表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Monster PandemiX(モンスター・パンデミックス)  作者: 古賀丸マシカク
エピソード VIII 悪に染まった心を正義の爪は許さない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/55

第25話 ワトソン君、いい考えが浮かんだよ

noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!


https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825

 ジョンは黒くて大きな犬だ。それなら遠くからでも見つけやすいと思った。

 しかし、いくら探してもジョンは見つからなかった。


 絶望の底に落ちたような様子の尚香を見て、ルナの中になんとも言えない気持ちが込み上げてきた。


(もしこれが誘拐事件だとしたら、決して許されることじゃないわ)


「尚香さん、心配しないで。ジョンは必ず見つけ出します」


 尚香の肩に手を添え、スーパーポジティブなルナはできるかどうかもわからない約束を口にする。


 テンの背中に、嫌な予感が走った。


「おいおい、ちょい待て待て……」


 テンが、「またか~」といった感じでルナの手を引っ張って尚香から距離をとる。


「なんやねん、変な約束してからに。見つからへんかったら、どないするつもりや」


「でも、もう約束しちゃったし!」


「アホか。『しちゃったし!』やないねん。これが例の犯罪組織が絡んどったら、どないすんねん!」


「それは……壊滅させるまでよ」


「壊滅ってあんた……。どうやって――」


「うるさいわね! そんなのあたしにわかるわけないでしょ!」


 テンはその場で体が硬直し、文字通り目が点になった。テンだけに。


 *   *   *


「よし、ではまず周囲の聞き込みから始めるぞ、ワトソン君」


 ルナは腕を組み、わざとらしく顎を上げた。

 いま頭の中では、帽子とパイプとロンドンの霧が完全に再生されている。

 残念ながら現実のローデムは、よく晴れた朝だった。


「ワトソン君? なんやねんそれ」


「あたしはホームズ、で、君は助手のワトソンだ」


「なに言うとんねん。おまえの名前はルナやん」


「いいのよ、あんたは知らないんだから。雰囲気よ、ふ・ん・い・き!」


 名探偵を気取ったルナは、テンを相棒のワトソンと勝手に命名した。

 ちなみに、テンとしてはまったく同意していない。


 とはいえ、二人は近所で聞き込み調査を始める。


 調査を進めていくうちに、ある共通点を発見した。

 犯行は、主に夜に行われている。

 しかも連れ去られるのは、庭で飼われているペットばかりだ。

 それはそうだろう。家に侵入までして盗む奴はそうそういない。


 ルナは顎に手を当ててうなった。


「……なるほど」


 本人はかなり名探偵っぽい顔を作っているが、テンから見ると、ただ考え事をしている中学生である。


 そして――


「ワトソン君、いい考えが浮かんだよ」


 ルナは胸の前で腕を組んで小悪魔的な笑みを浮かべる。

 嫌な予感しかしないテンの触角がピクっと反応した……。


 *   *   *


「これで、よし! っと」


 ルナは我ながら天才だと言わんばかりに、満足そうな顔でテンを見る。

 作業を終えた職人のような顔だが、出来上がったものが職人技かどうかは、また別の話である。


「……なんやねんこれは」


 テンは頭の先から足の先まで、毛むくじゃらの衣装を着せられ、背中にはあの新聞配達のトルヴァから借りてきたキャスター付きのリュックを背負わされていた。

 そのリュックもふさふさの毛糸で覆われ、リュックとわからないようにカモフラージュされている。


「これならどこからどう見ても犬にしか見えないでしょ?」

「ルナ、まさかとは思うが、俺をエサに使つこうわけやないや――」

「エサだよ」


 食い気味に被せてくる。しかも、その言葉には一切の迷いがない。


「なに考えとんねんっ! 頭おかしくなったんかッ!?」


 テンの顔は怒りで真っ赤。

 怒るのも無理はない。

 こんな雑なコスプレで犬と間違えるわけがないと思うが、もし万が一拉致られたら……。

 頭の毛糸のすき間からは、まるで湯気のようなものがふつふつと立ちのぼっていた。

 怒りと不安が、いい具合にブレンドされている。


「大丈夫よ、テン。ちゃんと助けるから」


「てか、これ犬に見えるんか? すぐバレるやろ」


「大丈夫よ、夜だし、わからないわよ」


 と、謎の自信を見せるルナ。

 さすがスーパーポジティブガールである。


 その夜、尚香の友人の協力を得て、その家の庭にテンを放置し、犯人が来るのを待ち伏せした。


 ルナは少し離れた植木に身を隠している。

 テンは心臓をバクバクさせながら、ひとりブツブツとぼやいていた。


「おいおい〜、これほんま大丈夫なんか? マジで犯人が来たらどないすんねん。『犬やないです』って白状しよかな……」


 テンは時々、満天の空を見た。

 自分がいまどんな格好をしているのか、あまり考えないようにしている。

 考えるとなんだか悲しくなるからだ。


 しばらくするとひとつの影が庭に侵入してきた。


「はっ! ついに来たか!?」


 ルナが固唾かたずを呑む。


 その侵入者は足音を忍ばせてゆっくりとテンに近づいていく。

 当のテンはまったく気付いていない。


「あいつほんま、あとでしばいたろかな」


 怪しい影が近づいているとはつゆ知らず、テンの愚痴は止まらない。

 怒りの対象は、もちろん犯人ではなくルナである。


 侵入者が暗闇に紛れたまま、ついにテンの後ろまで来た。

 そしてサッとテンの口に猿轡さるぐつわをかませると、脇に抱えて猛ダッシュで逃げていく。


「よし、引っかかったわね。ナイス! テン!」


 ルナは植木から飛び出すと勢いよく駆け出した。


「んぐぐぐぐぐ」


 テンは口を塞がれて声を出せない。

 本人としては「助けろやボケ!」と言いたいところだが、猿轡がしっかり仕事をしていた。


 ルナは誘拐犯を見失わないよう、一定の距離を保ちながら追いかける。

 このあたりは妙に冷静だった。

 小さいころから刑事ドラマを見ていた成果である。たぶん。


 すると、誘拐犯は、街はずれの廃ビルに入っていった。

 そのビルは人けのない敷地にひっそりとたたずんでおり、異様な雰囲気を醸し出している。

 昼間でも近寄る気も起きないような場所だが、夜になると不気味さがさらに倍増する。


「ここが奴らのアジトね」


 ルナは息を潜め、湿ったビルの暗闇へとその身を投じた――。

noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!


https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ