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Monster PandemiX(モンスター・パンデミックス)  作者: 古賀丸マシカク
エピソード II 夢の国ネズミーランド

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第7話 伝宝 金の王印

noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!


https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825

 ――秘宝館に展示されている金の王印。


 それは、小さくも美しい黄金の印章だった。

 そのサイズは、わずか二センチほどの正方形。

 だが、その控えめな寸法とは裏腹に、妙に堂々としている。

 小さいのに「余は王である」と言っていそうなオーラを醸し出していた。


 金の王印のちゅうは、蛇の姿を模している。

 それはまるで生命を宿したかのように精巧に作られていた。


 その蛇は、身体をしなやかにねじらせながら前進する様子が表現されていた。

 頭を高々と持ち上げたまま、振り返るように鋭い視線を投げかけている。

 まるで印を守護する存在として、その小さな体に威厳を漂わせているかのようだ。


 さらに、この蛇の身体には、蛇特有の鱗模様うろこもようではなく、円筒状えんとうじょうの工具を押し当てて刻まれた『魚子文ななこもん』という繊細な文様もんようが施されている。

 その細かい点の連なりは、光を受けるとまるで水面に浮かぶ無数の泡のように輝き、印全体に神秘的な美しさを添えている。


 王印は、美しい五面ガラスの展示ケースに収められていた。

 その透明な檻の中で、まるで古代の王の遺志を代弁するかのように、威厳と神聖さをまとって鎮座している。

 金色こんじきの輝きが、ガラス越しにほのかな光を宿し、訪れる者の心を静かに引き寄せた。


 かつて誰の手に渡り、どのような歴史を刻んできたのか――その謎めいた過去に思いを馳せる者は少なくない。

 金の王印は、その小さな体に数千年の物語を秘めているように見えた――。


「たしかに美しいわね。見惚れちゃうわ」


 ルナは、ロールパン三世が狙っている金の王印をマジマジと見た。

 なるほど、これは怪盗でなくても欲しくなるはずだ。


「よっしゃあ!」


 とつぜん謎の気合いを発すると、ルナはスタッフたちに向き直る。


「この周りに警備員をしっかりと配置して。ガラスケースをロープで囲って手が届かないようにしてね。そしてそこっ! 入り口で不審な人物が来たら尋問するのよ」


「なんでおまえが仕切っとんねん!」


 謎のアドレナリンがルナの体内を駆け巡る。


「よし、テン。あたしたちは外に出て見回りよ。怪しい奴は容赦なくひっ捕らえるの」


「しゃーないな。これもネズミーランドのためや」


 金の蛇は、相変わらず何も語らないまま、静かに光っていた。


 *   *   *


 二人はテーマパーク内を歩きながら、警備に勤しんだ。


 家族づれやカップル、中にはひとりで来ているコアなネズミーランドファンもちらほら。

 楽しげに綿菓子を頬張る子どもから、妙に目が据わった単独来園者へと、ルナの視線がせわしなく移っていく。


 そのとき——


「あーっ! テン、来て! 怪しいやつ発見!」


 ルナが全速ダッシュで駆け出した。完全に刑事ドラマのテンションだ。頭の中で太陽にほえろのテーマソングが流れる。


 そして、変な顔のお面を被った毛むくじゃらのモンスターを、背後から羽交い締めにする。


「ぐわ! いてててて」


「あんた、なんでこんな気持ち悪いお面なんかつけてんの! どう見ても怪しい!」


「な、な。いててて。お面のなにが悪いんですかー?」


 ルナは構わず、男のお面を勢いよく剥がした。


 そこへ走ってきたテンがようやく追いつく。


「はあ、はあ、ルナ、ちょい待ち。それは……このテーマパークのメインキャラ、ミッチーマウスや」


「えー! なんですって? この可愛くないのが?」


 それは、あまりにもいびつな顔をしたネズミのお面だった。

 ひいき目に見ても全く可愛らしさを感じられない。

 むしろ気持ち悪さを通り越して怒りすら湧き上がってくる。


「これ人気あるの?」


「めちゃあるで」


 *   *   *


 引き続き二人のパトロールは続けられた。


「あっ! あいつ怪しいんちゃう?」


 テンが指さした先には、物陰に隠れながらコソコソと移動している男の姿があった。


「見るからに不審人物ね。とっ捕まえよう」


 二人は魚モンスターの男を尾行する。


 青と緑の体色、オレンジ色の目縁、厚い唇。

 背びれがぴくぴく動いている。

 もちろん魚といえど、この世界では二足歩行だ。


 彼は建物の影に身を潜めながら、周囲をキョロキョロと警戒しつつ、素早く物陰から物陰へ移動している。

 怪しい。怪しすぎる。 もはや模範的に怪しい。


「いくわよ……」


 ルナが目で合図を送る。

 テンも真剣な顔で頷く。


「おらー! 御用だー」


 二人は一斉にその男に飛びついた。


「ギョギョギョ⁉︎ なんですか⁉︎ あなたたちは⁉︎」


「なにがギョギョギョだ。おまえロールパンだろッ。白状しろっ」


「堪忍せいやー、こらー!」


「ロールパン? なにを言ってるんだ君たちはー!」


 魚男は背中のヒレをバタつかせながら抵抗を試みる。


「コソコソと怪しいんだよッ、おまえは!」


 ルナは魚男の背びれを押さえつけ、テンは尻尾をがっちり掴んでいる。


「い、いや、これ、これにはわけが……」


「そのわけが王印を盗むことだろうがいっ!」


「王印? な、なにをバカなことを言ってるんだ? ぼくはただ彼女を……」


「えっ? 彼女?」


 その魚男が言うには、彼の彼女が浮気してるんじゃないかと思って尾行していたらしい。


「ドアホ! まぎらわしいことすな!」


「こら、テン……」


 ルナは、テンの口を手で塞ぐ。


「どうもすみませんでした。こちらの勘違いでして……」


「ったくもう……あっ! エマニュエルがいない……やばい見失った!」


 魚男はぷんぷんしながらも、すぐに焦った顔に戻る。尻尾を左右に振りながら、彼は走り去っていった。


 取り残されたルナとテン。


「……二連敗やな」


 *   *   *


 二人は一度、秘宝館に戻ることにした。


 すると前から館長のジェリートムが歩いてきた。


「やあ、ルナさん、テンさん」


 手を上げ、にこにこと挨拶をする。三毛模様の毛並みが陽光に照らされ、なんとも平和な館長スマイルだ。


『テン、こいつロールパンかもよ』


 ルナが身をかがめて小さな声で囁いた。


『え? なんでや? こいつ館長やで?』


『怪盗はね、変装が得意なの。誰にでも化けられるのよ』


 ルナの目は、すでに名探偵のそれである。根拠はないが自信はある。


『ホンマか!』


 テンの中で、館長=怪盗説が急速に広がる。


 ルナはすれ違いざまに、後ろからジェリートムの首に腕を回し、もう一方の手を顎にひっかけた。


「いてててて、いきなり何するんですか〜。顔をひっぱらないでください~」


「ルナ! それ変装か?」


「きっとそうよッ。こいつぅ……、 化けの皮を剥いでやる。覚悟しろ! ロールパン!」


 ルナは館長の顎をぐいぐい引っ張る。しかし三毛模様の皮膚は、普通に伸びるだけである。


「変装!? ロールパン……!? これは覆面じゃありません。顔ですッ。本物の顔ぉぉー……!」


noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!


https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825

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