第37話 ほんま信じられんやっちゃな~
noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!
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「今度こそおしまいだ。この絞め技は外せねえ」
「うっ……ぐぅうっ……」
太い足が喉を圧迫する。
息ができない。
視界が揺れる。
意識が、ゆっくりと遠のいていく。
……
会場が暗く沈み、歓声は次第に遠ざかっていった。
——身体が……沈む……。
そのとき――
薄れゆく意識の中、ぼんやりした視界に人影が見えた。
観客席、学童の子供たちの中に――
ターヤの姿が!
「……ターヤ?」
デビッドは、はっと目を見開く。
ターヤは穏やかな眼差しでこちらを見つめている。
そして、はっきりと聞こえた。
――デビッド、がんばって。
* * *
「うわぁああああああああ!!!!!」
場内が地響きのような歓声とどよめきに包まれる。
信じられない光景だった。
なんとデビッドが首に技を決められたまま、巨体のジャクソンを持ち上げたのだ。
ジャクソンの目が見開かれる。
「なっ……なんだ……と!?」
「うおおおおおおおおお!!!!」
デビッドは咆哮すると、そのままジャクソンの体を投げ飛ばした。
ドオォォーーーーンンン!!!
衝撃がリングを揺らす。
マットが波打ち、ジャクソンの巨体が大きく跳ねた。
場内は一気に沸騰した。
ルナとテンも歓声とも悲鳴ともつかない声をあげる。
「デビッドー、おめえ!」
団源太が目を見開いた。
その声には、驚きと喜びと、いまにも泣き出しそうな感情が入り混じっていた。
「おのれ~」
ジャクソンがゆっくりと起き上がり、血走った目でデビッドを睨みつけた。
「デービッド! デービッド! デービッド!」
場内は完全にデビッドコール一色だ。
「よお、ジャクソン、こっからが本番だ」
デビッドはにやっと笑った。
その顔は、かつて格闘界の頂点に立っていた頃の王者の顔だった。
「てめ~」
ジャクソンの巨体が、猛牛のようにリングを揺るがす。
デビッドへ向かって猛突進だ。
しかしデビッドはそれを軽やかにかわした。
そのままロープへ走る。
反動を利用して跳躍。
そして――
ロープから跳ね返ってきたジャクソンに向け、両足をクロスさせて放つ。
「出たぁぁぁぁ! デビッドの必殺技――クロスカウンター・キーーック!」
デビッドの両足がスクリューのように回転しながら、ジャクソンの顔面を捉える。
観客は往年の必殺技が炸裂し大興奮だ。
ジャクソンはリングの外に吹っ飛び、床に激しく倒れ込んだ。
レフリーが急いでカウントを始める。
だが、途中で動きを止めた。
なんとジャクソンは口から泡を吹いて意識を失っていたのだ。
レフリーが両手をクロスし、試合終了の合図を高らかに掲げた。
カンカンカンカンカンカンッ!
ゴングがけたたましく鳴る。
「勝者――デビッド・ブローガーン!!」
レフリーがデビッドの腕を高く掲げた。
「うわぁあああああ!!!」
会場が揺れた。
割れんばかりの歓声が上がる。観客が一斉に総立ちになった。
「やった~! 勝ったー、勝っちゃったよー!」
「ほんま……やりよったで~」
ルナとテンは抱き合って喜んだ。
「デビッド、おめーってやつぁー、おめーってやつぁーよー」
団源太も大きな目に涙を溜め、しゃくり上げながら叫んでいる。
デビッドは観客席を見上げた。
そして小さくつぶやく。
「勝ったぜ、ターヤ」
視線の先には、ターヤが笑顔でたたずんでいる。
あの頃と同じ、穏やかな笑顔で。
「やったね、デビッド」
その言葉を残し、ターヤの姿は静かに消えていった。
* * *
「いろいろありがとな、ルナ、テン」
試合後、ジムに戻ったルナたちに、デビッドは改めて礼を言った。
二人が再び旅立つ時が来たのだ。
「もう大丈夫だね」
ルナは笑顔で応える。
「あと、バロン、おまえも俺の命の恩人だ」
デビッドはバロンの頭を優しく撫でた。
「バウン」
バロンは激しく尻尾を振ると、デビッドの顔をぺろっと舐めた。どうやらこれが、彼なりの「気にすんな」のようだった。
「じゃあ行くね」
ルナが笑顔で踵を返すと――
「ルナ、あさひ山のことじゃが……無事見つけられることを祈っとるぞ」
団源太が最後に優しい言葉を贈ってくれた。
人は見かけによらないというが、どうやらモンスターも例外ではないらしい。
「うん、ありがと! 源太おじさん」
ルナたちが『泣ける橋』を渡り終えたとき――
「ルナー!」
遠くから声が響いた。
振り返る。
デビッドが拳を高く突き上げていた。
「おまえのパンチはジャクソンの百倍効いたぜ!」
ルナの顔は恥ずかしさでみるみる赤くなっていく。
「なんやおまえ、格闘界のチャンピオンにパンチ喰らわしたんか?」
テンは半ば呆れたように、ジト目でルナを見た。口元はしっかりニヤついている。
あれだけ体格差のある相手、しかも格闘家を殴るなんて俄かには信じ難いが、こいつならやりかねないと思った。
「そ、そんなわけないじゃない」
「バウ!」
「ほれ、バロンも見てたんちゃう? ほんま信じられんやっちゃな~」
「……もうっ!」
二人の笑い声が響く中、ルナとテンはバロンと共に、次の旅へと歩き出した。
橋の名前は『泣ける橋』だったが、その日ルナたちは笑いながら渡った。
エピソード IX 止まない雨はない 「了」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は、恋人を失って立ち直れずにいた元チャンピオン・デビッドのお話でした。
ルナや子供たちの言葉をきっかけに、もう一度リングへ戻ったデビッド。
みなさんは、デビッドの復活をどう感じましたか?
一言だけでも感想をいただけるとうれしいです!
そしてバロンも、さっそく大活躍でした。
次のエピソードも、ぜひよろしくお願いします!




