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【一章完結】TS兵士が戦場で生き残るには~平和な世界で生きていたわたしが、どうしてこんな戦場に!?~  作者: 月星 星成
二章

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狂鬼

「はっ、まさかこんなことになるとはな」

「なんですか? グレン小隊長」


 しばらく歩いていると、急にグレン小隊長が笑い出した。

 腕を斬った痛みで、頭がイカれてしまったのだろうか? いや、頭がイカれているのは元からか。


「変なことを考えなかったか?」

「いいえ、なんでも。それで、なんで急に笑ったのですか?」


 グレン小隊長が、無駄に勘が鋭いせいで、わたしの内心がバレかけたが、何とか話を逸らし、問い返す。

 すると、グレン小隊長は、前を見きながら、確かに笑顔を見せたんだ。


「オレとおまえが二人で共闘するってことだよ。アインの野郎に守られていたおまえに、今の姿を見せてやりたいぜ」


 足が止まった。


 今、グレン小隊長は何て言ったんだ?

 聞き間違え出なければ、今……確かに、アインと口にした気が……。


「あァ? 何で、足を止めてんだよ」

「だって……今……アインって」


 アインがグレン小隊長の下で戦ったのは、わずか四日間しかない。

 それも、活躍なんてほとんどしていなくて、わたしを庇って死んだだけ。わたしにとって、一番の英雄であったけど、他の人から見れば、何もせずに死んだ、ただの新兵。……それを、グレン小隊長が覚えていたなんて。


「覚えて、くださっていたんですか?」

「当然だろ、部品の名前を覚えずに、どうやって戦争に勝つんだよ」


 ああ、なるほど、ルークさんたちがこの人に付き従っていた理由が、ようやくわかった。

 この人は、確かに非情だ。いっつも無茶な突撃をして、そのせいでより多くの犠牲者が出る時だってある。この人のいいところは、戦果を挙げるところだけだと思っていたが、それだけじゃなかったんだ。


 グレン小隊長は、わたしたちを覚えてくれている。


 わたしたちは、何も残すことは無く、戦場で息絶えていく兵士に過ぎない。けれど、誰よりも強くて、誰よりも生き永らえてくれるグレン小隊長は、わたしたちのことを絶対に忘れないのだ。

 それが、わたしたちにとって、どれほどありがたいことなのか。そんなの、言うまでもない。


「グレン小隊長って、兵士に向いていませんね」


 勘違いかもしれないけど、グレン小隊長の本質は、優しい人なんだと思う。

 戦場で、部下の命を守ることなんて不可能だ。だから、その代わりに、兵士の命を最大限に活用し、名前をずっと覚えていてくれる。もちろん、体罰を受けたことも、無茶な突撃を繰り返していたことも、ちゃんとわかっているけれど、 それでも――この人は、わたしたちを、ただの消耗品として扱っているわけじゃない。


「今度はルークの真似事か? 喧嘩を売ってんのなら、今すぐに斬ってやるが」

「はいはい、分かりましたよ。もう言いません」

「そんな目で、オレを見るな」


 グレン小隊長が、わたしの方をちらりと睨む。でも、グレン小隊長の本質が分かった今、それは全く怖くなかった。

 とはいえ、これ以上怒らすのはやめたほうが良いだろう。幾ら本質が優しい人だと言っても、短気であることには変わりないし、わたしたちが役目を全うするためには、グレン小隊長の機嫌を取っておくことは重要だから。


「それで、これからはどうするつもりなんですか?」

「はぁ、変な所がアイツらと似やがって。まぁいい、こっからは一度森の外へ向かう」

「森の外……ですか?」


 わたしたちは、二人しかいない。この状況で、無数の敵兵と戦うには、障害物が多い森の中で戦うのが一番だと思っていた。

 なのに、グレン小隊長は、わざわざ森から出て、敵の部隊と戦おうとしている。正直、狂ってしまったのかなと思ってしまった。仕方がないでしょ、これは。わたしじゃなくたって、こう思ってしまうはずだ。


「なんで、ですか?」

「何でもいいだろ。……いや、気が向いた。少しだけ説明してやる。まずは、何故オレたちがここまで追い込まれているのか、おまえは理解しているのか?」

「後方が襲われたからでは?」

「それだけだと足りないな。後方が襲われないように、警戒していたに決まっているだろ」


 グレン小隊長の声は淡々としているのに、どこか苛立ちが混じっていた。

 わたしは思わず息を呑む。


(……確かに。後方が簡単に襲われるなんて、おかしい)


「じゃあ……どうしてなんですか?」

「これは推測だが、複数の分隊規模の突撃隊を作り、前線の弱いところを同時にぶち抜いたんだろう」

「弱いところ、ですか……?」

「ああ。正面からぶつかるんじゃなく、守りが甘い場所だけを狙って突破する。で、突破したらそのまま後ろへ回り込む。前線なんざ相手にしねぇ」


 グレン小隊長は、片腕のまま淡々と歩きながら言う。

 

「そんな……そんな戦い方、聞いたことがありません」

「だろうな、オレも知らねェよ。セオリーは、一点に兵を集中させて、強引に突破することだったしな。だが、こうでも考えねェと説明がつかねェ」

 

(そんな……方法が……)


 今までの常識とは違う、完全に新しい戦術。それに対応できず、わたしたちは追い詰められた。

 もし、その戦術を思いついたのが、わたしたちの国の方が先だったのなら、追い詰められるのは敵国だったのだろう。先か後か、たったそれだけの違いで、ここまで戦況がひっくり返るなんて――そんな理不尽があるだろうか。


「それで、これからは何をするつもりなんですか?」

「簡単なことだ。この戦術では、都市を落とすことは不可能だ。だから、敵は絶対に戦術を変えてくる。そして、これだけの成功を収めた指揮官だ。それなら――」


 どこからか、歓声が聞こえた。


 わたしは思わず息を呑んだ。森の奥から、風に乗って届くような、しかし確かに――人の声だ。


(……敵? こんな近くに?)


 胸の奥がざわつく。

 けれど、グレン小隊長は足を止めなかった。むしろ、わずかに口元を歪めて笑った。


「ほらな。言った通りだ」


 わたしは、木に隠れながら、森の外を見た。


 ――息を吞む。


 そこには、無数の敵兵がいた。

 今まで戦ってきた、どんな小隊よりも多い敵兵。

 何十とか、何百とかではない……少なくとも二千、いや三千はいると直感で分かるほどの密度だった。


 灰色の軍服が草原を埋め尽くし、銃剣が陽光を反射して一面に光の粒が散っている。隊列は半円状に広がり、まるで巨大な壁のようだった。

 その兵たちが、レン伍長たちが撤退している方角へ、ゆっくりと、しかし確実に進んでいた。


(なに、これ……)


「セラ、これをやる」

「えっ、望遠鏡……ですか? こんな物を持っていたんですか?」

「さっき、死体から奪った」

「いつの間に」


 レンズを覗き込む。すると、敵軍の中央に、無駄に良い服装をしている男がいた。

 深緑の将校服に、潰れたクラッシュキャップ。胸には双眼鏡、肩には金糸の肩章。革のサム・ブラウンベルトが斜めに走り、腰のホルスターには拳銃が収まっている。


 一目で、この軍の総大将だと分かった。

 馬に乗って、兵たちの指揮を執っている。それだけで、どれほどの格式が高い人なのかを察することが出来た。


「これは……」

「この作戦を考えた奴だろうな。あの若さでこの作戦を思いつくなんて、少し悔しくもあるが……まだ甘いな」


 グレン小隊長は、この軍を見て、そんなことを口にしていた。

 けれど、わたしたちにはどうすることも出来ない。敵兵は千を超えるほどいるにもかかわらず、わたしたちは二人しかいないのだ。頑張れば、十数人は殺すことが出来るかもしれないが、この軍全体に比べれば雀の涙程度の人しかおらず、傷にすらならない。



 でも――



 でも――


 

 あの狂鬼は――



「セラ、今からアレを殺すぞ」



 理性のある目をしながら、狂気に染まった言葉を口にしていた。

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