第39話 整う?
noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!
https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825
体も程よく温まり、温泉から上がると、ロビーのソファーに女将が座っていた。
初めて見た時から感じていたが、なにか悩んでいる様子だ。
「どうかしたんですか? 元気がないようですけど」
「ああ、申し訳ございません。こんな姿をお客様にお見せしてしまって」
「なにか困ってるなら、相談に乗りますよ」
「出よった! ルナの超おせっかい癖」
タオルを頭に乗せたテンがふ~っとため息をついた。
「実は前に一度、経営がうまくいかなくなった時がありまして。そのとき、つい闇金でお金を借りてしまったのです。その借金がいつまでも返せなくて」
深刻な顔で女将がぽつりぽつりと話し出した。
「えっ? 闇金ですか……。 それはやばいですね。あたしの経験上、そこに一度はまるとなかなか抜け出せないですよ」
中二のルナが、なぜそんなことを知っているのか。もちろん借金などしたことはない。父親が闇金に手を出したわけでもない。
理由は単純である。
闇金をテーマにした漫画を読んだことがあるからだ。
するとテンがコソコソっと耳元で囁いた。
『ルナ、悪いことは言わん。ここは出しゃばるんやないで』
「なによ! テン、あんたそんな薄情な男だったの?」
ぷんぷん怒るルナにテンはあたふたする。
そして声を潜め、女将に聞こえないよう耳元でささやいた。
『声がでかいっちゅうねん! 相手が相手や、ヤミキンってゆーたら……ゆーたら……ヤミキンって……なんや?』
ルナは思わずテンを見た。
「あんた、闇金がなんだかわからないで言ってたの?」
「いやなんとなく危なそうやから……」
テンは小さく答える。
ルナは小さくため息をついた。
「闇金っていうのは、お金を貸してくれるところだけど、暴利を貪るヤクザみたいなところよ」
「ほんなら余計にやばいやんか!」
テンもついつい声が大きくなる。
「そりゃそうだけど、要は借金を返せばいいんでしょ?」
「おまえお金持ってないやん!」
「当たり前でしょ。あたしが持ってるわけないじゃない。だから作るんでしょうよ!」
「なっ……?」
テンは、口を大きく開けたまま言葉を失った。
そのやりとりを聞いていた……というより聞こえてしまっていた女将が、一瞬驚いた表情を見せる。
まだ大人にも満たない少女が、お金を作ると言い出したからだ。
現実的には無理だと思いながらも、女将はその真意を尋ねずにはいられなかった。そこまで切羽詰まっていたのだ。
「……作るって、どうやってですか?」
すると、ルナはなぜか自信満々に答えた。
「任せてください。いい考えがあります」
* * *
ルナは温泉があることを利用して、サウナを作ることを提案した。
「サウナ?」
テンはなんのこっちゃと聞き返した。
夢見荘の女将も初耳だったらしく首を傾げる。
「サウナとは、蒸気で高温になった室内に入って、体を温めて発汗する温浴法だよ。
汗をかくことで体がすっきりして、なんか健康にもいいと言われているんだ。さらに水風呂と外気浴を取り入れると、いわゆる『整う』という状態になるんだよ」
ルナは、澱みなくサウナについて説明する。
「整う?」
女将が興味津々に尋ねる。
「そう、体がフワッと軽く感じて頭がすっきりとクリアになるんです。一種の恍惚感を感じる状態っていうのかなー」
「コウコツカン? なんやそれ?」
「ん~、いわゆる幸福感ね」
「ほんまかいな~。そんなんで幸せになれるんか?」
「なれるのよ。それが整うということ!」
もちろん、個人の感想である。
ドヤ顔をキメてくるルナに、テンと女将は一歩たじろぐ。
「でも、それでお客さんが増えてくれれば借金も早く返せるかも……」
女将は藁にもすがる思いなのだろう。
その話に乗ることにした。
「よし、じゃあ決まり! では、作り方を説明します」
* * *
翌日からサウナ作りが始まった。
作る場所は、温泉の敷地内。幸いにも敷地面積は広かったので設置場所には困らなかった。
まず木材で小屋を建て、薪ストーブに煙突をつける。
広さは大人が六人座れるくらいにした。
薪ストーブの上に石や岩を置いてサウナストーンにし、近くには小さな水風呂も作った。
近所の若者の協力もあってサウナは一週間足らずで作り終わった。
「よし、これで完成だー!」
その場にいた全員がサウナ完成を喜んだ。
やはりみんなで何かを成し遂げるということは、これだけで心を満たしてくれるものなんだ、とルナはしみじみと噛みしめた。
「さっそく試してみてもええか」
テンがわれ先にと言わんばかりに申し出てきた。
「どうぞどうぞ」
と、言ってみたはいいものの――昆虫ってサウナ大丈夫なのか?――と一抹の不安に駆られたが、「まあ、その時はその時で」とあまり深く考えることをやめた。
ルナは、テンだけではなく手伝ってくれた若者にもサウナの体験を促した。
「じゃあ、火を焚きま~す」
薪ストーブに火を入れる。
薪はぱちぱちと音を立てながら燃え上がり、サウナストーンも徐々に熱を帯びていく。
サウナ室は、ゆっくりと温度が上がっていった。
汗がじんわりと滲み出る。
「よし、頃合いかな」
ルナは柄杓で水をすくい、サウナストーンへかけた。
ジュワッ!!
激しい蒸気が立ち上る。
サウナ室の体感温度が一気に跳ね上がった。
「おお!」
室内にどよめきが起こる。
「まだまだよ~」
ルナがさらに水をかける。
蒸気が充満する。
「あちちちちち! ルナ! これめっちゃ熱いんやけど!」
「それを耐えるのよ~、もう少し頑張って!」
全員汗だくで耐えている。
「よし、オッケー、次は水風呂!」
みんな恐る恐る足を水風呂に入れていく。
「ひえ~、めっちゃ冷たいやん」
「つめた~、凍える~」
「こ、これは……なかなかだな」
みんなさすがにきつそうだ。
「それを我慢して肩まで浸かってー」
「ひえ~、サウナって拷問やなー。これのどこに幸せがあんねん!」
テンは、幸福感を与えてくれるはずのサウナに疑問を持ち始めていた。
「はい、オッケー、みんな上がっていいわよ。次は外気浴ね。そこの椅子にもたれかかって、ゆっくりくつろいでくださ~い」
そして全員、言われるがままにリクライニングチェアに横たわった。
「おっ、なんか体がぽかぽかしてきていいかも」
「たしかに、冷たい水風呂に入ったのに全然寒くないな」
評価は上々だ。
「じゃあ、これをあと二回繰り返してね! だけど無理しちゃだめよ。自分のペースでやってね。それと水分を取るのを忘れずに!」
そして、三回目の外気浴のときには――
「ん? なんかごっつうええ気持ちやな~。なんやこの感覚は!」
驚いたテンに全員がうなずいた。みんな同じ感覚を味わっていたのだ。
「これが整うということです」
そこには「えへん」と、腰に両手を当て、ドヤ顔で仁王立ちするルナの姿があった。
なんだか後光すら射しているように見えてくる。
「これがコウコツカンっていうやつやねんな~」
赤い顔をさらに紅く染め上げたテンは、サウナをたいそう気に入ったようだった。
次は、お客を呼び込むための宣伝だ。
手書きで作ったチラシを町中に配り、ポスターもあちこちに貼りまくった。
すると、徐々にお客が集まってきてサウナ体験者の評判が口コミで広がっていった。
そのおかげで、日に日にサウナ利用者が増加し、それに伴い宿泊客も増えていく。夢見荘は見違えるほど繁盛した。
「これで借金が完済すると思います」
カピバラの女将は、涙を浮かべながらルナに感謝した。
女将も営業終了後に必ずサウナを利用しており、初めて会った頃よりはるかに元気を取り戻していた。
「よし、じゃあさっそく返済しに行こう」
noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!
https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825




