捜索と殺意1(碧龍視点)
時は少しさかのぼる。
「翠花が帰らない?」
いつものように封家を訪れた碧龍は、翠花の祖母の言葉に背筋を凍らせた。
翠花は寄り道をしたり、勝手にどこかに行くことはない。特に今回はラウのおつかいである。頼まれた品物を持ってどこかに行くとは考えられなかった。
ラウから、職人の工房の場所を聞き、駆けつけると、いかつい顔の職人は、品物を渡した後の事はわからない、と言った。
工房を出たところで、職人らしい女性に挨拶される。
碧龍の動きは素早かった。
一緒にいた青河ですらどきりとするような色気を放ち、微笑むと、さりげなく相手と距離を詰め、二人の世界を構築する。
(色仕掛けだ・・。久しぶりに見た・・。)
なりふり構わず情報を得ようとしているのを察知し、青河は不自然にならないように距離をとって気配を消す。
(翠花さん、碧龍様のあれは、あなたのためなんです!!分かってあげてくださいね!!)
なんとなくこの場にいない翠花にいいわけをしつつ、待つこと数分。
女性が顔を赤らめて工房にはいるまで、色気全開でいた碧龍は、その姿が見えなくなると一転、身体中から冷気を放った。
「領主の屋敷に行く。もし、息子が関わっていたら、絶対に許さない。」
もし、と言いながら、妙に確信めいた言葉だった。
(たしか、海里、といったかな。彼、翠花さんを口説きにかかってたのは確かだと思うけど・・。)
翠花はおそらく気づいてもいなかった。
ちょっと不憫にすら思っていたのだが。
(関わっていたらヤバイな。)
青河は、焦りのために嫌な汗をかき始めていた。
碧龍の冷気は、もはや、殺気に近かった。
海里の父親は、顔色は悪かったが、捜索には協力的だった。海里は今朝出掛けたまま、やはり戻っていないらしい。
いくつか彼が行きそうな場所を聞き、行ったが、足取りはたどれない。
分かったのは、あの爽やかなイメージとはやや釣り合わない場所に、意外といろいろ出入りしていたことだ。少なくとも、世間知らずのお坊っちゃんでないことは確かだ。
仲間と翠花を拐うのも、あり得なくはない。
「くそ!どこだ!!」
髪をかきむしる碧龍に、とりあえず封家の奥様にも聞いてみようと提案し、青河は若干ひきずるように翠花の祖母の家に連れていった。
「・・なるほど。可能性はあるかも知れないけど・・。」
事情を聞いた祖母は、歯切れの悪い返事をする。
「場所に心当たりは?」
「一応、領地内の廃屋や空き家は把握してるけれど。」
そう言って地図を出してきた祖母がいくつかの箇所に印を付けていく。
(さすが、「封家の奥様」・・。)
青河が内心感心していると。
「おい。さっきから、何か気になる話をしているが。」
部屋に入ってきたのはラウだ。
簡単に事情を説明すると、顔色が変わる。
「時間が惜しい。かたっぱしから当たるぞ。」
焦れた碧龍がそういうや否や出ていきかけるのを、
「いや、ちょっと寄り道の可能性もあるんですからしばらく様子を見たら・・」
と止めかけると、
「「翠花が危険かもしれないのに待てるわけがない!!」」
と、碧龍に加えてラウが同じセリフを返してきた。
(こわ!この二人似てる!!)
青河が顔に出さないようにドン引きしていると、ラウが詰め寄ってくる。
「翠花は、風砕から品を受け取ったのか?」
「・・はい。何かあったとしたら、そのあとです。」
こくこくと頷きながら答えると、
「なら、場所が分かるかもしれん。」
ラウは、祖母に一杯の水を頼み、おもむろに自分の耳飾りを外した。
祖母が器に水を持ってくると、ラウはそれを飲まず、耳飾りをそこに浮かべる。
「・・翠花が持っている首飾りには、特殊な石と術が施されている。離れていても、こうすれば互いを感じられるように。」
そう言いながらラウが耳飾りを尖った方に向けて一撫ですると、水の中でそれはゆっくりと回転し、ぴたりと静止した。
「地図を。」
ラウの言葉で我に返った碧龍たちが地図の向きを合わせると、その方向をたどる。
「・・ここか!!」
今はラウの言葉を信じるしかない。
そしてもう一つ。
(待ってみたらと言ってはみたものの・・。)
青河は知っている。
碧龍の「勘」は大抵正しい。
(考えたくないけど、翠花さんは、たぶん本当に、危険な状態にある。)
隠しもせずに殺気を放つ碧龍を見ながら、青河はいろいろな意味で、冷たい汗をかいていた。




