そうか、これがリターナーか
アキラは嫌悪感丸出しの顔で、コートと服の袋を持っていた。
「思ってたよりひどい匂い……」
「まあ、それは……」
「はいはい、わかってる。死んだとか、なんとか、その服を着てたとか」
「死というものを、ずいぶん変わった見方をするんだな」
「変なのはあんたでしょ、何でもないことみたいに言うんだから」
「……お前も同じことをしているが、アキラ」
彼女は口を開けたが、声は出なかった。何かを思い出したのか、服を落とすと彼を指差した。
「なんであんたがそう思うのか、今わかったわ。ふ、ふ、ふ……」
彼女は部屋へと走っていき、ディスクを持って戻ってきた。何かの機器と一悶着した後、テレビをつけた。
「臭いその服を洗いに行ってる間、お風呂の準備をしておこうと思ってたんだけど」
「臭いのはもうわかった」
「全然わかってないと思うけど。でも、私が戻るまでにあんたが溺れるのも心配だから。この動画でも見せておいた方がよさそうね」
「動画?」
「聞かないで、ただ見てて」
アキラはリモコンのボタンをいくつか押した。テレビの映像が動き出すと、在は黙り込んだ。
「たしかこの辺に……あ! これだ。リターナーについて集めた情報のまとめよ」
「PLAY」のアイコンを押すと、動画が再生され始めた。
在は数秒だけ画面を見て、アキラの方を振り向いた。
「この世界には、ひどく小さい人間がいるんだな」
「中に入ってるわけじゃないから」
「なら、あれはどう説明する」
「いいから……画面を見て」
司会者が説明を始め、いろいろな用語を説明する文字が画面に現れた。
「うーん、こんなに文字があったなんて覚えてないわ」
「どれくらいこれを見てないんだ」
「この動画作ったの、三週間くらい前だと思う」
「もう内容を忘れたのか」
「そんなのどうでもいいの。文字は無視して……どうせ全部説明してくれるから。たぶん」
「読めるが。そこには、リターナーが現れ始めたのは五ヶ月前だと書いてある」
「読めるの!? じゃあ記憶が戻ってきてるじゃない! 思った以上に……まさに計画通りね」
「その記号なら、問題なく読める。なぜ知っているのかはわからないが」
「私の希望を壊すのやめて。まあ、この動画で記憶が戻るかもしれないし、少なくともこっちの世界についての情報にはなるから」
「俺の世界ならよく覚えている」
アキラはしゃがんで服を拾い上げた。
「こっちの世界の話よ。すぐ戻るから、何も触らないで、ちゃんと見てて……あと、息はしていいから」
「わかっている」
アキラは服から顔をそむけ、隠す気など全くない顔をしかめたまま、部屋を出ていった。
「よし、それならこの芝居でも見てやるか」
動画には、何もない場所に幾筋もの光が現れる様子が映し出された。光が消えると、そこには人がいた。若者、大人、そしてごくわずかな高齢者。
そのすべての人々は、痕跡ひとつ残さず姿を消していた者たちだった。ドキュメンタリーは続けて、彼らの帰還が社会に与えた衝撃を伝えた。
最大の理由は、何年も行方不明だった者もいれば、数か月だった者もいる一方で、多くの者が消えたその日のうちに、消えた時と同じ年齢、同じ姿、同じ服装のまま戻ってきたことだった。
ドキュメンタリーはインタビューへと移った。混乱した様子で「ヴァレンシア王国」について語る若者。次に、魔王とやらに怯える者。完璧な人生だったのに、あっちに帰りたいと文句を言う若い女性。
いくつもの証言の後、この現象は分類された。ある者は「転生」を経験していた。別の世界で、別の体で人生を送っていたのだ。またある者は「転移」を経験していた。自分の体のまま、別の世界に送られたのだ。
「だが、転移した者たちも、戻ってきた時に体に変化はなかったんじゃないのか? それは妙だな」
そう考えていると、二回目の事象が映し出された。再び光、再び人々。だが今度は、インタビューをしているのは明らかに緊張した様子の赤毛の女性だった。
「さっき出ていったばかりなのに、なんでそこにいるんだ?」
画面の中のアキラは、ある男性に近づき、何とか何があったのか尋ねていた。男は異様なほど興奮した様子で話し、自分は影の獣たちと戦う軍を率いる指揮官だったと叫び、重要な戦いの最中に意識を失ったところで話は終わった。
何度かインタビューを重ねるうちに、アキラは覚えている最後の瞬間について、ずっと自信を持って尋ねるようになっていった。ある者は、病で寝台の上、目を閉じたのが最後だったと語った。別の者は、本人いわく壮絶な戦いの末に敗れたのだと語った。
ある者は、見たこともない果物を喉に詰まらせていた。
……
そこで突然、動画の予算が露骨に跳ね上がったのがわかった。説明するアキラまで、心なしかさっきより輝いて見えた。
徹底的な調査の末、一つの説が受け入れられるようになった。行方不明者たちの人生は、別の世界で一度終わりを迎え、送り返されるまでの間、狭間の状態にあったというものだった。
「あれ、本人も信じてないみたいだな」
若くして戻ってきた者たちへの対応として研究所が作られた経緯が説明された。三度目の事象。大人になって戻ってきた者たちのためにギルドが作られ、最初の扉が現れたことでその役割がどう変わったかも語られた。
在は動画に映る扉を見た。今朝目にしたものとは、違うもののようだった。動画の中のアキラは、扉について何も説明しなかった。
そこで新しいコーナーになり、ケイコが登場した。
「ああ……あのプロか」
ケイコは真剣な様子で、大勢の人間が消えることになった事象について語っていた。ケイコの真剣さのせいなのか、それとも同じような話を何度も見たせいなのか、在は少しずつ、心の中の戦いに負けつつあった。
少し前、アキラは建物を出て一区画歩き、クリーニング店に入っていった。
「イオリさん。洗濯物持ってきたんだけど」
ひどく低い声で面倒くさそうに唸りながら、大きな眼鏡をかけた男がカウンターの奥から出てきた。
「渡辺ちゃん……もう少し早く来られないの?」
「遅くまで仕事してるの、知ってるでしょ。それにアキラだから。アキラ」
「はいはい。好きな洗濯機使っていいから……」
「ありがと」
イオリは顔を上げると、驚くほどの俊敏さでコートを掴んだ。
「アキラちゃん!」
「な、何!?」
「これをそこで洗っちゃダメ、傷んじゃう」
彼女は、イオリが変な声を上げながらコートを抱えて素早く去っていくのを見つめた。
「あああっ、あああっ! 見て、この生地の質、とんでもないレベルで補強されてる。防御力に対してこの重さは完璧。しかも隠しポケットまでいくつもあるし。あああっ!」
(また始まった……)
「そんな……!」
「はっ!? な、何、何なの!?」
「見てこの穴と裂け目。こんな状態のまま放っておけない」
「待って、イオリさん。そのサービス代なんて払えないから」
「この芸術品をこのままにはしておけないの、アキラちゃん。お金なんて取らないから……」
イオリは、率直に言って不気味なほどの丁寧さで、コートをカウンターに置いた。
生地を撫で始めた。
「ねえ、あなた、何でできてるの? どうしてこんなに悲惨な状態になっちゃったの?」
アキラはため息をつき、シャツとズボンを洗濯機に入れた。
(大げさすぎ)
「ああ……わかったわ、かわいい子。そう、私に全部話していいのよ」
アキラは、汚れた布切れと非常に親密な会話を交わしている男を、できる限り無視しようと努めた。
「わかったわ、あなた……新品同様にしてあげる。ずっとそうあるべきだったように、輝かせてあげるから」
眼鏡を直すと、彼の目つきが鋭くなった。アキラは面倒くさそうな顔をやめ、彼をじっと観察し始めた。
イオリは裁縫道具の入った箱を取り出した。開けた瞬間、かすかなオーラが漂った。
針に糸を通し、正確な手つきでコートを縫い始めた。
(異世界の能力を目にするのには、まだ完全には慣れないわね)
イオリの目は、コートから一瞬たりとも離れなかった。
「アキラちゃん。これ、残留接続から来たもの?」
「ううん、リターナーが着てたものよ」
生地の傷が一つひとつ塞がっていく。治された痕跡すら残らなかった。
「そう。こんなの初めてね。それで、そのリターナーはいつ現れたの? 到着のニュースは全部見たけど、私の担当分でも、他の二件でも、こんな逸品は見なかったわ」
「彼は……今日、現れたの」
「それは興味深いわね。分類官のところにはいつ連れていくの?」
「あ……そうだった……あの人には……明日の朝早くに」
イオリはコートをその輝かしい姿へと戻し終えた。両手を生地の上に置くと、青白い光がこの男の心を奪ったその衣服を完全に包み込み、少しずつ汚れが落ちていった。
手当てが終わった時、コートは直っているどころか、新品になっていた。
「メンテナンスでも、クリーニングでも、手当てでも、愛情でも、必要な時はいつでも持ってきていいって伝えて。同調率35%しかなくても、私の腕に敵う者はいないから」
「戻ってきた時は20%じゃなかったっけ」
「あの頃の力のまま20%で戻ってきてたら……クリーニング店なんて開いてないわよ」
「そもそも、なんでクリーニング店にしたのか知らないんだけど」
「30%よ、アキラちゃん。この世界で、私ほどの愛情を持って生地を扱える人間なんて、他にいないの」
「もうわかったから……返して」
「もう少しだけ、匂いを嗅がせて」
「洗い終わった服を乾かしてくれるなら、いいわよ」
イオリは不気味なほど深く息を吸い込んでから、能力を使って洗濯機の中の服を乾かした。
アキラは支払おうとしたが、イオリは断り、ただもう一度、あの言葉を伝えてほしいと頼んだ。
イオリの言葉を思い返しながら部屋へ戻る途中、明日在を分類官のところへ連れていくことを思い出し、背筋が寒くなった。
ドアの近くまで来た時、誰かが息を詰まらせているような、変な音が聞こえた。
「あ、あのバカ……」
急いでドアを開けると、ちょうど在が大笑いし始めたところだった。
「何が起きてるの?」
画面を見ると、ケイコが失踪の原因について説明していた。彼女は唇を強く引き結んだ。
在は、かろうじて画面を指差した。
「はっはっはっはっ」
「や……やめて、そんな笑い方……それ……ダメなやつだから」
「はっはっはっはっ! トラック君!」
「はっはっはっはっ、繰り返さないで!」
「なんでそんな名前をつけたんだ!?」
「ケイコよ! 何回もあったの、あの人がその現象にその名前をつけたこと」
「何回どころじゃないだろう! あまりに何度も起きるから、トラックが何かまで覚えたぞ」




