偽りの好敵手?4
その日は朝から来訪者があった。
「翠花。やっぱり気になるんだ。」
来たのは、碧龍である。
「おはようございます。えっと・・何が?」
翠花は目を泳がせた。
心当たりは、ある。
「あの、海里って男、どういう関係なの?」
「ああ、えーと。海里くんは、碧龍様のことを王都の官吏だとおもっていて。私が嫌がっているなら、恋人のふりをしてあげようと思って下さったみたいで。」
「ふーん。・・で、翠花は嫌だから頼んだの?」
悲しそうな顔になる碧龍に、なぜか慌てる。
「いえ、お断りしました。えーと。海里くんになんの利もないですし!」
「それだけ?」
碧龍は悲しい顔のまま聞く。
(それだけ・・かなあ?)
翠花は即答を躊躇った。
なんとなく、今の碧龍との関係に、誰かが介入してくるのが嫌だった気持ちもある。
しかしそれは、言葉にしにくいものだった。
「即答じゃないだけ、許してあげるよ。」
碧龍が何か、分かったように笑う。
それが、何だか嬉しそうで、翠花はどぎまぎしてしまった。
碧龍は、ラウと話があるとかで、そのままラウの部屋に向かう。
祖母が用意してくれた昼ごはんを運び、自分の分を食べて、翠花は例のアトリエに向かった。
「おお、早かったな。」
今日は風砕が出迎えてくれた。
「こんにちは。風砕さん。・・できていますか?」
尋ねると、風砕がにいっとわらう。
「ああ。これだ。」
昨日と同じように箱を開けて見せてくれたが、中身は違いがほとんど無いように見える。
「まあ、持ち帰ればわかる。あと、これは、良かったら藍玉の忘れ形見に。」
忘れ形見、が翠花を指していることは、彼が翠花の手を取り、シンプルな腕輪をはめてくれたことで気づく。
「そんな!いただけません。ただのおつかいですから。」
慌てて返そうとする翠花を風砕は留める。
「もともと、代金もらいすぎてるんだよ。その分と、あとは藍玉との約束、だな。俺がそうしたいから渡すんだ。こういうのは、おとなしくもらっておけ。」
そう言われると、断りづらくなり、翠花は結局受け取った。
(代金もらいすぎ・・ということは、ラウさんに聞いてみたらいい・・かな。)
箱を大事にしまい、ふと腕輪に目をやると、測ったかのようにぴったりとおさまるそれは、光を反射してキラキラと輝いた。
「ありがとうございました。」
礼を言ってアトリエを出た翠花が帰ろうとした時のことである。
「やあ。偶然だね。」
明るい声がして振り返ると海里がいた。
「こんにちは。前回は、すみません。」
せっかく偽の恋人作戦をしようとしてくれたのに、微妙な雰囲気にしてしまったことを謝ると、海里は明るく笑った。
「いや、いいって。それより、今からお茶でもどう?」
「あ、今からはちょっと。ラウさんのおつかいの途中なんです。」
「・・そう。・・他の子ならおつかいなんて適当にごまかしてこっそり来るのに。」
普通に答えただけなのに、海里は、温度の低い声で言う。
「海里くん?」
「ああ、じゃあ、送るよ。」
その笑顔に、翠花はなんとなく違和感を覚える。
ただ、断る理由もなく、そのまま海里に並んだ。
「翠花ちゃんてさ。結構鈍感だよね?」
海里への違和感は消えない。
「・・そうですか?」
「うん。なんかさ。駆け引きめいた会話ができないっていうか。かわされる感じなのに、気づかれてもないっていうか。」
(どういうことかな?)
翠花は素直にわからないのだが、海里は苛立っているように見える。
「うん。君の好みかなと思っていい人ぶってみたけど、もういいかな?」
人気のない道に入った時、海里が立ち止まる。
「海里君?」
そのまま数歩歩いてから気づき、振り返った翠花は、
「!?」
そのまま何者かに後ろから薬をかがされて、力が抜けてしまう。
(海里・・君?)
最後に見えた海里の顔は、なぜか泣きそうに見えた。




