第8話 怪盗 ロールパン三世参上
noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!
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とうとう時計の針が、犯行予告の時刻――正午十二時をさした。
秘宝館の中は、念のため一時的に入場者を規制していた。
「時間だわ」
スタッフ全員に緊張が走る。
ルナとテンは息を潜め、固唾を呑んで成り行きを見守る。
ジェリートムは耳をそばだてる。
タマクローはすでに半泣き。
小さな蛇は、相変わらず高みの見物を決め込んでいる。
――しかし、異常はない。
王印もそのまま。
ガラスも割れていない。
怪盗も現れない。
「え、まさかのドタキャン?」
その時、ジェリートムの大きな耳がピクッと動いた。
「現れたぞ!」
ジェリートムの言葉に館内がざわめき立つ。
「えっ? どこ?」
ルナが、周りに目を走らせる。
「外だ。誰かがロールパンの名を叫んでいる」
ジェリートムが耳を澄まし目を閉じる。
「なんも聞こえないんだけど」
「館長の耳は一キロ先のウサギが爪を噛む音も聞き逃さないんです」
「えー! マジ? すごっ!!」
「そんな特技持ってたんやな~」
タマクローの説明に驚くルナに対して、わりと平常運転のテン。
ジェリートムが外へ向かって駆け出した。
「こっちだ!」
「あたしたちも行くわよ。テン!」
二人もジェリートムを追って走っていく。
* * *
しばらく館長を追っていくとルナとテンもその声を耳にする。
「おーいロールパ〜ン」
「ほんとだ。聞こえた。どこかにいるわよ」
「あっ、あいつやないか?」
そこにいたのは、トカゲの姿をしたダンディーなおじいさんだった。
深くかぶったブラウンの中折れハットが、その鋭い目元を半ば隠している。
身にまとっているのは、幾何学模様があしらわれた茶色のタキシードジャケット。
その裾は地面を引きずるほど長く、さらに長い尻尾がそこからはみ出している。
その姿は、まるで舞台に立つ紳士のような気品を漂わせていた。
その横にエリマキトカゲモンスターの小さな男の子がいる。
「ほら! やっと手に入れられたぞ。よかったな~ ロールパン」
「ありがとう! おじいちゃん」
エリマキトカゲの男の子が、嬉しそうに何かを抱きかかえている。
「ロールパン! あいつや!」
ルナとテンは全速力で走り、二人に飛びついた。
「ロールパーーーン! 逮捕だーーー!!」
ルナは、初老のトカゲ紳士を後ろから羽交い締めにし、テンは子供のほうを捕らえた。
「な、なんじゃおまえたちは⁉︎」
「怪盗ロールパン三世、とうとう捕まえたぞッ。観念しろー」
ルナはしてやったりとドヤ顔をキメる。
「おじいちゃん、怖い~」
小さいエリマキトカゲの男の子は、首まわりの襟巻きをぷるぷると震わせながら怯えている。
「怪盗ロールパン三世? なにをわけわからんことをぬかしとんじゃ」
「とぼけても無駄よッ。金の王印を奪おうったってそうはさせないわよ!」
「金の王印⁉︎ 奪う? なんのことじゃ⁉︎ ぐぅっ、離さんかいッ」
ルナは一向に力を緩めない。
「犯行予告にご丁寧に名前まで書いといて……いい度胸ね。あんたロールパン三世でしょうがぃ!」
「い、いかにもそうじゃ、わしがロールパン三世じゃ。それで孫が五世じゃ! それがどうした!?」
「それがどうしたって、あんた……。まだしらばっくれる気? じゃあ、これ書いたのだれよッ」
ルナが館長のジェリートムに目で合図を送る。
館長は犯行予告の書かれた手紙をロールパンの前に突きつけた。
「いかにもこれはわしが書いたものじゃ」
「やっぱおまえじゃないかいッ。ええい! 御用だ御用だ!」
羽交締めしているルナの腕にさらに力が入る。
「いてててて……。だーかーらー、なんで捕まんなきゃならんのじゃ!」
「そりゃ、あんたが犯行予告をしてきたからじゃない」
「なに? 犯行予告じゃと?」
「王印町のお宝、金の王印を盗みに来たんでしょうが! とぼけても無駄だからね」
「金の王印を盗みに? 違うわ! ワシは孫に渡すゲームの景品を取りにきただけじゃ」
「ゲームの景品?」
ロールパン三世は、孫が大事そうに抱えているオモチャの箱を指さした。
そこには、「お宝くじ 一等賞」と、堂々と書かれていた。
「なにこれ?」
「先日、ここで引いたくじで一等を当てたのに、肝心な景品がなぜか品切れでな。後日取りに来てくれって言うから昨日の夜に手紙を書いて置いといたんじゃ」
「な、なんですって!?」
「爺さんッ、 ややこしいことすな!」
ルナとテン、そしてジェリートムは、ゆっくりと顔を見合わせた。
さっきまでの緊迫感が、風船の空気みたいにしぼんでいく。
犯行予告と思われた手紙が風に吹かれてネズミーランドの青空に舞う……
〜本日のお昼に、お宝を頂戴しに参上いたします。 ロールパン三世〜
* * *
怒り心頭のロールパン氏への謝罪を終えて戻ってきたジェリートム館長が、ルナとテンに申し訳なさそうに深々と頭を下げる。
「どうもすみませんでした。ルナさん、テンさん。てっきり金の王印のことだと思っちゃって……余計なことに巻き込んでしまい……」
「いえ……こちらこそすみません。三世という名前にしてやられました……」
ルナは穴があったら入りたい気持ちでいっぱいだった。
「謎の女もいなかったしな。てか、おまえが一番謎やで」
テンがジト目で見据えてくる。
「まあ、でもよかったじゃないですか、大事に至らなくて」
スタッフのタマクローが落ち込んでいる三人に労いの声をかけた。
たしかに、王印は無事。
怪盗はいなかった。
館長の顔も剥がれなかった。
「まあ、でも一件落着してよかったです。お二人にはご迷惑をおかけしたので、是非ネズミーランドで遊んでいってください。もちろん全て無料にいたします」
ジェリートムの言葉にルナとテンの顔はぱっと花が咲くように明るくなる。
「ほんまか! 館長!」
「やったね! テン!」
さっきまでの反省は、わりと軽やかにどこかへ飛んでいった。
二人が閉館まで思いっきり遊び尽くしたのは言うまでもなかった。
エピソードII 夢の国ネズミーランド 「了」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は、夢の国「ネズミーランド」でまさかの怪盗騒ぎでした。
ところで――
みなさんは途中で「ロールパン三世」の正体に気づきましたか?
「完全に騙された!」
「いや、最初から怪しいと思ってた(笑)」
「ルナ、暴走しすぎ!」
など、一言だけでも感想をいただけるとうれしいです!
ルナとテンの旅は、ようやくここから東へ――たぶん向かいます(笑)
次のエピソードも、ぜひよろしくお願いします!




