偽りの好敵手?5
「・・ん・・。」
翠花は薄く目を開けて、身じろぎをした。
寝室のベッドに寝かされている。
(たぶん、薬をかがされた。海里くんが・・。)
あのときのやり取りの意味を、都合よくとらえることは出来そうにない。
翠花は、海里によって拐われたのだ。
「!」
今更ながら、翠花は自分の格好に血の気がひく。
(服・・着てない・・。)
シーツを身体に巻き付け、握りしめる。
どうなっているのか、思考が停止してしまっていた。
今着ているのは薄い下着だけだ。誰かに脱がされたのだというのははっきりしている。
(でも、なんのために?)
落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせながら無意識に眼鏡を求めて普段の自分の配置ならあるはずの寝台脇の台の場所にてを伸ばしかけた翠花は、そこで初めて手首に違和感を覚えた。
何かに阻まれて腕が伸ばせない。
「!」
少し可動域があったために気づくのが遅れたが、翠花の両手首は拘束具がつけられ、寝台の柱につながれていた。
引っ張ってもびくともしない。
少なくとも逃げ出すことはできなさそうだ。
それをようやく認めた時、ガタン、と音がして誰かが部屋に入ってきた。
なんとか相手の顔を見ようと、翠花が思い切り目を細めると、相手が困ったように息を付きながら笑ったのがわかった。
「そんなににらまないでほしいな。悪いのは僕だけど。」
「海里君・・。」
なんとなくそんな気はしていたが、それが確信になり、翠花は少し力を抜く。
「そうそう。力を抜いて話そうよ。僕、翠花ちゃんの顔、結構好きなんだから。」
軽薄な話し方。顔は見えなかったが、恐らく、それまで見慣れていた誠実そうな顔ではないのだろうな、と翠花は想像する。
海里はそのまま近付き寝台に手をついた。
ぎしっと音がして翠花はびくっとわずかに動く。
「・・きれいな肌。」
海里の指が翠花の髪をすき、そのまま肩をわずかになでる。
「・・っ!触らないで下さい。」
翠花が身をよじって避けると海里はフッと息をつき、寝台の横にあった椅子に腰かけた。
「大丈夫。なにもしないよ。翠花ちゃんが僕に協力してくれるなら、君にも、君の大切な人にも傷一つつけないし、無事に返してあげる。」
(・・海里君のセリフが、完全に悪役のそれだわ。)
翠花には、正しく変換されて聞こえる。
(要するに、協力しなければ、どうなっても知らないよと・・。しかも私以外も。)
「協力?」
それでも、海里から出された解放の条件は気になって聞き返すと、海里は再び、翠花にぐっと顔を近付けた。
近眼の翠花にも、見えるくらい近くで。
形の良い唇が美しく弧を描き、状況が違えば見とれるかもしれない笑顔で海里は言った。
「翠花ちゃん。僕と結婚して?」
「・・え?」
突然の求婚に、翠花はかすれた声でそう返すことしか、できなかった。




