第6話 ようこそ夢の国ネズミーランドへ
noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!
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ルナとテンの二人は、ゾーイの寺、金獅堂を出発して東へ向かって歩きだしていた。
朝の光がやわらかく地面を照らし、二人の影が長く伸びる。
赤いリュックを背負ったルナと、ひょこひょこと歩くテン。
「なあ、ルナー」
「ん? どうした? テン」
「俺、『朝日が昇る山』目指す前に行っときたいとこあんねん」
テンはどこか申し訳なさそうにルナを見つめる。
その目は少し涙で潤んでいるように見える。そんな涙目で訴えられたら断りようがない。
両親の墓とか? いずれにせよ、よほどのことに違いない。
「行っときたいとこ? うん、いいよ、どこ?」
「ネズミーランド」
「ネズミーラン??」
ネーミングだけでほぼ察しがついたルナだった。
「もしかしてそれって、テーマパーク的な?」
「せや! よーわかったな。ときどきな、ゾーイ婆ちゃんに連れていってもろうてたんや。次いつ行けるかわからへんやろ?」
顔がパッと明るくなると、たたみかけるような早口でまくし立ててくる。
ルナは、半分呆れながらもテンの言うことも理解できた。
最後に思い出の場所を訪れたいのは当然のことだと思った。
自分に付き合って旅をしてくれるのだ。
それに、ネズミーランドにも興味があった。
「はは、ぜんぜんいいよ。いざ行こう! ネズミーランド!」
そう言って左手を腰に当てて右手を斜め上前方に突き出す。
「ほんまか⁉︎ やったー!」
テンのはしゃぎぶりは、ガチャガチャでお目当てのものを引き当てた子供そのものだった。
「で、そのネズミーランドはどこにあるの?」
「南の隣町、王印町や」
* * *
「うわー、ここかあ」
広大な草原を抜け、丘を越えると、目の前にネズミーランドのゲートが現れた。
そこには巨大な木造の看板が掲げられており、手彫りの文字で『ようこそ夢の国ネズミーランドへ』と書かれている。
色鮮やかなペンキが塗られたその看板は、訪れる者たちの期待感を大いに高めてくれる。
「想像してたより、だいぶ手作り感強めね」
門をくぐると、すぐに木々に囲まれた広場が広がる。
広場の中央には噴水があった。
電気で動いているわけではない。
広場の奥、高台にある貯水池から石造りの管を引き、その高低差だけで水を噴き上げている。
たぶん、いわゆる逆サイフォンの原理というやつだ。
派手な仕掛けではないが、澄んだ水が太陽の光を受けてきらきらと弾ける様子は、子供たちを楽しませるには十分だった。
テンを見ると、すでに目が輝いていた。
広場を抜けると、目の前に『ブライトロック城』が現れる。
その姿はまさに豪華絢爛。
どこか有名な夢の国の城を思わせるその城は、石造でありながらも緻密な装飾が施され優美な姿を披露している。
天高くそびえる尖塔には金箔が貼られ、日光を浴びると輝きを増し遠くからでも目を引いた。
「これはなかなかだね。千葉にあるのと引けをとらないわ。むしろこっちのほうが城っぽいかも」
ネズミーランドには、様々なアトラクションやアクティビティがある。
それぞれ木や石で作られており、自然の地形を巧みに活かしていた。
たとえば、一本の巨木に縄梯子がかかっており、頂上に到達すると鳥の巣を模した展望台にたどり着ける。
そこからはネズミーランド全体を見渡すことができるのだ。
さらに奥には、川の上に吊られた揺れる木橋があり、それを渡ると迷路のように入り組んだ木のトンネルへと続いている。
また、大きな池の上を駆け抜けるジップラインは、一歩間違えば池に落ちる可能性があるが、そのスリルが人気を博している。
通常なら落下防止ネットが張ってあるのだろうが、そんなものはない。さすがだ。
池の周辺には、丸太の浮き橋や、巨大な網を張ったファンモック、木製のローラー滑り台まで見えた。
「あれが鳥の巣展望台や。ほんで奥に見えるんが木のトンネル。池の上のジップラインはめっちゃ怖いけど、めっちゃおもろいで!」
「素敵なところね! 自然をうまく利用していて楽しそう」
目に映るテーマパークのあらゆるものが、いかに子供たちを楽しませようかと趣向を凝らしたものばかりだった。
遊び心あふれる仕掛けや鮮やかな装飾が、訪れる人々の心を弾ませる。
ルナは、最近流行りの4Dシアターやモーションシアターのようなアトラクションは、乗り物酔いみたいになってしまい、まったくと言っていいほど楽しめない。三半規管が追いつかないのだ。
だからこそ、こうした身体を動かして楽しむアクティビティは、リアルなスリルもあって大好きだった。
ふと視線を向けると、数人のスタッフらしき者たちが何か話し合っているのが目に入った。
話し合っているというか、よく見ると怒鳴り合っているようだ。
その様子はただ事ではない。
「なんだろ。何かあったのかしら……」
気になったルナは、なんの躊躇もなく声をかけた。
「どうかしましたか?」
「ん? あー、お客さんですか……。いや、たいしたことありませんので……気にせず遊んでいってください」
背広を着たネズミ顔の男が、どこか歯切れの悪い様子で答える。
そのとき——―
「館長! ダメですよ。いますぐお客さん全員を避難させた方がいいですって」
別のスタッフが深刻な表情で、聞き捨てならない言葉を口にした。
「避難⁉︎ どういうこと?」
「なんやて⁉︎ せっかく来たのに……どういうこっちゃ!」
ルナとテンは思わず大きな声で反応してしまった。
ここまで来たのに遊べないなんて言語道断、不条理極まりない。
「シー! あまり大きな声を出さないでください」
目の大きい緑色のずんぐりむっくりしたスタッフが、ルナに向かって人差し指を口に当てた。
彼の名はタマクロー。
背中に凸凹した黄色い甲羅みたいなものを背負った猫背な男だ。
オレンジの目は大きく飛び出ており、身体は緑色で頭に三本の触角が伸びている。
(なんかこの世界、触角を持っているモンスター率高いわね)
すると、先ほどの館長と呼ばれていた小柄なネズミ男が、静かな声で現在起きている事態を説明しだした。
彼の名はジェリートム。
ここネズミーランドの館長だ。
ジェリートムは、ネズミ種族と猫種族のハーフだ。
顔はネズミだが毛の色は三毛猫模様だ。メガネをかけグレーのスーツを着た、ちょっとメタボな男だ。
「実は今朝、こんな手紙が門に挟まっていたんです」
その手紙にはこう書かれていた。
【本日のお昼に、お宝を頂戴しに参上いたします。ロールパン三世】
「ロールパン三世!?」
ルナは、またしても大きな声を上げてしまった。
「シーーーーー! だから大きな声出さないでって言ってんでしょ!」
神経質なタマクローの目が限界まで吊りあがっている。
「だって、これ完全に犯行予告じゃん!」
「ですよねー。やっぱそうですよねー。ん〜、困った〜」
館長のジェリートムは頭を抱え、へなへなとその場に座り込んでしまった。
夢の国の館長にしてはだいぶ打たれ弱い。
「だれやねん、この美味しそうな名前のけしからんやつは!」
「知りません。聞いたこともありません」
タマクローが大きく首を横に振った。
「いや、きっとこいつは世界を股にかける大泥棒よ。おそらく仲間もいるはず……」
ルナが深妙な顔つきで顎に指を添えて思案顔をする。
「えっ? そうなん?」
「うん、きっと怪盗ロールパン一味よ」
「えっ? 怪盗? それって泥棒のこと?」
タマクローの飛び出た大きな眼がもう一歩前に出る。
「イエス。仲間のひとりは超絶美人な謎の女ね。そして腕利きのガンマンと侍風のむっつりスケベもいるはずだわ」
「むっつりスケベ⁈ てか、ルナ、おまえやけに詳しいなー」
「ええ、怪盗といえばこれが王道よ」
ドヤ顔で目を細めるルナ。
「で、お宝ってなんなん?」
テンがやっと核心を突いてきた。
「そうそう、それ聞いてなかったわ」
「これは決まっています。お宝と言えばここ王印町の伝宝、金の王印です」
「金の王印?」
ルナはその言葉の響きから、それが相当な代物であることは容易に想像できたが、はたしてそれがなんなのかはさっぱりわからなかった。
「はい、かなり昔のものらしく……わたしも詳しいことはわかりませんが、この町の伝宝として祀られており、ネズミーランド内にある秘宝館に展示されているんです。
これを目当てに来場されるお客様もたくさんいますので、万が一にも盗まれるようなことがあれば、ネズミーランドの運営にも支障をきたします……」
ジェリートムは、いまにも胃薬を飲みたそうな顔だ。
「だからお客さんを避難させましょうって! 今日は閉館に!」
タマクローが館長に詰め寄った。
「しかし、せっかく楽しんでいらっしゃるのに……」
なかなか踏ん切りがつかず、判断に迷走中の館長。
「ルナ、どないする?」
「ん〜。どうにかしないとまずいわね」
「えっ? いや、帰るかどうか訊いたんやけど……」
ルナはテンの質問をスルーして、もう一度犯行予告の手紙を読み返した。
「日中堂々と犯行を行うとは……さすが天下の大泥棒ね。とりあえず警備を厳重にして怪しいやつは片っ端からひっ捕らえるのよ」
「ガッテン! 犯人捕まえるぞー……って、ちゃうやろ。なんでそうなるねん」
東へ向かうはずの旅は、いま南のネズミーランドで、怪盗ロールパン三世を迎え撃とうとしている。
――冒険は、だいたい寄り道から本格化するのだ。
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