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鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜  作者: 犬斗
第三章

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第48話 討伐準備

 出張所では医師による検死が行われ、死亡した六人は正式に毒死と判断された。

 毒死は騎士団の規律で火葬と決まっている。

 適切な処理が行われ迅速に火葬された。

 遺族には十分な保証があるそうだ。


 俺たちも念の為に解毒作用がある薬草を煎じて飲む。

 恐ろしく苦い薬で驚いた。


 火葬を見届け、俺とレイ、トレバーと現場にいた二人の騎士、そして新たに招集された騎士二人、合計七人が会議室に集合。

 トレバーが厳しい表情で全員を見渡す。


「今回の件は皆に申し訳なく思う。しかし、相手が霧大蝮(ネーベルバイパー)と分かった以上、騎士団としては全力で討伐する」

「やってやります!」

「敵を討ちます!」


 隊員たちの士気は高い。


「今回は皆も知っての通り、レイ・ステラー団長が討伐に参加してくださる」

「よろしく頼む。しかし、私はすでに団長ではない。トレバーよ。私のことはレイと呼ぶように」

「か、かしこまりました、レイ様」


 続いてトレバーが、俺に視線を向けた。


「レイ様と同じく冒険者のアル殿だ」

「アル・パートと申します。よろしくお願いします」

「ではさっそく会議を行う」


 ネーベルバイパーは、非常に危険な毒を撒き散らすモンスターだ。

 接近すると闇雲に死亡者を増やす可能性が高い。

 そのため、討伐方法は毒霧を浴びないように遠隔武器を使用する。

 現在は火矢による攻撃が主流だ。


 今回は小隊から周辺警備や消火隊、衛生兵として三十人を編成。

 そして、この作戦会議に参加している七人が火矢を放つ。 

 今回新たに招集された騎士は、弓が得意な騎士たちだった。

 細かい作戦の打ち合わせを行い会議は終了。


「そういえばアル。あなた、弓は使ったことあるの?」


 レイが俺の肩に手を乗せてきた。


「いや、実はないんだ……」

「そうよね。いつも投石だものね。あの投石も凄いけど……。いいわ、弓を練習しましょう。アルの視力なら、きっと良い射手になるわ」


 トレバーに弓を用意してもらい、訓練場で弓を練習することになった。

 レイから弓の持ち方や構えを教えてもらう。

 レイは弓も名手で、騎士団の弓術大会でも優勝経験があるらしい。

 俺の剣の師匠はレイだが、弓でもレイが師匠だ。

 その姿を見たトレバーが「レイ様が人に教えている」と驚いていた。


 俺は教わった通りに弓を構え弦を引く。

 すると、射る前に弓が真っ二つに折れてしまった。


「あなたの力、忘れてたわ……」


 レイが呆れている。

 仕方がないので、この出張所で最も大きい弓を用意してもらった。

 長さは二メデルトを越える長弓(ロングボウ)だ。


 もう一度弓を構え射る。

 凄まじいスピードで発射された矢。

 的の藁人形にかすった程度だったが、かすった部分が抉ぐれていた。

 レイとトレバーの声が聞こえたような気がしたが、俺は的に向かって集中。

 もう一度弓を射撃。


「ふう、ちゃんと当たったぞ」


 見事に命中し、藁人形が爆発したかのように跡形もなく吹き飛んだ。


「ちょ、ちょっとアル。あなた人外にも程があるわよ」

「え? え? レ、レイ様、こ、これは一体……」

「トレバー。アルの力わね、常人のそれを遥かに超えているのよ」

「そ、そうは言っても……。的が爆発するなんてありますか?」

「ふふふ、本当にそうね。アルって凄すぎて私もよく分からないのよ。だって、初めて剣を握った日に、真剣勝負で私と引き分け、いや勝つほどなのよ?」

「そ! そんなことがあるのですか! 隊長クラスでもレイ様には敵わないというのに……」


 トレバーが怪物でも見るかのような表情で、俺を観察していた。


 俺は気を取り直し、集中して弓を引く。

 何度か繰り返したところで、弓を射る方法は理解した。

 あとはひたすら練習して身につけるしかない。

 反復練習あるのみだ。


 トレバーの許可を得て、その後三百本ほど練習。

 その間に五回も弓を壊していた。

 トレバーには弓代の請求をしてもらおう。

 練習を終え、俺とレイとエルウッドは宿へ移動。


 騎士団の駐屯地で宿泊を勧められたが、そこまで甘えるわけにはいかないと遠慮した。

 それに今夜は、騎士団で弔いと決起会も行われるだろう。


 今日の宿は一人銀貨二枚。

 宿を探す時間が遅かったことで安宿に空きがなく、いつもより高い宿を取ることになった。


 宿に関しては、元騎士団団長でAランク冒険者のレイを、安宿に泊めてもいいのだろうかという疑問は常に持っている。

 レイは笑いながら「どこでもいいわよ」と言っているが、駆け出しの冒険者である俺とは格が違う。

 だが、俺と宿を別にすると言うと、それはそれできっと怒るだろう。


 色々と考えた結果、安宿で部屋を別々とすることにした。

 レイは一緒でもいいと言っているが、そこはしっかりとわきまえている。


 夕食後、レイが俺の部屋に来たので一緒に珈琲を飲む。


「アル。あなた、モンスターの討伐は初めてよね?」

「うん、そうだね」

「いきなりBランクの霧大蝮(ネーベルバイパー)は大変だけど、試験を受けることを考えれば良い経験になるわ」

「どういうこと?」

「Dランク以上の冒険者試験は、共通試験とは別に討伐試験が必要なのは知ってるわよね?」


 レイがメモ帳を用意。

 そして、冒険者試験の内容を分かりやすく図にしてくれた。


「討伐試験は一人でモンスターの調査、発見、追跡、討伐、報告をしなければならないのよ」

「一人で!」

「そうよ。試験に適したモンスターが選ばれるから、一人でも討伐できるようになっているの。複数名の試験官が監視するから不正はできないわ」

「へえ、そうなんだね」

「試験ランクが上がれば、当然選ばれるモンスターも強くなる。だから、上位クラスであるBランクのモンスターを経験しておけば、試験は楽になるわよ」

「なるほど。ちなみに、そのネーベルバイパーが試験対象になることはあるの?」

「いいえ、ネーベルバイパーが選ばれることはないわ。毒の危険性はAランクレベルだし、何よりネーベルバイパーの討伐セオリーは大人数なの。だから単独での討伐は絶対に無理なのよ」

「それほどネーベルバイパーは危険なんだ」

「そうよ、今日だって一瞬で三人の死者が出るくらいだもの……」


 嫌なことを思い出させてしまった。


「ごめん。明日は頑張るよ」

「そうね。無理だけはしないように」


 その後も少し会話をして、レイは自室に戻った。

 俺も明日の無事を祈って、部屋の蝋燭の火を消す。

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