第26話 アホ! こんな気色悪い趣味だれがすんねん!
noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!
https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825
「大佐、いっぴき拉致してきましたぜ」
先ほどの侵入者が軍帽を被った男の前にテンを差し出した。
「おお、よくやった。おまえは今月成績がいいな。ボーナス弾んじゃおうかなー?」
「マジっすか! あざっす!」
その会話は、まるで普通の会社の営業成績のようだった。
違うのは、扱っている商品が、盗んできた犬や猫であることくらいだ。だいぶ違うが。
大佐と呼ばれているその男は、顔全体が短い黒毛に覆われていた。
彼の名はゼノン――ゼノン大佐。
その大きく見開かれた白目の中には、スイカの種のような小さい黒目が浮かぶ。
何を考えているのかまるで読めないその目の縁には、黒いマスクが施されていた。
だが、それが何の目的で付けられているのか、見た者には判然としない。
口元には上下それぞれ、鋭く尖った歯がほどよく間隔を空けて並び、大きく開くその口を、より禍々しく見せていた。
無駄にピシッとした黒い軍服の尻からは、細くて長い尻尾がピンと立ち上がっている。
そして頭には、銀の髑髏があしらわれた黒革の軍帽――それが何の骨なのかは不明だが、威厳を演出するには十分すぎるほどの装飾だ。
要するに、いかにも悪役である。
これだけわかりやすい悪党も、なかなか珍しい。
「どれどれ、では品評会と参りますか……」
と、ゼノンがテンの顔を覗き込み、猿轡を外した。
「うわっ!」
ゼノンは、驚きのあまり後ろにのけぞった。
「なんだこの犬! 見たこと……見たことない、新種? えっ? 新種?」
赤い顔に黒い斑点があるテンを見て完全にパニクっている。まだ、犬だと思い込んでいるので余計に狼狽える。
「あれ? ほんとだ、これ……犬か?」
拉致ってきた本人は、テンの顔を見ると呑気に首をかしげている。自分で連れてきておいて今更である。
「誰が犬やねん」
「ぎゃああああああ」
犬だと思っていたイキモノが突然喋り出したため、二人はこの世のものとは思えない悲鳴をあげた。
ゼノンは目を見開き、手に持っていた調教鞭をテンに向けて叫ぶ。
「喋った!? 犬が喋った!?」
「大佐、よく見ると犬じゃありません。……作りものです」
「お、おまえ、なんだそれ! 仮装? それとも……趣味? 趣味なの?」
「アホ! こんな気色悪い趣味だれがすんねん!」
テンは即座に否定した。
この格好を趣味だと思われるのは、さすがに心外である。
「だったら、なんだよ、その恰好!」
「それは……」
テンが言葉に詰まった瞬間、冷静さを取り戻したゼノンの表情が一変する。
「はは〜ん、さては貴様、俺たちの犯行を探りにきたんだな」
なかなか勘がいい大佐だ。
というか、状況から考えればわりと普通の推理である。
(あかん! バレた、バレたでルナ!)
テンの脳内で警報が鳴り響く。
そこへ、騒ぎを聞きつけて他の部屋からも仲間がゾロゾロと現れた。
「どうしたんですか、大佐」
仲間はゆうに二十人はいる。
しかも全員柄が悪いときた。
見るからに、街の治安に貢献しそうなタイプではない。あきらかに乱すほうだ。
ゼノンは余裕の笑みを浮かべながら、仲間たちに向かって告げる。
「こいつは俺たちのことを暴きにきたスパイだ」
「……なんだって!?」
仲間たちの視線が、一斉にテンへと向けられる。
「それじゃあ、生かして帰すわけにはいきませんね」
男たちは下卑た笑みを浮かべながら、ゆっくりとテンを取り囲んだ。
(あかんあかんあかんあかん! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!)
テンはいまにも泣きそうだ。
「おい、貴様、そんな犬の格好までして俺たちのことを知りたかったのか? え? ポチくん?」
ガラの悪い男たちのゲラゲラとした笑い声が室内に響く。
「ポチやないわ! 俺の名前はテンや!」
テンは、泣きそうな気持ちを必死に抑え、精いっぱい威勢よく名乗った。
「ほ〜う、では、テンよ。おまえのその勇気、いや命知らずな行動を称え、冥土の土産に聞かせてやろう」
ゼノンは、右手に持った五十センチほどの調教鞭をペシペシと左手に叩きながら、部屋の中をゆっくりと歩き始める。
悪役はなぜ冥土の土産をあげたがるのだろうか。
「俺たちは犬と猫を高値で売り捌いている組織、秘密結社ジョーカーズだ」
(秘密ケッシャ? ジョーカーズ? ケッシャってなんや?)
「金持ちの所有するペットってのはな、高価なものが多いんだよ。それを売り捌けば、めっちゃ儲かるってわけだ。この街には成り金が多いからな」
ゼノンが得意げに言い放つと、周囲にいた男たちが一斉に高笑いした。
秘密結社のわりに、秘密にする気はあまりなさそうだった。
(ルナ〜、早く助けてくれ〜)
そのとき――
「おい! おまえたち、そこまでだ!」
鋭い声がアジトの中に響いた。
ジョーカーズが一斉に振り向く。
入り口のドアの前に、ひとつの影が立っていた。
「ルナー!」
テンが、涙目で叫ぶ。
現れたのはもちろん、ルナだった。
「なんだ、小娘! 貴様は!」
ゼノンが訝しげに睨みつける。
しかし、ルナはどこ吹く風とばかりに、にやりと笑い――
「おまえらの悪巧み、しかとこの耳で聞き届けたり!」
漫画であれば『バーン』という効果音が背景に現れてもおかしくない場面だ。
通常ならかっこいいシーンだが、その両手には、またしてもフライパンがふたつ握られていた。
「ワトソン君、助けにきたぞ」
「ワトソン? えっ、おまえ……テンって言わなかった?」
ゼノンが一瞬狼狽える――その隙を見逃すルナではない。
「ルォォオオオオオオ!」
ルナはフライパンをぶん回しながら、いつもの雄叫びと共に突撃していった。
noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!
https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825




