第24話 これはおそらく組織的犯罪ね
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ルナとテンはローデムという街に足を踏み入れた。
ここは、いままで訪れたどの町や村とも違って見えた。
通りの両脇には、優雅な石造りの邸宅が立ち並び、その広々とした庭には手入れの行き届いた芝生や色鮮やかな花々が咲き誇っている。
石畳の道はどこまでも続き、ときおり通りかかる馬車の車輪が、静かな朝の空気に心地よいリズムを刻んでいた。
大通りには大理石の噴水があり、その周囲には上品な装いをした住人たちがゆったりと談笑している。
一言で言えば、金持ちの街である。
少なくとも、ルナとテンがこれまで歩いてきた旅路の町とは、明らかに財布の重みが違う。
「なんや……えらい立派な街やな」
「そうね、お庭も広いし芝生もあるしね」
芝生の広さがいちいち公園レベルである。
ここに寝転がったら、たぶん怒られるのだろう。いや、確実に怒られる。
すると、前方から小さな少年がこちらに向かって歩いてくる。
少年の名前はトルヴァ――。
彼は白い貝殻のような頭を持ち、大きな目が特徴的なサザエに似たモンスター少年だった。
身長はテンと同じくらいで、紫色の胴体からは、短い手足が生えている。
「ねえ、新聞買っておくれよ」
彼はリュックに新聞を詰め込んで背負っていた。
どうも売り歩いているらしい。
よく見ると、そのリュックは新聞がたくさん入るように後ろに長く作られていた。
長さにしておよそ一メートル。
地面と接するところには六つのキャスターがついていた。
つまり、背負うというより、背中で引きずって転がすリュックなのだ。
(この世界にも新聞があるんだ。でも、うちはいつからか取らなくなっちゃったな~。パパもニュースはネットでチェックしてたみたいだし……)
ルナはこの街の情報が手に入るのもいいかなと思い、新聞を買うことにした。
「いいわよ、おいくらですか?」
「120ゲイルだよ」
サザエ少年のトルヴァは、器用にリュックから新聞を一部抜き取る。
ルナは、100ゲイル銀貨一枚と10ゲイル銅貨二枚を、ゾーイからもらった財布から取り出すと、それをトルヴァに支払った。
トルヴァは新聞を手渡しながら「ありがとうお姉ちゃん!」と満面の笑みを返してきた。
そして、ゴロゴロと背中のリュックを転がしながら去っていく。
「ん~、あれ斬新よね~」
見送りながら顎に手を添えて感心するルナ。
六つのキャスターはなかなか優秀で、新聞の重さにもかかわらず軽快な音を立てていた。
あれはたぶん、階段が最大の敵だろうと思った。
さっそく買った新聞を読んでみようと両手でバサっと広げた。
すると、真っ先に目に飛び込んできたのは、大きな見出しだった。
【ペットが突如行方不明に! 被害は拡大の一途をたどる】
二人は、新聞の一面にでかでかと印刷されたゴシック体の文字を覗き込む。
「ルナ、なんて書いてあるんや? ペットが……あかん、難しい漢字が多すぎや」
「ペットが突然いなくなる事件が起きてるらしいわよ」
テンの読解力は、関西弁の流暢さとは反比例している。
ルナは、字をそのまま読まず、ざっくりと要約してあげた。
「なんや知らんが、見た目と違うてぶっそうな街やな」
テンが眉を寄せて怪訝な表情を浮かべる。
「そうね。ペットって犬とか猫なのかしら」
ルナは見出しの内容を読み始めた。
「……なるほど、やはり犬と猫だね。拉致するところも目撃されているわ。ウサギや鳥など他のペットは狙われていないらしいわよ」
「よほどの犬好きか猫好きの犯人やな」
「これはおそらく組織的犯罪ね」
新聞記事を読むうちに、ルナの顔つきが少し真剣になった。
こういう時のルナは、だいたいろくでもない方向へ行動力を発揮する。
すると、どこからともなく、女性の噎び泣く声が聞こえてきた。
ルナはキョロキョロとあたりを見渡すと、庭のベンチで泣き崩れている婦人が目に入った。
気になって近づき、そっと声をかける。
「どうかしましたか?」
婦人は顔を上げ、涙を拭いながら答えた。
「今朝目を覚ましたら……ジョンがいなくなっていたんです……」
「ジョン?」
「私の大切な愛犬です。近所をくまなく探しましたが、どこにもいなくて……」
ルナとテンは、婦人の話を詳しく聞くことにした。
婦人の名は尚香。
ウサギのようにすらりと長い耳が頭の上に伸びていて、その間から、ふわりとした白い巻き毛が後頭部へと流れている。
上品な貴婦人――なのだが、耳のおかげでどこか童話の世界から迷い込んできたようにも見える。
目は大きく、黒目がちで、まつ毛が長い。
ぱちりと瞬きをするたびに、なぜかこちらの背筋まで伸びる気がする。
鼻と口は小ぶりで整っていて、全体にすっきりとした顔立ちだ。
身にまとっているのは、中国風の衣装。
淡い色の布地がさらりと体に沿い、歩くたびに静かに揺れる。
派手さはないのに、目を引く。むしろ控えめだからこそ、目を引く。
肌は透けるように白く、佇まいも落ち着いている。
一言で言えば――かなり上品である。
この街の雰囲気には、むしろぴったりだった。
件の愛犬ジョンは黒い大きな犬らしい。
昨日の夜には庭でおとなしく寝ていたということだが、朝方には姿を消していたということだ。
(まさか……あのペット誘拐事件と関係があるんじゃ……)
ルナの胸の奥で、正義のスイッチがカチッと音を立てた。
テンはその音を、もう何度も聞いている。
「ジョン、どこへいってしまったの……」
尚香は人生が終わったかのように頭を抱えている。
無理もない、ペットとはそういう存在なのだ。
「よかったら力になりますよ。もう一度一緒に探してみましょう」
ルナはそんな尚香を見て黙っていられなかった。
「えっ? はい、いいんですか?」
「もちろんです」
「ありがとうございます。助かります」
こうして三人はもう少し範囲を広げてジョンを探すことにした。
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