第52話 イエス! ダークフロッギス様!
noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!
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ルナ、テン、バロン、そしてシマシマは隣のモアイ村に忍び込んだ。
「いい? 目立たないように、いかにも――この村の者です――というふうに振る舞うのよ」
ルナは声をひそめながら言った。
声をひそめてはいるが、作戦の雑さは隠しきれていない。
「おう! 任しとき!」
「かしこまりました」
「バウ」
ところが、村人の散歩を装っているつもりなのだが、どうにも動きはぎこちない。
右足と右手が同時に出る。テンは途中でスキップみたいな動きになる。
シマシマにおいては、四肢が生まれたての子鹿のようにガクガクしている。
どこからどう見ても不審者そのものだった。
それなのに、不思議なほど誰も気にしていない。
「おい、ルナ。俺たち、けっこうイケてるんちゃうか?」
さっきまでスキップしていた者の発言とは思えない自信である。
「……いや、残念ながら違うよ。見て。村人の目……どこか虚じゃね?」
行き交う村人たちは、特にルナたちの存在を意識していない。
ただただ宙を漂うような目をしている。
焦点は合っておらず、遠いどこかを見ているようだ。
ルナはぞくりとした。
村の空気が、どこかおかしい。
「な、なんか怖いですね……」
シマシマは耐えきれず、ぎゅっと目をつぶった。相当気が弱いと見える。
そもそも潜入任務に向いているタイプやサイズではない。
「あっ、見て!」
ルナが指さした先では、村人たちがぞろぞろと集まり、同じ方向へと歩き出していた。
足取りは重く、しかし整然としている。まるで、ウォーキングデッドのウォーカーのようだ。
やがて彼らは、大きな建物の入口へ吸い込まれるように入っていく。
「……なんや、怪しいな」
テンが腕を組んだ。
さっきまでスキップしていたとは思えない真面目な顔である。
「よし、あたしたちも行ってみよう」
「ラジャー」
惑星エリシアンでの戦いで覚えた言葉をさっそく使うテン。彼の語彙はだいたいこういうところで増える。
いつもならここでもビビってルナを止めに入るのだが……。
なんだか普段と勝手が違いすぎて、調子が狂うルナであった。
* * *
その施設は、モアイ村の素朴な景観とはあまりにもかけ離れていた。
壁や柱には金箔が施され、豪奢な装飾がいやでも目に飛び込んでくる。
さぞ莫大な金が投じられていることだろう。
「……ますます怪しいわね」
ルナが目を細める。自称名探偵の腕がポキポキと鳴る。
「よし、村人に紛れて忍び込むわよ。バロンとシマシマはここで待ってて」
「かしこまりました」
「バウ」
シマシマとバロンの返事はだいたいいつもこんなだ。
ルナとテンは、村人たちの後ろについて施設の中へと入っていった。
そこは、広大な礼拝堂だった。
天井一面には奇怪な紋様が彫り込まれ、正面には一段高くなっているステージが見える。
その背面の壁にはカエル? のようなシンボルマークが描かれている。
神聖さなど一欠片もなく、ただ異様な圧迫感だけが支配する空間だった。
村人たちは何一つ言葉を発さず、機械のように整然と床に座り込んでいた。
ルナとテンも、村人に倣って床に座る。
ほどなくして、全員に、緑色のサービスドリンクが配られた。
「おっ、ラッキー。ちょうど喉がカラッカラになってん」
テンがそれを一気に飲み干した。
「ぷはー、生き返るー」
まるで仕事帰りのオッサンサラリーマンのようなセリフを吐きながら、テンは満足げに息をついた。
ふと見ると、ルナはまだドリンクに手をつけていない。
「ルナ、おまえ飲まへんのか?」
「あたし抹茶は苦手なの」
正面の怪しいステージが気になっているらしく、ルナはじっと前方を直視している。
「ほんなら、遠慮なくいただくで!」
テンはそれも一気に喉に流し込んだ。
* * *
でん、ででん、でん――!
突如として、堂内に重々しい太鼓の音が鳴り響いた。
空気そのものが震え、石壁に反響して不気味なリズムが幾重にもこだまする。
やがて、ステージ奥の暗がりからひとりの影が、にじみ出るように現れた。
黒ずくめの男。
全身を覆う黒いフード付きコート。
その奥から覗く眼は、黄色く鈍く光り、まるで猛獣が獲物を狙うかのように村人たちを見据えていた。
ルナは思わず身を固くする。
「うわ……なんか、キモッ」
村人たちは息をひそめ、誰一人として目をそらさない。
堂内の空気は、一瞬にして静まり返った。
ゴ~~~ン……
ゴ~~~ン……
低く唸る銅鑼の音が、堂内の空気を震わせた。
演出がやたら本格的である。
「ハハー!」
村人たちは一斉に両手を掲げ、次いで頭を床に押しつける。
まるで糸で操られる人形のように、同じ動作を繰り返した。
「テン、あたしたちも真似して」
「おっ、おう……」
二人も仕方なく頭を伏せる。
「親愛なる我が信者たちよ。我が名はダークフロッギスであるケロ」
ステージに立つ黒いフード付きコートの男が、甲高い声を響かせた。
その声に呼応するように、村人たちが一斉に顔を上げる。
「イエス! ダークフロッギス様!」
「ひえっ!」
礼拝堂を揺るがすほどの大音声に、ルナは思わず小さな悲鳴を上げた。
「我々の使命は、世界中にケロケロ教を広めることであるケロ。それはすなわち、諸君の幸せであるケロ」
(ケロケロ教を世界に?)
ルナは眉をひそめた。いきなりスケールがでかい。
「そのためには、まずはお布施じゃケロ!」
(なによー……結局お金じゃん!)
宗教の話はだいたいここに着地する。世界共通である。
「それから、ケロケロ教以外の宗教は認めんケロ。神はこのダークフロッギスだけだケロ! よって隣村の祭りも阻止するケロ!」
「イエス! ダークフロッギス様!」
村人たちの声が、礼拝堂の壁を揺らす。
一糸乱れぬその声は、不気味というよりもはや狂気そのものだ。
それは、聞く者の胸を締めつける恐怖を放っていた。完全に洗脳されている。
その光景に満足したのか、ダークフロッギスはゆっくりとステージ袖へと姿を消していった。
「テン、追うよ」
「……」
ルナは立ち上がり、去っていくダークフロッギスの後を追った。
村人は誰一人として気に留めない。まるで彼らの存在など最初から見えていないかのようだった。
テンも無言でついていく。
ただ――
その歩き方が、ほんの少しだけふらついていることに、ルナはまだ気づいていなかった。
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