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Monster PandemiX(モンスター・パンデミックス)  作者: 古賀丸マシカク
エピソードⅨ 止まない雨はない

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第33話 お茶は冷めてから飲め!

noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!


https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825

 これはなかなか手強いぞ、とルナは思った。

 さっきの様子を見るかぎり、デビッドという男は、説得してどうにかなるタイプには見えなかった。

 というか、そもそも人の話を聞く状態にすらなっていない。


 二人は策を練ったものの、これといった打開策は浮かばなかった。

 こういうとき、人は「策を練った」と言うが、実際にはだいたい腕を組んで唸っているだけだったりする。


 とりあえず源太から聞いた情報を頼りにターヤが生前働いていたという学童へ向かうことにした。


 学童は学校が終わった子供たちを、親が迎えに来るまで預かる施設だ。


 その日は十人ほどの子供たちがいて、無邪気な笑顔を弾ませながら外で遊んでいた。

 笑い声が小鳥のさえずりのように響きわたっている。


「この街にも、こんなに元気な場所があるんだ」


 さっきまで歩いていたドヤ街の空気を思い出す。

 同じ街のはずなのに、ここだけ空気の色が違う気がした。


 施設には女性の先生が二人。

 ルナたちは、そのうちのひとりナタリアに話を聞くことにした。彼女はターヤの生前の同僚だったという。


 ナタリアは、くるくると巻いた白い髪と、ふわふわの大きな垂れ耳を持つ愛らしい羊の先生だ。

 黒縁の眼鏡をかけ、白いエプロンをまとった姿は、まるで童話に出てくる優しい先生のようにも見える。


「デビッドか。まだやさぐれてんのね〜。まあ、無理もないか。あの二人、本当に愛し合っていたもの」


 そう言いながら、ルナとテンに熱いお茶をそっと差し出す。

 湯気がふわりと立ちのぼる。


 バロンには水を用意してくれた。

 ナタリアが皿に水を注ぐと、大きなニューファンドランド犬は静かに鼻を寄せ、一口含んで喉を鳴らした。


「それで、デビッドとターヤさんはどんな感じだったんですか?」


 隣でお茶をふーふー冷ましているテンを横目で見ながら尋ねた。

 テンは猫舌なのだ。関西弁のてんとう虫モンスターだが、猫舌なのだ。


「ターヤはね、本来こちら側の人間じゃなかったの。こちら側というのは、ここ、ドヤ街のことね」


 ナタリアは湯気の立つカップを両手で包みながら、静かに語り始めた。


「もともとは裕福な家庭の娘だったの。でも、デビッドと知り合って、この街にやってきたのよ。

 ターヤは子供の面倒を見るのが大好きで、心の底から優しい人だったわ。

 デビッドの試合も毎回応援に行って、将来は二人で自分たちのジムを立ち上げるのが夢だった……」


 そこまで話して、ナタリアの表情がふっと曇った。


「……けれど、半年前に病気で亡くなってしまったの。もう、そのときのデビッドといったら……見ていられなかったわ。一晩中ターヤのそばで泣き続けていたのよ」


 テンもお茶を飲む手を止めて聞き入っていた。きっとまだ熱いのだろう。


「ターヤはとても優しくて、明るくて、何より子供たちから絶大な信頼を寄せられていたわ。

 それは、子供たち一人ひとりを尊重し、きちんと耳を傾け、誠実に向き合っていたからよ。

 どんなに些細なケンカでも、ターヤが間に入ると、最後にはみんな笑顔になった。だからこそ、彼女が亡くなったとき、子供たちは大泣きして……」


 ナタリアは小さく息をついた。


「学童からは、しばらく笑い声が消えてしまったの」


「でも、いまはみんな元気そうに見えますけど……」


 ルナが言うと、ナタリアは少しだけ微笑んだ。


「それは――」


 ナタリアが何かを言いかけたとき――


「それはね、ターヤ先生と約束したからだよ!」


 ドアの向こうで話を聞いていた子供たちが、一斉に駆け寄ってきた。

 気がつけば、ルナとテンは十人ほどの子供に囲まれていた。


「約束?」


 なんでも、みんなでお見舞いに行ったときに、先生がベッドの上で言ったらしい。


「わたしがいなくなっても、ずっと悲しまないで。わたしは、いつでもみんなのそばにいますから」


 そして――


「わたしは、元気に遊んでいるみんなを見るのが大好きなんです。だから、天国からも見守らせてくださいね」と。


「だからね、ターヤ先生は空からいつも見てるんだよ!」


「わたしたちが元気に遊んでると、ターヤ先生が喜んでくれるんだー!」


 子供たちは次々に明るい声で話す。

 まるで天国にいるターヤへ届けるように。


 ルナとテンは、気づけば涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっていた。

 溢れる涙を拭おうともせず、ただただ嗚咽をこらえながら、子供たちの言葉を胸に刻んでいた。

noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!


https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825

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