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Monster PandemiX(モンスター・パンデミックス)  作者: 古賀丸マシカク
エピソード VI 勇猛と無謀

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第18話 もちのろん! アゲイン!

noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!


https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825

「あー、喉乾いた~、水~、水や~」


 テンは口をカラカラにしながら砂の上にへたり込む。


「ほんとね、水筒とっくに空っぽだし、暑いし、まわり砂ばっかだしッ!」


 ルナも半ギレしながら、額の汗をぬぐった。


 そう、二人はいま、果てしない砂漠を彷徨さまよっていたのだ。


 照りつける太陽。

 うだるような猛暑。

 そして見渡す限りの砂。

 どこまで行っても砂。これでもかというほど砂。


「このまんまだとほんま死んでしまうで」


「大丈夫よ、きっと町か村か……、そうじゃなくてもオアシスくらい見つかるわよ」


「なんやねん、その自信。いったいどっから湧いてくんねん。いつも!」


 窮地に陥っても、この女はスーパーポジティブシンキングである。

 ルナ自身も、その自信の出どころを説明できたことは一度もない。

 ただ、なんとなく大丈夫な気がするのだ。根拠はないが、なぜか大丈夫。そういうタイプの人間だった。


 すると遠くの地平線に、なにやらぼんやりとした影が浮かんでいるのが視界に入った。

 それは小さな村のようにも、町のようにも見える。熱気で空気が揺らぎ、ゆらゆらとその影が歪む。


「テン、町よ! 村か? どっちでもいいわ。助かったわよ、あたしたち」


「なんやて? どこや」


「あそこよ」


「ほんまや! やった! 急ぐでルナ」


 二人は走りにくい砂の中を猛ダッシュした。

 砂に足を取られながらも、とにかく走る。生き延びたい一心である。


 しかし、走っても走っても一向にたどり着かない。

 それどころか、距離がまったく縮んでいるように思えない。


 実は二人が見ていたのは、砂漠あるあるの蜃気楼しんきろうだったのだ。

 もちろん、二人はまだその事実を知らない。


「あ~、もうダメ〜」


 ルナが膝をついて前のめりに倒れ込む。


「おい、ルナ、大丈夫か?」


 寄り添うテンも次第に意識が遠くなっていき、ルナに重なるように気を失っていった……。


 *   *   *


 ルナは夢を見ていた。


 それは、父と母が行方のわからなくなったじぶんを必死に探している夢だった。

 それをまるで宙に浮いているように空中から見下ろしている。


「パパ、ママ、あたしはここだよ!」


 いくら叫んでも二人は気づかない。


「聞こえないの? ねえ、ここにいるのに」


 すると体がどんどんと空高く舞い上がっていき、父と母がみるみる遠ざかっていく。


「やだ、パパー、ママー……!」


 はっ、と目が覚めた。


 目の前に天井が見える。


 一瞬、自分の部屋かと思ったがすぐに違うと気づく。


 上半身を起こすと、自分がベッドに寝かせられていることを認識した。

 ただ、どうしてここにいるのか記憶が定かではない。


「あら、お目覚めね」


 落ち着いた優しい声が聞こえた。

 見ると、色白でぽっちゃりとした生物がこちらを見ている。

 しかし、人間ではない。

 一瞬ギョッとしたが、すぐに思い出した。


「そうだった。モンスターが支配する異世界にいるんだっけ……」


 その女性が、ルナのもとへと歩み寄ってきた。


「どうぞ」


「あ、ありがとうございます」


 両手でコップを持つと、喉が異常に乾いていることに気づいた。

 そして、コップの水を一気に喉に流し込む!


「ちょっと、だめよ、そんなにいっぺんに飲んじゃ――」


「かーっ! サイコー!」


 ルナは、ビールのCMのようなセリフを吐き、みるみる生き返った気分になった。

 その様子を見て、彼女がふふっと笑った。


 彼女の名はエレナ。

 あとで聞いたところによると、この家の主人らしい。

 とても可愛らしい女性で、白いお饅頭のような顔にくりっとした目が特徴的だ。

 白いキャップと、肩にかけたオレンジ色のマントが、その愛らしさをさらに引き立てている。


 するとテンが誰かと一緒に部屋に入ってきた。


「やっと起きたんかい! この寝坊助ねぼすけが!」


「テン! あたしたちどうしてここに?」


「このお方が助けてくれはったんや、ちゃんとお礼言わんかい」


 テンが親指を立てて示したのは、白いシャツに黒の革ジャンを羽織り、黒い革パンを腰パンで履いているトカゲ種族の男だった。


 第一印象だけで言えば、夜の高速道路を爆音で走っていそうな風貌だった。

 手足は異様に大きく、鋭い爪まで生えている。

 その姿は、お世辞にも優しいとは言えない顔つきと妙に釣り合っていた。


「町から帰る途中、たまたま倒れている君たちを見つけてね。ラクダに乗せて連れて帰ってきたのさ」


 いかつい顔に似合わない穏やかな声にルナは少しほっとする。

 すぐさまベッドの上で姿勢を正し、深々と頭を下げた。


「そうだったんですか、ありがとうございます」


「命の恩人やで、ほんま〜」


「それより、具合はどうだ?」


 一見、ロックンロールかぶれのバイカー野郎に見えるニッキ―は、ルナを気遣うような優しい言葉を投げる。


「おかげさまですっかり元気です! あのー、もう一杯いいですか?」


 一杯の水では、まだまだ物足りない。ほぼ脱水状態にあったのだ。


「おーい、水をもう一杯たのむ」


「はーい」


 この二人は夫婦なのだろうか。


「あのー、お二人のお名前は?」


「こっちがニッキーさんで、そっちがエレナさんや。感謝しーや」


 命の恩人の名前を本人たちに尋ねたつもりだったが、テンが食い気味に、しかもなぜか得意げに答えた。

 おまえに訊いてねーしと思いながらも、先ほどから気になっている疑問をぶつけてみる。


「ニッキーさんとエレナさんはご夫婦なんですか?」


 ニッキーはちらっとエレナの方を見ると、少し間を置いてからバツが悪そうに口を開いた。


「まだだけど……そろそろ一緒になろうかなとは思っているよ」


「そうね、早くしてくれないと熱が冷めちゃうわよ」


 エレナはくすっと笑いながら、持ってきた水をルナに手渡す。


「はは、そうだな。ただ、その前にナイトストームをどうにかしないとな」


「ん? ナイト()()()()? ストーブ調子悪いんですか? 砂漠の夜は冷えますからね」


 ルナは真顔で応えながら、今度は水をちびちびと飲んだ。


 ニッキーの説明によると、ここサンドヘブンという村では、二年くらい前から砂漠の盗賊、ナイトストームに悩まされているという話だ。

 ときおりやってきては、村の住人から農作物を上納品として巻き上げていくらしい。


「ただでさえ砂漠は畑が少ないってのに、あんなに持っていかれちゃいずれ生活が立ち行かなくなっちまう」


 ニッキーはこぶしを握って、悔しそうに机をドンと叩いた。


「では、交渉しましょうよ。もうすこし少なくしてほしいって。こっちが農作物を作れなくなったら向こうも困るじゃない」


 ベッドからテーブルの椅子に移動して話を聞いていたルナは、突拍子もない案を提示する。助けてもらった恩もあり、少しでも力になりたいと思ったのだ。


「たしかにそうなんだが……」


 なんとも歯切れの悪いニッキーだ。


「と、とりあえず村長に相談しよう」


 エレナを残し、ニッキーの提案で三人は村長に会いに役場へ向かった。


 *   *   *


 村長の名はピルピロット。

 身長がテンくらいしかなく、顎に白い髭をたくわえた老人だった。

 胴体が短い容姿はテンに似ているが、テントウムシではない。

 二本の角が生えた茶色いカブトを目深く被っており、目にあたる部分はくり抜かれ、そこにサングラスのような黒いガラスがはめ込まれていた。


 兜のせいで表情がほとんどわからない。

 だが、なんとなく威厳があるような、ないような。

 村長という肩書きがなければ、どこかの縁日で笛でも売っていそうなただのお爺さんだった。


「ほう、あのナイトストームに交渉ときたか。それは思いもつかんかったわ。ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」


 村長のピルピロットはセミの宇宙人のような笑い方をした。

 だが、ザリガニのような大きなハサミの手は持ち合わせていない。


「しかし、やつら聞き入れてくれるだろうか」


 いかつい顔のわりに度胸のないニッキー。

 逆に謎の自信を見せるルナは、任せといてと言わんばかりだ。


「きっと、大丈夫よ。ちゃんと説明すれば相手もわかってくれると思うわ」


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、頼もしいお嬢ちゃんじゃ」


 ピルピロットは楽しそうに笑った。

 どうやら、こういう根拠のない元気な若者は嫌いではないらしい。


(昔にも、こういう若い者がおったのー)


 ピルピロットは、誰かを思い出しているのか、思わず笑みが零れた。


 なにはともあれ、三人はさっそく、上納品を減らしてもらう交渉に出かけた。


 *   *   *


 結果、まったく聞き入れてもらえなかった……。


「なんなの、あいつらときたら頭きちゃうわね! ちっとも聞く耳をもたないんだから」


 役場に帰ってきたルナは憤慨ふんがいして応接室のソファにドカッと座り腕と脚を同時に組む。


「しかも次からもっと巻き上げるぞとか言ってたわね。あのボスのブリなんとかとかいう……」

「ブリゴジンな」


 テンがテーブルの上にあった干し芋を食べながら食い気味に被せてきた。


「それが出来なかったらサンドヘブンを壊滅させるとも……」


 ニッキーは益々気を落とし、十分に実った稲穂のようにうなだれている。

 革ジャンの背中も、どことなくしょんぼりして見えた。


「どうしたもんかのー」


 ピルピロットが、いかにも棒読みなセリフを吐いた。

 考えているふりをしているが、実のところ猛烈な睡魔に襲われていることは、その場にいる全員にバレバレだった。


「なんや~、村長。緊張感ないの~。名前からしてやけどな〜」


 テンが呆れたように呟くと、さらに干し芋をもうひとつ口に放り込む。

 たしかに威厳は感じられないが、名前は関係ないだろう。


 するとルナが唐突に立ち上がった。


「もうこうなったら、戦うしかないわね!」


 その瞳に一瞬炎が浮かび上がった。左右の腰のあたりに握り拳を構えている。


「戦うって……?」


 ニッキーが情けない表情で顔を上げる。


「この村を守るためにみんなでナイトストームに立ち向かうのよ」


「なんだって!?」


 ニッキーは、ルナの意外な言葉に目を丸くする。

 自分を含めた村人たちが、あの悪徳賊徒あくとくぞくとと戦うなんて考えたこともなかった。


「戦うって……あの盗賊たちとか?」


「もちのろん!」


 ドヤ顔で仁王立ちのルナ。その顔は謎に自信に満ちている。


「ほ~う」


 微睡まどろみの途中で引き返してきたピルピロットがルナの意見に目を見張る。


「いやいや、それはいくらなんでも無理だろ」


 顔のわりに気の小さいニッキーは、すでに及び腰だ。

 無理もない。見るからに極悪非道のツラをしている上に、全員が剣を帯びている。

 気に入らなければ、即座に斬りかかってきそうな連中なのだ。


「だけど、どうにかしないと。このままいつまでも言いなりになっていたら……」


「まさかとは思うけど……俺も戦えっていうんちゃうやろーな?」


 ルナの心配を他所よそに、テンは自分も巻き込まれるのではないかと怪訝な表情をあらわにする。


「もちのろん! アゲイン!」


 嫌な予感は的中した。


「いやや~、絶対いややわ〜、なんでそうなるねん。しかもアゲインってなんやねん!」


「あんた助けてもらったこと忘れたの?」


 は~、とテンは深いため息をつくと干し芋に手を伸ばした。

 もはややけ食いである。


 ニッキーは黙ったまま考え込んでいた。


(あのナイトストームに勝てるのか? これはただの無謀な賭けなんじゃないのか? そもそも村人たちだって、一緒に戦ってくれるのかどうか……)


「一度、考えさせてくれ」


 そう告げると、彼は静かに役場を後にした。


noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!


https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825

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