第3話 タラッタリッタラッタタ〜ン♪
noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!
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本堂の掃除も無事おわり、再びテンに村を案内してもらうことになった。
村の住人はみんなモンスターだった。それもいろんな種類がいる。
ハリネズミ、ザリガニ、蜂、猫、鳥、魚――ひとめ見てどんな動物が元になっているかわかる者もいれば、形状が奇妙すぎて何なのか判別できないのもいる。
ただ、どんな姿をしていても、みんな人間のように二本足で歩いていた。
「ねえ、どうしてこんなにたくさんの種類のモンスターがいるの?」
「モンスター?」
テンが怪訝な表情で眉をひそめる。
「モンスターって俺たちのことか?」
「そうよ」
「ほんま失礼なやっちゃなー。せやからちゃうゆーてるやろ。人間やっゆーてるやん。さっきから! おまえも人間やろ?」
「あたりまえじゃない。あたしはどう見ても人間でしょうよ。あなたたちは動物とか……虫じゃない。しゃべってるけど」
「アホ! 動物や虫はしゃべられへんやろ。俺たちは知識もあるし知能だってあるんやで。言葉もしゃべれるんやから人間ちゃうんかい」
(ん~、イマイチ腹落ちしないけど、あくまで人間と言い張るんならまあいいか。あっ、これってもしかして多様性ってやつ?)
ルナは勝手に納得しかける。
理解は追いつかないが、ポジティブ変換は得意だ。
すると、遠くから甲高い悲鳴が聞こえてきた。
「ひえー、だれか助けて~」
子供の声だ。ルナとテンは顔を見合わせ、すぐさま声のする方へ駆け出した。
路地の先には、ちょっとした広場があった。
ヤドカリの殻を背負った小柄なモンスターが、両手を胸の前で縮こまらせて震えていた。
それを数人の不良グループ? が取り囲んでいる。
「あっ! あいつコバチッチや」
「えっ? テンの友達? よし助けに行こ」
ルナが迷わず前へ出ようとすると、テンが慌てて腕を引っ張った。
「ちょっ、待て待て待て。あいつらは村でも札付きの不良グループやで」
テンが、苦虫を噛み潰したような顔で制止する。
「だからって何よ!」
掴んでいるテンの手を振りほどき、鋭い口調で言い返す。
「あんた友達見捨てる気? それにさっきこの村で自分に逆らうと生きていけないぞって威張ってたじゃない」
「うぅ〜、せやけど……。せやけどな?」
テンは気まずそうにうつむく。触角がしゅんと下がる。
ルナはそんなテンを無視して、そのゴミムシモンスターの不良グループに向かって声を張った。
「おい、君たち。弱い者いじめはやめなさい!」
金八先生よろしく腰に両手を当てて、至極王道のセリフを吐く。
むふ、我ながら決まったね♡
「なんだ~おまえは~?」
これまたお決まりのセリフが返ってきた。
(うん、想定通りのやりとりだな。さすが夢だけのことはある。――よし、やっつけちゃお♪)
ルナはスキップしながら満面の笑みを顔に浮かべ、その不良グループに向かっていった。
「タラッタリッタラッタタ〜ン♪」
リズミカルに鼻歌まで口ずさむ。
その完全無欠の余裕っぷりはもちろん『夢の中』という前提あってのことだ。
「おい、やめれ! ルナ! 危ない!」
バチーーン!!
テンの忠告も虚しく、あっさりとゴミムシモンスターの平手打ちを喰らってしまった。
勢いよく地面に倒れ込み、思わずうめき声を漏らす。
(あれれ、おかしいな……全員やっつけるイメージだったのに……)
「おまえはなんなんだ? いきなりしゃしゃり出てきやがって。しかもニヤけながらスキップまでして……謎にキモいんだよ!」
低く響く不快な声。まるで喉に痰が絡みついたようにゴロゴロと濁っている。
(痛ったーーーっ。ほっぺがものすごく痛い! もう無理! 夢でももう耐えられない! 起きよう!)
ルナは目をギュッと瞑って、左右に思いっきり頭を振った。
目をゆっくりと開いたルナの前に立ちはだかるは、怒りの眼差しで睨みつけているゴミムシ野郎の姿……。
「あれ? 夢が……覚めない?」
「は? 何言ってやがるこいつ。これは夢なんかじゃねーよ」
ゴミムシモンスターは、ルナの襟元を乱暴に掴んだ。
「いてててて……」
再び細い腕が振り上げられる。
そのとき――
「こらー! おまえらそこで何してる!」
先ほどの白黒パンダが物凄い形相でこちらに向かって走ってきた。遠くにいても体と声がデカいからすぐにわかる。
「シロクロのおっちゃん! 助けたって!」
その場から距離を置いて、ちゃっかりと安全地帯にとどまっていたテンが大声で叫ぶ。
「やっべー、シロクロだ。逃げろ!」
不良グループは蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げていった。
シロクロは地面に座り込んでいるルナのそばに駆け寄ると、心配そうに顔を覗き込んだ。
ルナの上に巨体の影が覆い被さる。
「大丈夫か? お嬢ちゃん、えっとー……ル、そうだ、ルナ」
「……はい、なんとか大丈夫ですけど……顔が痛いです」
「あー、少し赤く腫れてるな……けど問題はなさそうだ」
「助けてくれてありがとうございます……」
半泣き状態の完全に力が抜けた声でお礼の言葉を口にする。
そして走り寄ってきたテンを見るなり涙声で尋ねる。
「だけどこれ、夢じゃないの?」
「夢って……、なにをゆーとんねん? 寝ぼけとん?」
テンは眉間にシワを寄せながら呆れ顔だ。
するとシロクロがルナの頭をそっと撫でながら優しく言った。
「安心しな、これは現実だよ」
* * *
「これは……夢じゃない……?」
その事実を確信した瞬間、ルナの全身にゾワッと鳥肌が立った。
どういうことだろうか。
あさひ山に落ちた火球を見に行って、その穴に落ちたところまでは覚えている。目が覚めたらこの世界だ。
ルナは頭を抱えた。訳がわからない。
夢じゃないとしたらここはどこだ?
頭が混乱して思考が定まらない。
「そうだ、ママに電話しよう」
ポケットからスマホを取り出すとすぐさまフェイスIDでロックを解除。
「うわーーー、いたたたた……」
突然、テンとシロクロが頭を押さえて苦しみだした。
しかし、そんなことに構っている暇などない。
スマホの画面に指を滑らせ、発信履歴の『ママ』からすばやくリダイヤル。
……なぜか繋がらない。
おかしいなとスマホの画面を見ると、見事に圏外になっている。
「マジ!?」
スマホを頭の上に掲げて電波をキャッチすべく、あちこち歩きまわる。
「なに、急に踊りだしてん! それより、それや! な、なんやそれ!」
テンがこめかみを押さえながら叫ぶ。触角がブルブルと小刻みに震えている。
「は? どう見たってスマホでしょ」
「それが近づくと頭がめっちゃ痛いねん」
テンとシロクロは両手でこめかみを押さえながらうめき声をあげている。
そんなことはお構いなしに電波キャッチに勤しむルナ。
しかし、いくら歩き回っても拾えないので、いったん諦めてスマホをポケットにしまった。
「ふ〜、やっと頭痛がおさまりよったで〜」
「なんだ、お嬢ちゃん、さっきの武器は」
「武器じゃないよ。スマホ、携帯電話だよ。知らないの?」
「スマホ? ケイタ…… なんだそりゃ」
シロクロは、あの得体の知れないツルっとしたやつが、自分たちを脅かす最新兵器ではないと知るといったん落ち着きを取り戻した。
しかし、武器ではないが危険なものであることには間違いない。
一方、ルナの不安は一層深まっていく。
まさか、携帯電話がないのか?
ていうか、もはやここは日本じゃないのか?
「ねえ」とテンに向き直った。
「最近このあたりで大きな火球とか隕石落ちなかった?」
「カキュウ? インセキ? なんやそれ」
「隕石なんて落ちてねーと思うよ。つーか、それがどうかしたか?」
「そうか……」
ルナは小さくため息をつくと、どこともなくスタスタと歩きだした。
「おい、どこ行くんや?」
「隕石の穴を探しにいく」
「なんやねんそれ?」
「その穴を探して元の世界に戻るんだ」
「元の世界? なんだそれ、お嬢ちゃん」
「戻るやて?」
シロクロとテンは、ルナが何を言っているのかさっぱりわからない。
「そう、こんなモンスターの異世界ではなく元の人間の世界にね」
だいたいパターンは同じだ。映画でもなんでも。落ちたところに再び入れば戻れるのだ。それが定石。
「元の世界って。世界はここしかないやん。人間の世界ってここやん」
「あんたたち人間じゃないじゃん!」
ルナが 思わず声を荒げる。
「お、おまえ……エエかげんにせえよ?」
「もうたくさん!」
込み上げる怒りを振り払うように、勢いよく歩き出した。
「おい、ちょっと待てって」
慌ててテンが後を追う。
残されたシロクロは、ぽかんと口を開けたまま二人を見送る。
「……あの子、おもしろい子だなぁ」
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