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第三十二話 奇跡

かつてない規模の天災を起こした邪龍。戦闘が可能な天使は壊滅し、警備団の中の最高戦力のフューエルでさえ致命傷を負った。そのレベルの相手に、果たして警備団は抗えるのか。

守護龍がカオスの介入により邪龍へと変貌し、とてつもない規模の爆発が引き起こされる。その爆発は、東京全土を巻き込むほどの被害をもたらした。

フューエルが緊急で出したウォールコアや防御特化の天使達による防御も虚しく、地平線が見える程の範囲がほんの一瞬で更地に変えられてしまった。

何百キロも吹き飛ばされバラバラになった警備隊。もう自分を襲う者はいないとでも高らかに宣言するように、降り立った邪龍は咆哮を上げる。

フューエルは海の方向に飛ばされ、幸いそこまで高い位置にはいなかった為海がクッションとなりギリギリ生存することが出来た。しかし、既に重症な上ヴァルキリーのメインフレームの半分ほどが失われている。


フューエルが目を覚ましたのは、船の上だった。

《起きた!!!!!やっと起きた!!!!!!!!!!!!!!!!皆!!早く水!!》

霞んでいる視界。ドタバタと走り回る船員と、真横で大泣きしているオーシャンがうっすらと見えた。その横には、天界屈指の医者であるシューティングスターの姿もあった。

《生きてるのが奇跡だよ…。あの規模の爆発じゃ、ほとんどの隊員は死んじゃったか…生きてても五体満足かどうか…。》

《エルエル元に戻るよね??ねぇ……》

《…それはフューエルの体次第かな。どの道もう戦わせるわけには…》

二人が話している中、フューエルは全身に包帯や献血の管が繋がれている事に気付く。

《(体が動かない…声も出ない…何があったんだっけ…あぁ…そうだ…爆発が起きたんだ…ストライクは…皆は…どうなった…邪龍は…)》

思考がだんだんクリアになっていった時、様々な事に気付く。

《(右目が見えない…足の感覚も無い…私はどうなった…?)》

微かに動かせた頭を左に向けると、大きく破損したヴァルキリーと、それにリンクしていた壊れたカチューシャが置いてあった。

《スターさん!!エルエルげんきになるんだよね!?!?》

《落ち着いて…今泣き叫んでも何も良くならないから…》

《だって!!エルエルが!!!》

シューティングスターが自身を揺さぶるオーシャンの頬を叩く。

《良い加減にして!!今動ける天使は少ないの!!私達が冷静にならないと何もかも悪い方向に進むでしょ!!今はあなたが頼りなの!!!》

今まで一度も怒号をあげた事のないシューティングスターが初めて声を荒げる。能力の出力を抑える為に閉じていた目が開きかけるほどに。

《……兎に角、生きてた子を最優先にして私のとこに集めて。辛い気持ちは分かるけど、いつまたあの邪龍が起きて暴れ出すかわからない。今は刻一刻を争うの。頼んだよ。》

オーシャンは頷き、船から降ろしていた板を伝い生存者の捜索へ向かう。天界に残っていた対災害特殊救助隊が全員で出動している。隊の天使達が飛んでたり瓦礫をどかしたりする中、オーシャンはただ一人走り回って自身の探せる狭い所へ入って行った。


《…フューエル…》

シューティングスターが自身の治癒能力を使いフューエルの傷を少しずつ治しているが、今までとは比べ物にならない程の重症の為なかなか治らない。しかし、集中治療の効果あってか起き上がって話せるほどまでは回復した。

《……スターさん…私以外の…生存者はいますか…》

《…今捜索出来た限りだと、残念ながら。》

《…私のせいです…。私が安易にあのキャノンを撃たなければ…》

《それは結果論。貴方の判断は正しかったと思うよ。誰もこんな事になるなんて予想は出来ない。》

《…でも…その結果がこのザマです…。沢山の人と仲間を死なせただけでなく、これだけの被害が出た…。私は……》

その時、オーシャンの船に円柱状の光が現れ、それが砂時計のような形に変化し回転を始め、消えると同時にエデンが現れる。

《…体も国も大変な事になったね、フューエルちゃん。》

《………………》

フューエルは気まずそうに顔を逸らす。

《正直、私もここまでの強さと被害は予想してなかった。…流石に、目に余るね。》

エデンが手をかざすと、ヴァルキリーとフューエルの体があっという間に治る。シューティングスターは驚いているが、エデンは構わず話し続ける。

《今私が使った力は治したんじゃなくて巻き戻しただけ。一定の期間が過ぎれば元に戻っちゃう。それに何度も使える力じゃない。…フューエル。言いたい事、分かるかな。》

《……》

《今回は確かに、エネルギーを利用された。その結果のこれだけど、あのまま皆が攻撃を続けても、いつかはこうなってたよ。あの邪龍は受けるダメージを自らの力に変えてるみたいだからね。》

《………私は…もう…》

フューエルの言葉を遮るようにエデンが手を差し出す。その手には、白いフレームに金色の装飾が施されたコアと、金の装飾が青くなったものの二つのコアがあった。

《…これは…》

《これは団長でも、天界の長でもなく、“私”からのお願い。…頼んだよ、フューエルちゃん。希望は捨てないで。》

エデンが二つのコアをフューエルに握らせ、天界へと一瞬で戻って行った。

《……スターさん…私に…出来るでしょうか…。》

《…あの人は、意味もない事をしない上に絶対に地上には降りてこない。そのエデンが降りて来て、エデン個人としての願いを託した。…それは、あなたにしか出来ないって確信があるからじゃないかな。》

《…なら、これは私の戒めであり…償いです。必ず、奴を…邪龍を仕留めます。》

フューエルが覚悟を決め、二つのコアを握りしめた。

三十二話です。神の名の下に。

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