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Monster PandemiX(モンスター・パンデミックス)  作者: 古賀丸マシカク
エピソード VII 悪の華はリングに咲く

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第22話 悪の華、リングに散る!?

noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!


https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825

 一方その頃、暇を持て余していたテンは、するするとミルマスの部屋へ移動していた。


 ルナのマッサージ修行を見ていると、精神的に疲れる。

 テンとしては、少し距離を置くのが賢明だと判断したのだ。

 もっとも、単に暇だったという説もある。


「邪魔するで〜」


 ノックもなく突入していくテン。


「だ、誰だ!? 勝手に入ってくんなよ」


 クレヨンでお絵描きをしていたところ、突然部屋の引き戸がガラッと開いた。

 ノックという概念を持たない侵入者に驚き、ミルマスは半ばキレ気味の態度に出た。


 そんなことはお構いなしのテンは、他人の聖域にズカズカと上がり込む。


「おい、おまえ。なんか悩んでるんか? 俺、いま暇やからよかったら話聞くで〜」


 テンはベッドに飛び乗り、ちょこんと腰を落ち着かせる。

 その軽さは体重だけでなく、ノリも軽い。


「べ、別に悩みなんかないよ……」


 胸の奥に隠している思いを悟られないよう、思わぬ来客で中断していた絵の続きを再び描き始めた。

 ミルマスとしては、この無礼者に心を開く義理は特にない。


「おまえの母ちゃん、心配してたで。元気ない言うて」


 テンは足をぷらぷらと前後に揺らしながら部屋の中をキョロキョロと視線を泳がせる。

 完全に他人事の様子だ。


「元気……なくはないよ」

「ええから、誰にも言わんといたるから言うてみ。テンお兄さんがお悩み相談したるわ」


 と言いながらも、そのさまよっていた視線は本棚にロックオンしている。

 そして手に取った本のタイトルは『ムーミン谷の彗星』。

 なぜこの本がここに? という疑問はさておき、テンはぱらぱらとページをめくり始める。


 ミルマスは見ず知らずのてんとう虫少年が話を聞いてくれるというので、少しだけ心を開いてみようとする。


「実は……」


 ミルマスが語り始めるが――


「……」


 テンはすでに物語の世界に入り込んでいる。


「てか、全然聞いてないだろ!」


「ん~? ちゃんと聞いとるで~」


 テンはページをめくりながら、適当な言葉を返す。


*   *   *


「ルナ、ありがとよ、なかなかよかったぞ」


 満足そうな表情で、パンジーがお約束の報酬として6000ゲイルを渡してくる。

 大きい金貨六枚だ。


「ぜー、ぜー、ぜー、ぶはー、ぶはー」


 ルナは汗まみれ、息も絶え絶え、そして眼は血走っていた。

 おまけに服は汗で貼りつき、顔は火照り、体中の筋肉が悲鳴をあげている。


「あっ、あとこのチケットも二枚プレゼントだ。明日の試合のチケット」


「えっ、嬉しい! いいんですか?」


 翌日開催のプロレスチケットにルナの疲労も吹っ飛び、表情がパッと明るくなる。


「もちろん、そのかわりあたしの応援を頼むよ♡」


「了解いたしましたー!」


 パンジーは細い目でウィンクしてみせたが、ルナにはウィンクだと認識されなかった。


 *   *   *


 翌日――


 青く晴れ渡った空の下、プロレス会場の前はまるで縁日のような賑わいだった。

 親子連れの列がぞろぞろと進み、ジュース片手にパンフレットを振り回す子供たちがはしゃいでいる。

 その意外な光景を見ながら、ルナは驚きの声を上げる。こんなに人気があるとは思わなかったのだ。


「うわー、すごい人気! 親子連れもけっこういるんだね〜」


 ルナの頭の中では、昨日の巨大な背中がリングで暴れる光景が浮かんでいた。

 これを子供が見て大丈夫なのかという疑問も、少しだけ浮かんだが、楽しそうなので良しとした。


 一方、大勢の群衆を眺めていたテンが、ふと目を留めた。


「あっ、あいつはあいつやないけ!」


 テンが指さす先には、少しうつむき加減で歩いている少年――ミルマスの姿があった。


「名前なんやったかな〜……えっと〜、そうやムーミンや!」


「全然違うわよ! ミルマスでしょ? てか、なんであんたからムーミンって名前が出てくるわけ?」


 テンの中ではまだ『ムーミン谷の彗星』の余韻が渦巻いていたらしく、ミルマスとムーミンがごちゃ混ぜになっていた。


 そのときミルマスもルナたちに気づく。

 彼は気まずい感じで会釈だけした。明らかに関わりたくないといった感じで距離を取っている。

 昨日の「てんとう虫相談員」を思い出したからである。


 そんな様子を気に留めるわけでもなく、ルナとテンはミルマスに駆け寄る。


「こんにちは! お母さんの試合見に来たの? 一緒に見ようか」


 ルナの遠慮のない明るい言葉に、ミルマスは少し困惑したが、仕方なくうなずいた。


 *   *   *


 会場の中は、すでに観客で埋め尽くされていた。

 円形の石造りのスタンドが幾重にも重なり、まるで古代ローマのコロッセオを彷彿とさせる荘厳な雰囲気だ。

 もちろん屋根などない。完全屋外スタジアムだ。

 中央には、堂々たる四角いリングが据えられていた。四方はロープでしっかりと囲まれている。


「こんな大きなところでやるの!? なんかドキドキしてきちゃった」


 ルナの頬がわずかに赤くなっているのは、照りつける太陽のせいではなく、試合への高揚で間違いない。

 昨日、自分が揉んだ背中がこのリングで暴れるのかと思うと、少しだけ誇らしい気持ちにもなっていた。


 そしていくつかの試合が続き、いよいよ最後の試合が始まる。


「いよいよ次ね! やばい! 緊張してきた。 心臓が破裂しそう♪」


「なんでおまえが緊張しとんねん」


 ふと横を見るとミルマスの表情がどこか暗い。


「ん……?」


 少し気になったルナだったが、突然の観客の歓声で注意はリングへと向けられた。


 リングには、レフリーのブルドッグモンスターが登場していた。

 その名も『ボス』。

 パツパツのタキシード姿のボスは、眉間に深い溝を作り、マイクのない会場を地声でアナウンスする。


「本日のメインイベント〜、あか〜コ〜ナ〜、セクシーダイナマイト〜、MG淫凛インリン〜」


 リングへと入場してきたのは、妖しい白いウサギのモンスター。


 白銀の毛皮と、灼熱のような紅い瞳。

 長く尖った耳がピクリと動けば、それだけで空気が張りつめる。

 背後になびくホワイトヘアはその妖気のためかゆらゆらと逆立っている。

 そして観客の……特におっさんの眼を引くのは、胸の開いた黒と銀のスーツ。

 その姿は、まるで『SMの女王』感に溢れていた。


 お尻を左右に揺らしながらモンローウォークする姿に、場内は揺れるほどの大歓声だ。


「インリ〜ン、今日もセクシーだぞ〜!」

「俺の彼女になってくれー」

「君のためなら死ねるー」


 観客席から飛び交う無数の声は、声援という名の野太いおっさん愛だ。 

 それほど、この淫凛という選手はおっさんに大人気らしい。

 

「すごい人気ね〜、この淫凛って人」


「こんな、細っこいやつ、パンジーと戦ったら瞬殺されるんちゃう?」


 テンは、淫凛の色気に惑わされず、冷静にサイズ差を分析していた。

 その差は、まさにゴリラとカマキリくらいだ。


「次は、いよいよパンジーさんの登場よ♪」


 きっとパンジーも淫凛くらい人気があるだろうと思った。

 ルナの目がキラキラと輝き、まるで少女マンガの主人公のようだ。


「続いて〜あお〜コ〜ナ〜、地獄からの使者〜、パンジーたか〜こ〜」


 ズン、ズン、ズンッ!と足音が響く。

 現れたのは、黒のブカブカのパンツに豹柄マントをまとい、肩には竹刀を担いだパンジー高子。

 額にはへたくそな手書きの「鍋」の一文字。

 「極」とか、「悪」とかならまだしも、なぜ「鍋」なのか? ひたすら謎であった。


「引っ込め〜パンジー!」

「また反則技出すんじゃね〜だろ〜な〜」

「この卑怯者がー」


 観客の野次やじに混じって、ドリンクの瓶やトマト、バナナの皮、果てはスルメイカまでが飛び交う中を威風堂々と歩み進む。

 もはや入場というより、暴動の中を進軍しているようだった。


 ルナとテンは、フリーズして言葉を失う。


 そんな中、レフリーのボスが大声を出すわけでもなく、淡々と注意する。


「物を投げないでくださいー。物を投げないでくださいー」


 当然だが、その声も観客の罵声にあっけなく搔き消された。


「やかましい! てめえら全員しばくぞ!」


 ブチギレたパンジーが竹刀をブンッと振り回し、観客を威嚇する。


「なんやねん! 悪役レスラーやないかい!」


「こりゃまた……ヒールとは……」


 二人とも眉間にしわを寄せたまま、こめかみから冷たい汗を滴らせる。

 昨日の優しい客とは、完全に別人だった。


 その隣でミルマスは、じっと黙ったまま座っている。

 だが、膝の上で握られた拳と、小さな唇は小刻みに震えていた。


 リングに両者が揃う。

 ボスが進み出た。


「よし、では両者握手をして」


 格闘技といえど正々堂々と戦わなければならない。

 この握手は聖なる儀式そのものなのだ。


 淫凛が蠱惑的こわくてきな笑みを浮かべながらスッと右手を差し出す。

 次の瞬間――


 パンジーの竹刀が白いふわふわの頭に振り下ろされた。

 思わずマットに沈む淫凛。


「うわーっ、やりやがったー!」

「卑怯だぞ〜パンジー!」


 観客が騒ぎ出す。

 そんなことはお構いなしに、パンジーは竹刀で淫凛を容赦なくボコる。

 パンジーの表情は真剣そのもの――むしろ真剣すぎてレフリーも止めに入る隙がない。


「あちゃ〜、完全に悪役に徹してるわ〜、こりゃあ嫌われるで」


「応援してねと言われたけど……しづれ〜」


 ルナは稲穂のようにこうべを垂れる。


 しかし、淫凛は僅かなスキを見て竹刀の嵐から脱すると、そのままロープへと飛ぶ。


「てめ~、ふざけやがって~。反則野郎がー」


 淫凛はロープの反動を利用してパンジーの顔にドロップキック!


「ぐわッ!」


 パンジーの巨体が吹っ飛ぶ!


「マジかッ!?」


 予想外の展開にテンが驚く。

 なんとか倒れず堪えたパンジーに、すかさず淫凛が跳んだ!

 宙を駆けるその身が、勢いそのままに巨体へぶつかっていく――フライングボディアタックだ!

 パンジーがたまらずマットに沈む。


 歓声とも悲鳴ともつかない声が場内を沸かす。


 そして、ついには怒涛どとうの淫凛コールだ。


 「淫凛! 淫凛! 淫凛!」


 ふらふらと起き上がるパンジーを、赤い眼が睨む。


 「この〜、百貫ひゃっかんデブが〜、調子に乗りやがって〜」


 淫凛は、女子が一番聞きたくない言葉を吐きかけると、コーナーポストに駆け上がり、M字開脚のポーズをとる。


 「出た〜! 淫凛様の必殺技! M字開脚ドロップー!」


 観客はポスト上で腰を落とし股を広げる淫凛の姿に、次の展開を予見して沸く。

 彼女が最後に決める超必殺技だ。


 膝をM字に曲げ、それをバネのようにして空中に舞った。

 そして宙で一回転し、股を大きく広げた。


「喰らえ! クソ豚野郎が!」


「ぐわっ!」


 股がパンジーの顔面を直撃。

 そのままマットにドロップ。

 パンジー、完全沈黙。

 観客、大興奮!


 淫凛は仰向けで倒れたパンジーの顔の上にお尻を乗せたまま、M字開脚で両腕を膝に置く。

 いわゆる“ヤンキー座り”でキメた。


 その瞬間リングに咲いたのは、セクシーさと非情さの合わせ味噌みそ、MG淫凛だった。

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https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825

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