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Monster PandemiX(モンスター・パンデミックス)  作者: 古賀丸マシカク
エピソードⅨ 止まない雨はない

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第32話 さまよえる……野獣のように

noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!


https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825

 男の名は、団源太だんげんた


 源太は、ここドヤ街で格闘クラブを経営しているという。

 半年前から消息不明の弟子でしの帰りをずっと待っているそうだ。


 かつて、その弟子は格闘界のチャンピオンであった。

 しかし、恋人のターヤが亡くなって以来、ずっとふさぎ込み、トレーニングもせず立ち直れないでいた。

 そしてある日、とうとう姿を消してしまったのだ。


 源太は話の最後で、川の方をちらりと見た。


 泣ける橋の下で泣ける話を聞くと、なんとなく景色まで湿っぽく見えてくるから不思議である。


 ルナは腕を組んでうーんと考えた。

 放っておけない話だと思ったのだ。


 テンはというと、途中で少しあくびをしていたが、最後の「チャンピオン」という言葉にはきっちり反応していた。

 モンスターでも、男の子は強者に憧れるのだろうか。


 ルナたちは、なにか力になれないかと思い、とりあえずその《《弟子》》とやらを探すことにした。


「源太おじさん、その弟子の名前と特徴は?」


「名前はデビッド。黄色い頭に二本のツノが生えておる。いつもならベージュのトレンチコートを着ているんだが……」


 その言葉を聞いた瞬間、ルナとテンは顔を見合わせた。


「おい、ルナ、そいつはさっきのあいつやないか?」


「ワニ顔のいかついやつね。きっとそうよ、トレンチコートも着てたし」


「なんじゃ? デビッドを見かけたのか?」


「なんや知らんけど、えらい酔っぱらっとったで。ほんでどっか行ってもうたわ」


 源太の顔が一瞬だけ明るくなった。

 それだけで、この半年どれだけ心配していたのかがわかる。


 ルナは、なにかデビッドの持ち物がないか尋ねた。

 そんなものをどうするのか疑問に思いながらも、ジムの奥から黄色い道着を引っ張り出してくる。

 それは年季の入った練習着。よほど激しいトレーニングをしていたのであろう。ところどころほつれてはいるが、丁寧に補修されていた。


 ルナはそれをバロンに差し出し、匂いを嗅がせた。


「バロン。あんたの出番よ」


 バロンはクンクンクンと三度鼻をひくつかせたあと、「バウッ!」と一吠えし、勢いよく駆け出した。


「さっそく匂いをとらえたらしいで」

「さすがー♡」


 ルナとテンも、バロンのあとを追いかけた。


 *   *   *


 デビッドはすぐに見つかった。公園の近くで、相変わらず酒をあおっている。


 ルナは改めて、デビッドの顔をまじまじと観察する。


 まず印象に残るのは、その目だった。

 野獣のように鋭く、すっと横に切れ長に伸びている。だが、黒い瞳は精気を失ったように霞んでいる。


 頭は黄色く、ごつごつとしている。まるで削り出した岩をそのまま被っているみたいな質感だ。


 その岩のような頭から、短くて太い角が二本、ぐいっと前にせり出している。派手ではないのに、それだけで妙に威圧感がある。


 口は広いが、口角は少しだけ下がっている。どこか重たいものを胸の奥に抱え込んでいるような、静かな表情だった。


 強さと威圧感に満ちているはずなのに、その顔は魂が抜けたような哀しみが滲んでいた。


 二人は彼を呼び止め、団源太が心配していることを告げた。


「へへ、あのとっつぁんが心配ときたか」


 デビッドは、ルナの話を聞き終えると、下がっていた口角を無理やりあげながら薄ら笑う。


「気持ちわりぃけど……らしいわな。だけど俺は帰る気はないぜ。格闘もいっさいやるつもりもない」


 そう言うと、手にしている酒を勢いよくあおる。口の端からわずかに零れ、酒気が鼻をついた。

 ルナは、亡くなった恋人、ターヤのことを尋ねてみた。

 その瞬間、デビッドの表情が一変した。


「なんでおまえがそんなことを知っている! あの野郎ペラペラと……」


 デビッドは急に激昂し、そばに建っていた小屋の壁に拳を叩きつけた。


 バゴンッ!!


 乾いた衝撃音とともに、分厚い木の壁に拳大の穴が開いた。


「す、すげ〜、さすが元チャンピオンや」


 テンは変なところで感心している。


「もう俺に構うな」


 そう言い残し、彼は背を向け、どこへともなく去っていった。

noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!


https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825

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