第32話 さまよえる……野獣のように
noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!
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男の名は、団源太。
源太は、ここドヤ街で格闘クラブを経営しているという。
半年前から消息不明の弟子の帰りをずっと待っているそうだ。
かつて、その弟子は格闘界のチャンピオンであった。
しかし、恋人のターヤが亡くなって以来、ずっとふさぎ込み、トレーニングもせず立ち直れないでいた。
そしてある日、とうとう姿を消してしまったのだ。
源太は話の最後で、川の方をちらりと見た。
泣ける橋の下で泣ける話を聞くと、なんとなく景色まで湿っぽく見えてくるから不思議である。
ルナは腕を組んでうーんと考えた。
放っておけない話だと思ったのだ。
テンはというと、途中で少しあくびをしていたが、最後の「チャンピオン」という言葉にはきっちり反応していた。
モンスターでも、男の子は強者に憧れるのだろうか。
ルナたちは、なにか力になれないかと思い、とりあえずその《《弟子》》とやらを探すことにした。
「源太おじさん、その弟子の名前と特徴は?」
「名前はデビッド。黄色い頭に二本のツノが生えておる。いつもならベージュのトレンチコートを着ているんだが……」
その言葉を聞いた瞬間、ルナとテンは顔を見合わせた。
「おい、ルナ、そいつはさっきのあいつやないか?」
「ワニ顔のいかついやつね。きっとそうよ、トレンチコートも着てたし」
「なんじゃ? デビッドを見かけたのか?」
「なんや知らんけど、えらい酔っぱらっとったで。ほんでどっか行ってもうたわ」
源太の顔が一瞬だけ明るくなった。
それだけで、この半年どれだけ心配していたのかがわかる。
ルナは、なにかデビッドの持ち物がないか尋ねた。
そんなものをどうするのか疑問に思いながらも、ジムの奥から黄色い道着を引っ張り出してくる。
それは年季の入った練習着。よほど激しいトレーニングをしていたのであろう。ところどころほつれてはいるが、丁寧に補修されていた。
ルナはそれをバロンに差し出し、匂いを嗅がせた。
「バロン。あんたの出番よ」
バロンはクンクンクンと三度鼻をひくつかせたあと、「バウッ!」と一吠えし、勢いよく駆け出した。
「さっそく匂いをとらえたらしいで」
「さすがー♡」
ルナとテンも、バロンのあとを追いかけた。
* * *
デビッドはすぐに見つかった。公園の近くで、相変わらず酒をあおっている。
ルナは改めて、デビッドの顔をまじまじと観察する。
まず印象に残るのは、その目だった。
野獣のように鋭く、すっと横に切れ長に伸びている。だが、黒い瞳は精気を失ったように霞んでいる。
頭は黄色く、ごつごつとしている。まるで削り出した岩をそのまま被っているみたいな質感だ。
その岩のような頭から、短くて太い角が二本、ぐいっと前にせり出している。派手ではないのに、それだけで妙に威圧感がある。
口は広いが、口角は少しだけ下がっている。どこか重たいものを胸の奥に抱え込んでいるような、静かな表情だった。
強さと威圧感に満ちているはずなのに、その顔は魂が抜けたような哀しみが滲んでいた。
二人は彼を呼び止め、団源太が心配していることを告げた。
「へへ、あのとっつぁんが心配ときたか」
デビッドは、ルナの話を聞き終えると、下がっていた口角を無理やりあげながら薄ら笑う。
「気持ち悪ぃけど……らしいわな。だけど俺は帰る気はないぜ。格闘もいっさいやるつもりもない」
そう言うと、手にしている酒を勢いよく呷る。口の端からわずかに零れ、酒気が鼻をついた。
ルナは、亡くなった恋人、ターヤのことを尋ねてみた。
その瞬間、デビッドの表情が一変した。
「なんでおまえがそんなことを知っている! あの野郎ペラペラと……」
デビッドは急に激昂し、そばに建っていた小屋の壁に拳を叩きつけた。
バゴンッ!!
乾いた衝撃音とともに、分厚い木の壁に拳大の穴が開いた。
「す、すげ〜、さすが元チャンピオンや」
テンは変なところで感心している。
「もう俺に構うな」
そう言い残し、彼は背を向け、どこへともなく去っていった。
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