表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Monster PandemiX(モンスター・パンデミックス)  作者: 古賀丸マシカク
エピソード I 運命への旅立ち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/55

第1話 カキュウってなによ?

noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!


https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825

 ルナは、夢から覚めた。どんな夢だったかは覚えていない。


 しかし、ものすごく恐ろしかったということだけは、身体中から滝のように流れる汗と、心臓を叩く激しい鼓動で嫌でもわかった。


 一階のダイニングルームに降りていく。すでに父と母は朝食中だ。


「あんた、のそのそしてるとまた遅刻するわよ!」


 母のまさみが「おはよう」の代わりに、呆れながらいつものフレーズを口にする。


「は~い」


 ルナの気のない返事もいつも通り。すでに冷めているトーストを一枚口に挟み椅子に座る。


 その時、新聞を読んでいた父、優作が独り言のようにつぶやいた。


「火球が目撃されてるのか……」


「カキュウ?」


 聞き慣れないワードに一ミリの興味もなかったルナだが、無視するのもなんだしと思い、とりあえず反復してみせた。


 娘としての最低限のリアクションである。


「カキュウってなによ? 野球の変化球?」


 まさみも言葉の意味がわからなかったらしく、適当にボケる。

 そして卵焼きを口に頬張ほおばりながら優作の顔をじっと見る。


「火球。火の玉。流れ星みたいなやつだよ」


「流れ星? 目撃されちゃだめ? それなんかおかしい?」


 まさみはマシンガンのごとく疑問符を連射すると、味噌汁をずずッとその口に流し込んだ。


「流れ星との違いは、その大きさだな。明るさも半端ないんだ。青く光ってるものや赤く光っているものとかあるらしい。

 これが燃え尽きずに、地表に落ちたものが隕石なのさ」


「ふ~ん」


 まさみは急に興味を失くしたのか、適当な相槌を返した。隕石よりも、これから始める洗濯物のほうに思考が向いている。


 ルナはトーストを口にはさみながら、テレビに向けてリモコンの電源ボタンを押す。


 60インチの画面では、海水温の上昇で珊瑚の白化現象が世界中で起きていると、女のレポーターがまるで他人事のように淡々と話していた。


 *   *   *


 その日は雲が多少見うけられたが、ほぼ快晴で気持ちのいい朝だった。


 ルナは毎朝、親友のソヨといっしょに登校している。 

 二人は幼馴染で、去年同じ市立の中学に入学し、先月中学二年生になったばかりだ。

 ソヨは、最近ルナの真似をして髪型をショートにした。意外と似合っている。


 二人が着ている制服は、他校の生徒からも羨ましがられるほど可愛かった。


 珍しいヒヤシンスブルーのブレザーに、白いパイピング。

 白いブラウスには躑躅色のネクタイ。

 ブラウンチェックのスカートが、落ち着いた雰囲気を添えている。


 二人はいつも他愛もない話で盛り上がる。


「昨日インスタで面白い動画見つけたよ」


 ルナがポケットからスマホを取り出してフェイスIDで画面を開くと、電池残量が10%を切っていた。


「あちゃ〜、昨晩充電するの忘れてた」


 おでこに手を当てる。

 たとえ、世界の終わりが来ようと、バッテリー残量10%のほうが現実的な危機なのだろう。


 だがすぐに、まっ、いいかとスマホの画面を水戸黄門の格さんのようにソヨに向ける。

 それは、軍服を着たチワワが二本足で敬礼している動画だった。


「あはは、ウケるー! めちゃかわいい!」


 ソヨが手を一回叩いて爆笑した。


「でしょ〜」


 中二病ちゅうにびょうとは、ほど遠い二人であった。


 すると、なにやら上空から異様な音が聞こえてきた。

 それは低く鈍い音だったが、少しずつ大きくなっている。


 最初に気づいたのはソヨだった。笑い声が、ほんの少し止まる。


「……ねえ、なんか聞こえない?」


 ルナも顔を上げる。空に小さな赤い光が見えた。


 青空にぽつりと異物のような色。


「あれなんだろう」


 ソヨがその光を指差した。赤い光は徐々に大きくなっているように見える。


「なんかこっちに向かってきてる! あー、やばいやば――」


 ドーーーーーーン!


 ルナの叫びは、凄まじい衝撃音にのみ込まれた。地面が大きく揺れる。


「うわっ!」


 二人は危うく地面に倒れそうになった。


 赤い光が落ちた方角を見ると、まるで飛行機でも墜落したかのように、黒い土煙つちけむりが舞い上がっていた。


 そこは、あさひ山だった。


 あさひ山の標高は、約二百メートル。


 山頂からは、町を取り囲む大パノラマが一望できた。


 南西には富士山。

 東には東京スカイツリーや新宿のビル群。

 さらに左へ視線を移せば、晴れた日には筑波山まで望むことができる。

 そして西には、秩父連山が悠然と横たわっていた。


 犬の散歩やデートにも使われる、地元ではちょっとした自慢の山だった。


 ただし、北側だけは違った。

 そこには、鬱蒼と生い茂る雑木林が広がっていた。昼間でさえ薄暗く、足を踏み入れる者はほとんどいなかった。


 いま、そのあさひ山から、もくもくと黒煙が上がっている。


「ねえ、行ってみようよ」


 ルナが興味津々に目を輝かせている。


「えー、冗談でしょ? 怖いよー」


「ちょっと見るだけだって!」


「そのちょっとが一番信用できないんだけど!」


 ソヨは初めこそ怖気おじけづいていたが、最後は怖いもの見たさが勝った。


 二人はあさひ山に向かって走り出した。

 完全に学校をさぼる気である。

 言い訳は、あとで適当に考えればいい。


 *   *   *


 あさひ山の頂上に着くころには、土煙はすでに収まっていた。


 そこには、直径三十メートルほどの大きな穴ができていた。

 あさひ山の頂上が、まるごとクレーターのようにえぐられている。


「うわ……なにこれ、すご……」


 感嘆するルナの横で、ソヨも思わず息を呑んだ。


「これ、隕石かなー」


「かもねー」


 ルナはそう答えたが、すぐに朝の父の話を思い出した。


「朝、パパが言ってた火球ってやつかも。あっ、でも落ちたら結局、隕石らしいけど」


「カキュウ……」


 ソヨはよくわからないまま、クレーターを見つめた。


 ルナは紺色のスクールバッグを地面に置くと、その大きな穴をのぞき込もうと近づいていく。


「ルナちゃん、危ないよ。やめなよ」


 ソヨが心配そうに忠告した。


「大丈夫。ちょっと覗くだけ」


 ルナはそろりそろりと、穴のふちぎりぎりまで足を進めた。

 そして上半身を伸ばし、クレーターの中を見下ろす。


 深さは、十メートルはあるように見えた。


 ただし、穴の底はよく見えない。

 黒い煙が、渦を巻いていたからだ。


 いや、煙というよりも、真っ黒な雲に近い。


 それは、まるで生き物のようにうごめきながら、穴の中心へ向かってゆっくりと渦を巻いていた。


「……なんだろう?」


 普通の煙じゃない。

 そんなことくらい、ルナにもわかった。

 けれど、不思議と目を離せなかった。


 その時だった。


 突然、地面が激しく揺れた。


「えっ⁉」


 あまりの揺れに、ルナは足を踏み外した。


 小さな身体が、宙に放り出される。


 一瞬、時間が止まったように感じた。


 制服のネクタイがふわりと浮き、ヒヤシンスブルーのブレザーが空気をはらむ。


 ついさっきまで笑っていた顔が、はっきりと驚きに染まった。


 次の瞬間、目に見えない力がルナの身体を下へ引きずり込んだ。


「うわぁぁあああああ!」


 ルナは、渦巻く黒い雲の中へ吸い込まれていく。


「きゃぁぁああー! ルナちゃーん!」


 ソヨの絶叫が、快晴のあさひ山に響き渡った……。

noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!


https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ