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Monster PandemiX(モンスター・パンデミックス)  作者: 古賀丸マシカク
エピソードⅨ 止まない雨はない

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第37話 ほんま信じられんやっちゃな~

noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!


https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825


「今度こそおしまいだ。この絞め技は外せねえ」


「うっ……ぐぅうっ……」


 太い足が喉を圧迫する。

 息ができない。

 視界が揺れる。

 意識が、ゆっくりと遠のいていく。


 ……


 会場が暗く沈み、歓声は次第に遠ざかっていった。


 ——身体が……沈む……。




 そのとき――


 薄れゆく意識の中、ぼんやりした視界に人影が見えた。


 観客席、学童の子供たちの中に――


 ターヤの姿が!


「……ターヤ?」


 デビッドは、はっと目を見開く。

 ターヤは穏やかな眼差しでこちらを見つめている。


 そして、はっきりと聞こえた。


 ――デビッド、がんばって。


 *   *   *


「うわぁああああああああ!!!!!」


 場内が地響きのような歓声とどよめきに包まれる。

 信じられない光景だった。


 なんとデビッドが首に技を決められたまま、巨体のジャクソンを持ち上げたのだ。

 ジャクソンの目が見開かれる。


「なっ……なんだ……と!?」


「うおおおおおおおおお!!!!」


 デビッドは咆哮すると、そのままジャクソンの体を投げ飛ばした。


 ドオォォーーーーンンン!!!


 衝撃がリングを揺らす。

 マットが波打ち、ジャクソンの巨体が大きく跳ねた。

 場内は一気に沸騰した。

 ルナとテンも歓声とも悲鳴ともつかない声をあげる。


「デビッドー、おめえ!」


 団源太が目を見開いた。

 その声には、驚きと喜びと、いまにも泣き出しそうな感情が入り混じっていた。


「おのれ~」


 ジャクソンがゆっくりと起き上がり、血走った目でデビッドを睨みつけた。


「デービッド! デービッド! デービッド!」


 場内は完全にデビッドコール一色だ。


「よお、ジャクソン、こっからが本番だ」


 デビッドはにやっと笑った。

 その顔は、かつて格闘界の頂点に立っていた頃の王者の顔だった。


「てめ~」


 ジャクソンの巨体が、猛牛のようにリングを揺るがす。

 デビッドへ向かって猛突進だ。

 しかしデビッドはそれを軽やかにかわした。

 そのままロープへ走る。

 反動を利用して跳躍。

 そして――


 ロープから跳ね返ってきたジャクソンに向け、両足をクロスさせて放つ。


「出たぁぁぁぁ! デビッドの必殺技――クロスカウンター・キーーック!」


 デビッドの両足がスクリューのように回転しながら、ジャクソンの顔面を捉える。

 観客は往年の必殺技が炸裂し大興奮だ。

 ジャクソンはリングの外に吹っ飛び、床に激しく倒れ込んだ。


 レフリーが急いでカウントを始める。

 だが、途中で動きを止めた。


 なんとジャクソンは口から泡を吹いて意識を失っていたのだ。

 レフリーが両手をクロスし、試合終了の合図を高らかに掲げた。


 カンカンカンカンカンカンッ!


 ゴングがけたたましく鳴る。


「勝者――デビッド・ブローガーン!!」


 レフリーがデビッドの腕を高く掲げた。


「うわぁあああああ!!!」


 会場が揺れた。

 割れんばかりの歓声が上がる。観客が一斉に総立ちになった。


「やった~! 勝ったー、勝っちゃったよー!」


「ほんま……やりよったで~」


 ルナとテンは抱き合って喜んだ。


「デビッド、おめーってやつぁー、おめーってやつぁーよー」


 団源太も大きな目に涙を溜め、しゃくり上げながら叫んでいる。


 デビッドは観客席を見上げた。

 そして小さくつぶやく。


「勝ったぜ、ターヤ」


 視線の先には、ターヤが笑顔でたたずんでいる。


 あの頃と同じ、穏やかな笑顔で。


「やったね、デビッド」


 その言葉を残し、ターヤの姿は静かに消えていった。


 *   *   *


「いろいろありがとな、ルナ、テン」


 試合後、ジムに戻ったルナたちに、デビッドは改めて礼を言った。

 二人が再び旅立つ時が来たのだ。


「もう大丈夫だね」


 ルナは笑顔で応える。


「あと、バロン、おまえも俺の命の恩人だ」


 デビッドはバロンの頭を優しく撫でた。


「バウン」


 バロンは激しく尻尾を振ると、デビッドの顔をぺろっと舐めた。どうやらこれが、彼なりの「気にすんな」のようだった。


「じゃあ行くね」


 ルナが笑顔で踵を返すと――


「ルナ、あさひ山のことじゃが……無事見つけられることを祈っとるぞ」


 団源太が最後に優しい言葉を贈ってくれた。

 人は見かけによらないというが、どうやらモンスターも例外ではないらしい。


「うん、ありがと! 源太おじさん」


 ルナたちが『泣ける橋』を渡り終えたとき――


「ルナー!」


 遠くから声が響いた。


 振り返る。


 デビッドが拳を高く突き上げていた。


「おまえのパンチはジャクソンの百倍効いたぜ!」


 ルナの顔は恥ずかしさでみるみる赤くなっていく。


「なんやおまえ、格闘界のチャンピオンにパンチ喰らわしたんか?」


 テンは半ば呆れたように、ジト目でルナを見た。口元はしっかりニヤついている。


 あれだけ体格差のある相手、しかも格闘家を殴るなんてにわかには信じ難いが、こいつならやりかねないと思った。


「そ、そんなわけないじゃない」


「バウ!」


「ほれ、バロンも見てたんちゃう? ほんま信じられんやっちゃな~」


「……もうっ!」


 二人の笑い声が響く中、ルナとテンはバロンと共に、次の旅へと歩き出した。


 橋の名前は『泣ける橋』だったが、その日ルナたちは笑いながら渡った。



 エピソード IX 止まない雨はない 「了」

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


今回は、恋人を失って立ち直れずにいた元チャンピオン・デビッドのお話でした。


ルナや子供たちの言葉をきっかけに、もう一度リングへ戻ったデビッド。


みなさんは、デビッドの復活をどう感じましたか?


一言だけでも感想をいただけるとうれしいです!


そしてバロンも、さっそく大活躍でした。


次のエピソードも、ぜひよろしくお願いします!


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