも重く、沈んでいた。

 口元は固く結ばれ、目はどこか迷っているようで、わたしを見るのをためらっているようにすら見えた。


「……セラちゃん」


 名前を呼ぶ声が、ひどく優しくて、ひどく苦しそうだった。

 その声音だけで、胸の奥がざわつく。


「リナのこと、なんだけど……」

「分かりました。言わなくて、大丈夫です」


 だから、リナが死んでしまったことを察することが出来たんだ。


「……分かってましたから。撤退している途中に、燃えている野戦病院を見て」

「そうだったんだ……。その……」


 衛生兵は言葉を続けようとしたが、喉の奥でつかえたように止まった。

 きっと、どのように言葉を掛けたらいいのか分からなかったのだろう。それもそうだ、友人が死んでしまったことを伝えるのは、とても辛い役目なんだから。


(そっか、死んじゃったんだね。リナは)


 今までは、わたしの側で、大切な人たちが死に続けた。目の前で、手の届く距離で、わたしが守れなかった人たちが。


 でも、今度は違う。わたしが知らないところで、わたしの知らない瞬間に、大切な人が死んでしまった。

 その事実は、胸の奥に静かに沈んでいくようで――けれど、沈んでいくほどに、痛みは濃くなっていった。


 これはこれで、また違う辛さだ。わたしが何をしていても、どれだけ必死に戦っていても、リナは――その時、わたしのいない場所で死んでいた。

 知らないうちに、気づかないうちに、わたしの世界からいなくなっていた。こればかりは、どうしようもない。


「少し一人にさせてくれませんか?」

「診断は終わってるから、少しなら大丈夫だけど……」

「はい、ありがとうございます。友人の死と、向き合いたいので」

「……そっか、何かあったら、呼んでね」


 衛生兵は、それだけ言って、今度こそわたしの側から離れていった。

 この部屋にいるのは、わたし一人。静かだった。外の喧騒も、負傷者の呻き声も、ここまでは届かない。まるで、世界から切り離されたみたいに。


(……リナ)


 名前を呼んでも、返事はない。 その当たり前の事実が、胸の奥をじわりと締めつけた。

 わたしはベッドの上で膝を抱え、額を乗せた。

 涙は出なかった。泣きたいのに泣けない、そんな空虚な感覚だけが残っていた。


(わたしが戦っている間に……死んじゃったんだ)


 その言葉を頭の中で繰り返すたび、胸の奥に沈んでいた痛みが、ゆっくりと形を持ち始める。

 ただ、それを……わたしはずっと、噛みしめていたんだ。



 

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