第7話 伝宝 金の王印
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――秘宝館に展示されている金の王印。
それは、小さくも美しい黄金の印章だった。
そのサイズは、わずか二センチほどの正方形。
だが、その控えめな寸法とは裏腹に、妙に堂々としている。
小さいのに「余は王である」と言っていそうなオーラを醸し出していた。
金の王印の鈕は、蛇の姿を模している。
それはまるで生命を宿したかのように精巧に作られていた。
その蛇は、身体をしなやかに捩らせながら前進する様子が表現されていた。
頭を高々と持ち上げたまま、振り返るように鋭い視線を投げかけている。
まるで印を守護する存在として、その小さな体に威厳を漂わせているかのようだ。
さらに、この蛇の身体には、蛇特有の鱗模様ではなく、円筒状の工具を押し当てて刻まれた『魚子文』という繊細な文様が施されている。
その細かい点の連なりは、光を受けるとまるで水面に浮かぶ無数の泡のように輝き、印全体に神秘的な美しさを添えている。
王印は、美しい五面ガラスの展示ケースに収められていた。
その透明な檻の中で、まるで古代の王の遺志を代弁するかのように、威厳と神聖さをまとって鎮座している。
金色の輝きが、ガラス越しにほのかな光を宿し、訪れる者の心を静かに引き寄せた。
かつて誰の手に渡り、どのような歴史を刻んできたのか――その謎めいた過去に思いを馳せる者は少なくない。
金の王印は、その小さな体に数千年の物語を秘めているように見えた――。
「たしかに美しいわね。見惚れちゃうわ」
ルナは、ロールパン三世が狙っている金の王印をマジマジと見た。
なるほど、これは怪盗でなくても欲しくなるはずだ。
「よっしゃあ!」
とつぜん謎の気合いを発すると、ルナはスタッフたちに向き直る。
「この周りに警備員をしっかりと配置して。ガラスケースをロープで囲って手が届かないようにしてね。そしてそこっ! 入り口で不審な人物が来たら尋問するのよ」
「なんでおまえが仕切っとんねん!」
謎のアドレナリンがルナの体内を駆け巡る。
「よし、テン。あたしたちは外に出て見回りよ。怪しい奴は容赦なくひっ捕らえるの」
「しゃーないな。これもネズミーランドのためや」
金の蛇は、相変わらず何も語らないまま、静かに光っていた。
* * *
二人はテーマパーク内を歩きながら、警備に勤しんだ。
家族づれやカップル、中にはひとりで来ているコアなネズミーランドファンもちらほら。
楽しげに綿菓子を頬張る子どもから、妙に目が据わった単独来園者へと、ルナの視線がせわしなく移っていく。
そのとき——
「あーっ! テン、来て! 怪しいやつ発見!」
ルナが全速ダッシュで駆け出した。完全に刑事ドラマのテンションだ。頭の中で太陽にほえろのテーマソングが流れる。
そして、変な顔のお面を被った毛むくじゃらのモンスターを、背後から羽交い締めにする。
「ぐわ! いてててて」
「あんた、なんでこんな気持ち悪いお面なんかつけてんの! どう見ても怪しい!」
「な、な。いててて。お面のなにが悪いんですかー?」
ルナは構わず、男のお面を勢いよく剥がした。
そこへ走ってきたテンがようやく追いつく。
「はあ、はあ、ルナ、ちょい待ち。それは……このテーマパークのメインキャラ、ミッチーマウスや」
「えー! なんですって? この可愛くないのが?」
それは、あまりにも歪な顔をしたネズミのお面だった。
ひいき目に見ても全く可愛らしさを感じられない。
むしろ気持ち悪さを通り越して怒りすら湧き上がってくる。
「これ人気あるの?」
「めちゃあるで」
* * *
引き続き二人のパトロールは続けられた。
「あっ! あいつ怪しいんちゃう?」
テンが指さした先には、物陰に隠れながらコソコソと移動している男の姿があった。
「見るからに不審人物ね。とっ捕まえよう」
二人は魚モンスターの男を尾行する。
青と緑の体色、オレンジ色の目縁、厚い唇。
背びれがぴくぴく動いている。
もちろん魚といえど、この世界では二足歩行だ。
彼は建物の影に身を潜めながら、周囲をキョロキョロと警戒しつつ、素早く物陰から物陰へ移動している。
怪しい。怪しすぎる。 もはや模範的に怪しい。
「いくわよ……」
ルナが目で合図を送る。
テンも真剣な顔で頷く。
「おらー! 御用だー」
二人は一斉にその男に飛びついた。
「ギョギョギョ⁉︎ なんですか⁉︎ あなたたちは⁉︎」
「なにがギョギョギョだ。おまえロールパンだろッ。白状しろっ」
「堪忍せいやー、こらー!」
「ロールパン? なにを言ってるんだ君たちはー!」
魚男は背中のヒレをバタつかせながら抵抗を試みる。
「コソコソと怪しいんだよッ、おまえは!」
ルナは魚男の背びれを押さえつけ、テンは尻尾をがっちり掴んでいる。
「い、いや、これ、これにはわけが……」
「そのわけが王印を盗むことだろうがいっ!」
「王印? な、なにをバカなことを言ってるんだ? ぼくはただ彼女を……」
「えっ? 彼女?」
その魚男が言うには、彼の彼女が浮気してるんじゃないかと思って尾行していたらしい。
「ドアホ! まぎらわしいことすな!」
「こら、テン……」
ルナは、テンの口を手で塞ぐ。
「どうもすみませんでした。こちらの勘違いでして……」
「ったくもう……あっ! エマニュエルがいない……やばい見失った!」
魚男はぷんぷんしながらも、すぐに焦った顔に戻る。尻尾を左右に振りながら、彼は走り去っていった。
取り残されたルナとテン。
「……二連敗やな」
* * *
二人は一度、秘宝館に戻ることにした。
すると前から館長のジェリートムが歩いてきた。
「やあ、ルナさん、テンさん」
手を上げ、にこにこと挨拶をする。三毛模様の毛並みが陽光に照らされ、なんとも平和な館長スマイルだ。
『テン、こいつロールパンかもよ』
ルナが身をかがめて小さな声で囁いた。
『え? なんでや? こいつ館長やで?』
『怪盗はね、変装が得意なの。誰にでも化けられるのよ』
ルナの目は、すでに名探偵のそれである。根拠はないが自信はある。
『ホンマか!』
テンの中で、館長=怪盗説が急速に広がる。
ルナはすれ違いざまに、後ろからジェリートムの首に腕を回し、もう一方の手を顎にひっかけた。
「いてててて、いきなり何するんですか〜。顔をひっぱらないでください~」
「ルナ! それ変装か?」
「きっとそうよッ。こいつぅ……、 化けの皮を剥いでやる。覚悟しろ! ロールパン!」
ルナは館長の顎をぐいぐい引っ張る。しかし三毛模様の皮膚は、普通に伸びるだけである。
「変装!? ロールパン……!? これは覆面じゃありません。顔ですッ。本物の顔ぉぉー……!」
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