第42話 伝説の馬 スターライト・メロディ
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「女将さん、お世話になりました」
ルナはペコッとお辞儀をした。
「いえいえ、こちらこそ。ほんと助かりましたわ。まさかあんなものを作ってくださるなんて」
女将はにこやかに言う。だがその笑顔の奥に、少しだけ寂しさが混じっていた。
「……もう、出発しなければならないの?」
「はい、先を急ぎますので」
ルナは頷く。
「ところで『あさひ山』って聞いたことないですか? もしくは、朝日が昇る山とか、太陽が出る山とか、日の出山とか……」
「……さあ、そのような名前の山は聞いたことないですね。それを探しているのですか?」
ルナは、出会うヒトにほとんど同じ質問をしてきている。
特に不特定多数の客を扱う宿では。だが、いまのところ有力な情報はない。
ルナは細かい説明は省き、女将に改めてお礼を言った。
「ルナさん、歩いての旅は大変でしょう。この先に『星影の谷』というところがあります。そこに馬がたくさんいますので、旅の足にしてはいかがですか?」
「それええやん! 馬に乗れば楽になるで! 女将、グッジョブや!」
テンは両手の親指を垂直に立てて腕を前におもいっきり突き出した。もちろんウインクも忘れてはいない。
女将はそんなテンを見てふふっと笑うとさらに情報をくれた。
「実は、本当かどうかわからないですけど、そこにはスターライト・メロディという伝説の馬がいるらしいんです」
「スターライト・メロディ……」
ルナはその美しい名前の響きにどこか魅了された。
夜空の星が、そのまま音になったような名前。
「そのスターライト・メロディってどんな馬なんですか?」
「なんでもとてもキラキラしていて美しい馬らしいですよ。だけど誰も見たことがないんです。だから伝説って言われているんですけど……」
ルナが瞬きをした。
「なんや~、誰も見たことないんかい~。まあ、ええけど」
テンにとって重要なのはそこではない。馬ならなんでもいいのだ。歩かなくて済めば伝説でなくてもぜんぜんいい。
しかし、ルナはその伝説の馬「スターライト・メロディ」に乙女心を奪われていた。
(そうか、誰も見たことない馬なんだ。できることなら見てみたいなー)
* * *
ルナ一行は、女将に教えてもらった星影の谷に向かった。
山をいくつか越えると、周囲を高い山に囲まれた広大な草原が現れた。
そこには、自由に走り回ったり草を食べたりしている美しい馬がたくさんいた。
どうやらお目当ての場所に到着したらしい。
「うわー、むっちゃきれいやなー」
「ホントだねー!」
二人がため息をつくほど、本当に美しい光景だった。
茶色、黒、白、さまざまな色の馬がいたが、どの馬も毛並みが艶やかだった。
まるで絵画でも見ているような気分になる。
しかしどれが伝説の馬、スターライト・メロディなのかわからない。
しばらくルナたちは目を凝らして見極めることにした。
「あれなんかそれっぽくない?」
ルナが一頭の馬を指さしてテンの視線を誘導する。
「ん~、それ言うたら、あっちのもちゃうか?」
二人はあーだこーだ言いながら、馬の群れを眺めていた。
その後ろ姿は、さながら競馬場のパドックで競走馬を下見するおっさんだ。
すると、突然馬がいっせいに走り出した。何かに怯えているかのように全速力で駆け出す。
「なんや?」
見ると北の山の方角から、大きなモンスターが二体現れた。
大きさは軽く十メートルはある。
「な、なんやねん……あの化け物は……?」
「あ、あれもこの世界のニンゲン?」
「アホ! あれがニンゲンなわけないやろ。見たこともないであんなデカイ奴」
重厚な殻をまとったその怪物は、まるで大地そのものが歪み、意思を持って這い出してきたかのようだった。
全身を覆うのは、岩肌を思わせる鈍い黄土色の外殻。
重量感のある体躯を二本の脚で支え、節くれだった腕の先には、鎌のように湾曲した爪が光っている。
額から生えた二本の角は黒く艶を帯び、獣であることを誇示するかのように後方へ反り返る。
小さく赤い双眸は窪みの奥で爛々と輝き、知性とも本能ともつかぬ冷たい光を宿していた。
口を開けば、そこには牙と呼ぶにはあまりに無秩序な歯列が並ぶ。
鋭さも長さもまちまちの歯が幾重にも重なり、喉の奥へと続く暗闇は、吸い込まれれば二度と戻れぬ深淵のようだ。
唇の端から突き出た鉤状の牙が、獲物の逃げ場を塞ぐ役目を果たしているようにみえる。
ルナたちは見つからないようにそっと茂みに身を隠した。
バロンが威嚇で吠えようとしていたので、テンが慌てて制止する。
その大きなモンスターは逃げ遅れた馬を一頭掴むと、なんと口に放り込んでむしゃむしゃと食べ出したのだ。
あまりのグロさに目をつぶるルナ。
悲鳴をあげそうになったテンはなんとか自制心でそれを飲み込んだ。
さらに二体のうちの一体がこちらに向かって歩いてきた。
「ま、まずいわ……このまま見つかれば、あたしたちも食べられてしまうかも……」
「や、やばいで……走っても逃げ切れるかわからへん」
二人は産まれたてのバンビのように脚がガクガクして動けない。
――すると、どこからともなく声がした。
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