第40話 似てるけどぜんぜん違う!
noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!
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ルナたちは残りの借金を返しにOXファイナンスへ出向いた。
OXファイナンスは街の中心にあった。豪華なレンガ造りの建物だ。
「なんや、いかにも悪いことで儲けてまっせって感じやな」
テンは、みんなが思っていることをそのまま口に出してくれた。
「OXファイナンスは、ここ乳欲の街を牛耳っている会社なの」
「えっ? ニューヨーク!? 乳欲じゃなくて?」
ルナの目と口が大きく開く。
「そうなんです。漢字で乳欲と書くのですが、発音はニューヨークなんです」
――似てるけどぜんぜん違う!
女将が受付で借金返済の件を伝えると、二階の事務室へ通された。
扉を開けた瞬間、むせかえるような葉巻の煙が容赦なく呼吸器官を襲ってくる。
「よ~、ゆめみ女将。久しぶりやな~」
煙の向こうに、社長がいた。
OXファイナンス社長――OXボーダー。
葉巻をくゆらせながら、布張りの椅子にどっしりと座っている。体型もどっしりとしたメタボで、ヌーに似た顔をしている。
身なりはいかにも成金野郎という感じで、茶色いサングラスに、指にはメリケンサックよろしく、ゴツい指輪をいくつも装着している。
だが、真っ先に目を引くのは、頭から生えている立派な太い角よりも、そのセンスのない服装だ。
ジャケットからシャツ、パンツ、ネクタイまですべて縞々のボーダーかストライプ柄だった。
「社長……、残りの借金を返しに来ました」
「おお、最近羽振りが良さそうじゃねえか。なんでもサウナとかいう健康法がウケてるっちゅう噂やな~」
「はい、おかげさまで」
と、女将が巾着に入った金銀銅のコインを渡した。
OXボーダーは、そのコインを机に並べると種類ごとに分けて計算し始める。やけに慣れた手つきだった。
数え終えるとサングラス越しに女将を見つめた。
「女将、利子はこれでOKだ。しかし元本の分がまだ足りん」
そう言うとニヤッと笑い、椅子にもたれながら葉巻を吸った。
「えっ、この前と話が違うじゃないですか」
女将が悲痛な声を上げる。
「文句あんのかこらー」
間髪入れずに、キツネ顔の手下が凄んだ。
いかにもヤクザのテンプレートのような男だった。
そのやりとりを静かに見ていたルナは、ついに我慢しきれなくなり、うっかり心の声を漏らしてしまった。
いや、漏らすというより、ぶちかましたといった方が正しいか……。
「なにをふざけたことを! このお金を作るのにどれだけ苦労したと思ってるの? こんの~、すっとこどっこいの悪徳闇金が!」
メンチを切るルナに、テンとゆめみ女将は顔をひきつらせる。
「てめ~、何様だオラ!」
「ひえ~、ルナ、やめとけ、相手はヤクザや」
「バウワウ! バウワウ!」
バロンが威嚇してその手下に牙を向けた。ご主人様を守ろうとしているのだ。
「なんだこの犬は! ぶっ飛ばすぞ!」
一触即発の事態を眺めていたOXボーダーが、椅子からゆっくりと立ち上がって仲裁に入ってきた。
「まあ、待て。お客様に手荒な真似は良くないぞ」
いかにも「私は紳士です」と言わんばかりのOXボーダーに、ルナとテンは「なんやこいつ」と、ジト目の視線を送る。
「ヨオ、勇ましいねえちゃん。随分威勢がいいな~」
OXボーダーが小馬鹿にしたように言う。
「勇ましいねえちゃんじゃない! あたしの名前はルナだ!」
「おうおう、その感じ嫌いじゃないぞ。ではルナよ、おまえに免じてひとつチャンスをやろう」
「チャンスもクソもあるか! そもそもこっちが理不尽を突き付けられているんだ」
「まあ聞け。さっきも言ったが、この金をもってしても元本は残る。ただ……この勝負に勝てれば借金をチャラにしてやる」
OXボーダーは葉巻の煙を鼻から吐いた。
ルナはむせ返りながらもチャラという言葉に耳がピクっと反応した。
闇金漫画でもいくら抗議したところで借金がなくなったというシーンなんか見たことがない。
相手は徹底的に弱者を追い詰めるヤクザ同様だ。しかも、自分たちのメンツもある。
ただ……。
ルナは、たっぷりと逡巡したあと……
「……で、そのチャンスとはなんですか?」
いちおう聞くだけ聞いてみることに。
「そのサウナとやらをワシにも体験させろ」
「な、なんですって!?」
予想外の提案に、ルナたちは目を丸くする。
テンの四本の触角もピンッと伸びた。
「サウナを? どゆこと?」
「おまえたちのそのサウナが噂通りのものであれば借金は帳消しにしてやる」
(マジか? このファッションセンスゼロの縞々《しましま》牛社長がサウナ体験だって?)
「どうだ? 自信がないのか? ルーナ」
OXボーダーが口角を上げて挑発してくる。
するとテンが小さい声で囁いた。
『ルナ、このしょうもない柄のスーツを着てる時点でサウナを理解できるとは思えへんで』
『あたしも、いま同じことを考えてた……』
『ルナさん、体験していただきましょうよ。一か八か……』
ゆめみ女将が、すがるようにルナの袖を掴む。
このまま抗議を続けたところで埒が明かないのは明白。そもそも闇金に頼った時点で詰んでいるのだ。
だが、ヤクザは時に仁義を通すことをルナは知っていた。闇金業者が皆そうだとは思わないが、この社長は……。
ルナはしばらく考えた末――
「よし、その提案、この佐津姫 月、喜んで受けて立とうぞ!」
完全に時代劇だった。
「ワッハッハッハ、そうでなくては面白くない! それじゃあ、さっそくいくぞ」
OXボーダーは、葉巻を灰皿に押し付けた。
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