第35話 あしたのために! -その1-
noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!
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デビッドは団源太のもとに戻り、猛特訓を始めた。
そして、なぜかルナとテンも一緒にトレーニングをするはめになった。
「なんで俺までやらなあかんねん」
「まあ、いいじゃない。楽しそうだし」
団源太は、いつから用意していたものかわからないが、喜び勇んで特訓のメニューを発表した。
「よし、じゃあまずは『あしたのためにその一、ジョギング』じゃ!」
「は? なんやねん、あしたのためって……アホくさ」
それから地獄の猛特訓が始まった。
言うまでもなく、ルナとテンは早々に脱落した。
『あしたのためにその一』の半分も終わらないうちに、二人とも地面に倒れていた。
あるとき、特訓の合間を見て、ルナは探している山のことを伝えた。
しかし、源太もデビッドも首をかしげるばかりだった。
少なくとも、この街の近くに、そのような山はないらしい。
ルナは少しだけ肩を落とした。
* * *
そして一ヶ月後――
デビッドは、王座戦のリングに挑戦者として立つことになった。
相手は現チャンピオンのジャクソンだ。
リングに立つ二人の男。
場内の空気が熱を帯び、観客の視線が一点に集まる。
レフリーが、高らかにコールを始めた。もちろんマイクなどない。地声で勝負する。
「青~コーナ〜、挑戦者〜、団源太格闘クラブ所属〜デビッド〜ブローガーン!」
歓声とも悲鳴ともつかない声が爆発する。声の質から判断するに、どうも七対三で女子だ。
新調した黄金の武道着をまとったデビッドは無言で片手を上げ、拳を強く握った。
はだけた胸元から発達した胸筋とシックスパックの腹筋がちらりと見える。
「きゃああああ!! かっこいいー!!」
ルナが興奮した声を上げる。ほとんど推しアイドルを見たファンと同じ反応である。
「なんやねん、変な声あげよって……」
テンがジト目でルナを見る。
その間にも、レフリーのコールは続く。
「赤~コーナー〜WMPチャンピオン〜ジャクソン〜パワーストーン!」
さすが現チャンピオン。こちらの人気もすごく、会場からはデビッドのときと同じくらいの声援が上がる。しかし黄色い声はほとんどない。
ドシン、ドシン、ドシン……
まるで大地を揺るがすような重たい足音とともに、ジャクソンがコーナーポストからリングの中央へ歩み出る。
その姿は、一見すると子どものぬいぐるみのようだった。
全身を覆うのは、雪のように白いもこもこの毛並み。ふわふわで柔らかそうだが、その下に隠されているのは鋼のように鍛え抜かれた筋肉だった。
額から生えた四本のツノには、無数の傷跡が刻まれていた。長年、頭突きの応酬を繰り広げてきた格闘者の証だ。
さらにツノの間からは、水色の毛が少しだけ逆立っている。
本人いわく――『野性の証明』。意味はよくわからない。
ジャクソンはリング上で腕を組み、不敵な笑みを浮かべると、豪快に笑いだす。
「うはははは、デ~ビッドよ。久しぶりやの~。酒に溺れて死んだと聞いてたんだがな~」
「ふん、ほざいてろ!」
帯を締め直してジャクソンを睨む。
「デビッド、挑発に乗るんじゃねーぞ、冷静にな」
セコンドの団源太が声を飛ばす。気合十分だ。
そして、リングの外では――
「がんばれ〜、デビッドー」
「デビッドー! 負けるなー!」
学童の子供たちも応援に駆けつけていた。
ナタリアの笑顔も混ざっている。
「デビッド、ついに立ち直ったのね。ターヤも天国できっと喜んでいるわ」
* * *
カーン!
ついにゴングが鳴った。
その瞬間、ジャクソンが見た目に似合わぬ速さで猛突進してきた!
「っ……!」
デビッドが身構える間もなく、ジャクソンの巨体がぶつかる。
ドォンッ!!!
強烈な衝撃とともに、デビッドの体が弾き飛ばされた。ロープを越え、リングの外へ。
「きゃああああああ!」
黄色い声が悲鳴に変わる。ルナも例外ではない。
「デ~ビッドよ~。しばらく見ない間に軽くなったんじゃないのか? うはははは」
リング中央で、ジャクソンが腹を揺らして笑った。
デビッドは口の端から流れる血を手の甲で拭う。
ロープをくぐり、再びリングへと上がった。
足取りは重くない。瞳の奥には闘志の炎が燃えている。
「来い!」
デビッドがファイティングポーズをとる。
「いいぞー! デビッドー! ジャクソンなんかに負けるなー!」
「やられても素敵よ~」
観客席が一気に沸き上がる。
久しぶりに見せた、デビッドの闘志あふれる構え。それだけで場内は熱狂に包まれていた。
だが、それが面白くない男が一人いる。
ジャクソンだ。
「くっ……。血祭りにしてくれるわ~」
巨体を揺らしながら再び突進してくる。
「がんばれー! デビッドー!」
「負けんなやー!」
ルナとテンも声を張り上げる。
しかし、会場の歓声は凄まじく、二人の声など完全に飲み込まれてしまった。
そこからデビッドとジャクソンの激しい戦いが繰り広げられた。
リング上でふたつの巨体がぶつかり合う。
拳と拳。
打撃と防御。
激しい攻防戦が続く。
叫ぶ団源太。
声を張り上げるルナとテン。
学童の子供たちの声援。
カーン!
ゴングが鳴り響く。
第一ラウンド終了。
デビッドはゆっくりとコーナーへ戻った。
源太がリングに上がり、その体を支える。
「デビッド、大丈夫か?」
久しぶりの試合で調子が出ていないのは、源太の目にも明らかだった。
だが――
「……ああ、問題ねーよ……とっつぁん」
デビッドは小さく笑った。
その瞳に灯る炎は、静けさの奥で真紅の激情となって燃え上がっていた。
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