運命の目的2
「・・だめだったかな?」
青年は、約束の場所で一人、呟く。
みんな、わがままだ。
自分勝手で、卑怯。
そうでない人間は、いつだってそういうやつらに蹂躙される。
「でも、今起きていることは全て、俺のわがまま、だよな。」
独り言を言いながら苦笑いする。
そのわがまま、は、最初はたんなる駄々のようなものだった。
今は、二つの国を巻き込んで、大事になりつつある。
あまりに不確定な要素が強く、成功するとは到底思えない作戦に、『彼』が乗ったのは、一つは相当投げやりになっていて、自分の意志がほぼなかったから。もう一つは、唯一の心残りを刺激したからだ。
『彼』が、青風国で出会った女性の話は、子どものころに聞いてからずっと心に残っていた。
だから、わざと逃げる先を青風国の西の町にしたのだ。
渡した物語をあの子・・翠花は読んだだろうか。
青年が、暗号のために書いた本。
それ以外の用途はなく、ストーリーを気にするものなどない。
それでも、もし、真実が認められる日が来たなら、青年が書いた物語をありのままに受け止めてくれる読者が現れるかもしれない。
できればそれは、翠花のような読者であってほしかった。
「巻き込むつもりで渡したくせに、ね。」
青年はまた、自分の身勝手さに苦笑いする。
翠花が、封家の奥様の孫だと分かっていて、試したのだ。
賭けに勝てる確率は高くない。
でももし、翠花が、自分で暗号を解いて、封家の奥様に伝えてくれたなら。
道が拓けるような気がしていた。
「まあ、無理だよね。」
時間を確かめて、立ち上がった時。
「・・あなたが、現皇帝、だったんですね。」
鈴がなるような声がして、振り返ると、そこに翠花が、いた。
「やあ。やっぱり暗号を解いていたんだね。」
青年、鳳白国の現皇帝、雪 鷹凰は微笑む。
「それで・・希望はあるのかな?」
「その前に、あなたの口から聞かせてください。あの暗号だけじゃ分かりませんから。」
続いて碧龍と青河が来る。
碧龍は続けた。
「もし、僕達の考えが合っていたら、もしかしたら力になれるかもしれない。」
「封家の奥様は?」
「祖母は、私たちに任せると言いました。今は当主ではないですから、限りはあると思いますが。」
鷹凰は、少し考えたが、すぐに微笑んだ。
「分かったよ。話そうか。・・君はあの物語を読んだの?翠花。」
翠花が頷くと、鷹凰は言った。
「あれは、俺の、父親の話なんだよ。父は、当時の皇帝の妻に恋をして・・皇帝を弑して全てを手に入れた。その妻は、既に一人、息子を産んでいた。俺と、元皇弟殿下は、異父兄弟なんだ。」
「前皇帝も、その前の皇帝を暗殺していた・・?」
碧龍が呟くように言う。
「そう。そして、罪のない当時の皇弟に罪をなすりつけて投獄し、処刑してしまった。俺が生まれた時に母は亡くなって、前皇帝は俺を母のかたきのような目で見続けた。もう、一族はめちゃくちゃだったんだ。」
そして、形を変えて同じことが起こった。
今度は皇帝が、弟殿下に弑され、皇太子が皇帝になった。
「皇弟・・叔父は、俺に家族として、一番まともに接してくれた人だったよ。そして、彼が、前皇帝に引導を渡して、自分から罪を認めてしまった。」
鷹凰は、弱々しく微笑んだ。
「皇帝として間違っていても、俺は叔父を、『狼』を助けたいんだよ。力を貸してくれないか?」
期待はあまりしていないような言い方。
翠花は黙って碧龍を見た。




