第43話 お笑いのセンス抜群やな
noteにてMonster PanndemiXの裏話を公開中!
ご興味があれば覗いてみてください。
https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825
――すると、どこからともなく声がした。
「そこのお姫様」
「ひっ!?」
驚いた二人は、声のするほうをゆっくりと振り向く。
見ると、木の影から一頭のシマウマがこちらの様子を窺っている。
その馬は、馬という生き物に対する最低限の敬意すら置き忘れて生まれてきたような姿だった。
まず、色が変だ。
水色と白の縞模様は爽やかさを狙ったのだろうが、結果は完全に裏目だ。洗濯に失敗したパジャマがそのまま歩き出した印象しか与えない。
毛並みはふさふさしているのに、ぬいぐるみのように迫力ゼロ。
顔もひどい。
馬の顔というより、「馬っぽい何かを雑に思い出して再現しました」と言われた方が納得できる造形だ。
目はやたらと大きく、しかも焦点が合っていない。常に「いまなにが起きてるんですか?」とでも言いたげで、知性どころか危機感すら感じられない。
鼻先は青く、だらしなく、馬の威厳という概念を初期設定でオフにした結果の産物だ。
たてがみは逆立っているが、短くて勇ましさは皆無。
脚は細く、蹄は妙に丸く、顔がデカい。
全体のフォルムは、馬よりもむしろロバに近かった。
そんな間抜け面した馬がなぜかニンゲンの言葉を話している。
「いますぐ逃げましょう。さあ、僕の背中に乗ってください! お姫様!」
「お姫様?」
ルナとテンは顔を見合わせた。
「俺のことか?」
テンがボケた。
いつもはツッコミ役だが、今回は完全にボケにまわった。
おそらくあまりの恐怖にアイデンティティが崩壊したのだろう。
「バカ、あんたなわけないでしょ! こんな状況でよくそんなボケてられるわね! でもそんなのどうでもいい、いまは逃げることが先決よ」
ルナとテンは、本来言葉を発しない動物が喋ることなど気にしている暇もなく、我先にとそのシマウマの背中に跨る。
馬はたちまち猛ダッシュで走り出した。
決して速くはないが、自分たちが走るよりはいくぶんマシだ。
バロンは余裕でついてこられた。
しばらく走ってから後ろを振り返ると、先ほどのモンスターが両手に馬を握り、元来た道を戻っていくところだった。
「あれは、喰伝です。主食が馬でたまに来ては食していきます。そして持ち帰ったのは彼らの子供たち用のエサです」
「ひえ~、馬を食べるなんて、恐ろしいやっちゃなー」
テンが眉間にシワをよせて「信じられへん!」みたいな顔をしている。
(考えてみたらあたしたち人間も馬を食べるよな。馬刺し超美味いし……)
ルナはそう思ったら少し恐ろしさが軽減された。
そして、ずっと気になっていたことを尋ねる。
「テン、ここの世界のニンゲンは動物は食べないの? 牛とか豚とか鶏とか」
「おまえちょいちょいエグいこと言いよるな? 食うわけないやろって言うたやろ、前にも!
俺たちニンゲンは農作物しか食べへんよ。あとそのへんにある果物とかや。生きている動物をなんでわざわざ食べなきゃあかんねん」
「それは……ビーガンは食べないだろうけど……それ以外のヒトは普通に食べるんじゃないの?」
「ビーガン? なんやそれ。おい、まさかルナの世界では牛とか豚を食べるんか?」
テンがいよいよ軽蔑のまなざしを向けてきた。
肉が大好きということがバレたら、おそらくいままでのような付き合いはできなくなるだろう。
「そ、そ、そんなわけないでしょ~」
大嘘をついた。
つかないととんでもないことになりそうな気がした。
「これは、自然の摂理だからしょうがないです。喰伝が生きていくには、馬を食べなければいけないから。理不尽に殺しているわけではないです。僕たちは肉なんか食べなくても生きていけますからね」
シマウマがいたって正論を言った。
おまえは草食だからなと突っ込みたくなったがやめておいた。
なんとか疑惑のピンチを切り抜けたルナだったが、彼らの言葉に少し考えを改めさせられる思いがした。
* * *
「ほんで、いったいおまえは誰やねん。さっきの綺麗な馬たちとは随分違うみたいやけど。体の模様とか……ん~、あと……顔な、その間抜けヅラや」
「僕は、お姫様をずっと待っているんです」
「そういえば、さっきあたしのことをお姫様って呼んでたね」
二人はもはや馬が喋ることの違和感が吹き飛んでいた。
それよりももっと気になることがあるようだ。
「そう、僕が待っているお姫様かなと思いまして」
そのシマウマがじーっとルナを見つめてくる。
「いやいや、そんなに見つめられても……、残念ながらあたしはお姫様じゃないし」
ルナはあわてて否定した。
内心、悪い気はしていないが、ここははっきりしとかないと、あとあと面倒になりそうだ。
「そうなんですか~」
シマウマは、気を落として首を垂れた。
その姿にちょっとだけ罪悪感が湧く。
「それで君の名前は?」
ルナが尋ねる。
「……スターライト・メロディ」
ルナとテンは一瞬、仮死状態に陥ったが、ほどなくして大爆笑した。
「ないないないない、いや~冗談うまいなー、きみー」
「おもろいやっちゃなー、めっちゃウケたで~。お笑いのセンス抜群やな」
二人は腹をかかえて笑い転げている。
「あ、ありがとうございます。ウケました?」
その横で苦笑するシマウマ。
「ウケたウケた。お腹痛いわよ~。ウケすぎてツッコむタイミングを逃したわ」
「おまえは、体の模様が縞々《しましま》やから名前はシマシマやろ!」
テンがヒーヒーと笑いを堪えながら勝手に命名した。
「ちょっと、テン! 命の恩人に失礼じゃないブーッ」
そういうルナも話している途中で盛大に噴き出す。なので、フォローしているのに説得力ゼロ。
「シマシマですか、いい名前ですね」
本人もまんざらでもないといった感じでにっこり微笑んだ。
ルナたちは、自分たちの旅の目的と、伝説の馬――スターライト・メロディを探しにきたことを伝えた。
すると、その馬のまん丸い目が一瞬細くなった。
だが、すぐに元の焦点の合ってない目に戻ると「僕が代わりにお供してはだめでしょうか?」と予想外の言葉を発した。
ルナとテンは驚き、一瞬迷ったが――
「まあ、スターライト・メロディを探しにきたけど、もともと伝説の馬だし、ほんとにいるかもわからないから。君がいいなら歓迎するよ」
と、ルナは満面の笑顔で迎え入れた。
「命の恩人やしな」(楽できるしな)
テンも心の声を外向けに翻訳し、快く同意する。
「ありがとうございます。ルナ姫様。そしてテン。これからよろしくお願いします」
「俺だけ呼び捨てかい!」
こうして新たな仲間も加わり、再びルナ一行はあさひ山を探しに東へ旅立っていった。
エピソード X すべては整うから始まる 「了」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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そこで、みなさんに質問です。
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