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Monster PandemiX(モンスター・パンデミックス)  作者: 古賀丸マシカク
エピソード V フェアリーの嘆き

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第17話 元の世界への扉は、星の光を辿る場所で見つかる

noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!


https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825

 ベリーは、神秘の剣を二人に手渡すとさっそく説明を始めた。


「いいですか? 各自所定の場所に立ったら僕の合図で剣を胸の前で構えてください。しばらくすると清らかな心に剣が反応して光りだします」


(……光らんかったらどないしよ)


 テンはちょっとだけ不安になった。頭の触角が微妙に震える。

 さっきまでドヤ顔で「楽勝や」と言っていたが、心の中にはそれなりに思い当たる節がある。

 たとえば以前、ゾーイの目を盗んで、みかんを三つこっそり食べたこととか。


「剣が光るとアークライトが出現します。光のラインです。そうしたら僕の合図で剣を剣立てに立ててください。以上で完成です」


「えっ? それだけ?」


 なんともあっさりとした説明だった。

 ルナはもっと壮大で、かつ大掛かりな作業を想像していただけにいささか拍子抜けした。

 もっとこう、呪文とか詠唱とか、風が吹いてマントが翻るとか、そういうのがあると思っていた。


 なにはともあれ、三人はそれぞれ所定の位置についた。

 互いの間隔はおよそ五メートル。正三角形を描くように剣立てが足元に配置されている。


「では、いきますよー」


「もう!? ちょ、ちょっと待って! 心の準備が……」


 勢いよく申し出たはいいものの、ルナは内心ドキドキしながら両手で剣を握りしめ、腕をピーンと突っ張った。

 テンはというと、目をギュッと閉じて、剣を胸元で固く抱え込むように持っている。


「……」

「……」

「……」


 うんともすんともしない。


「あれ? ちょっとー、壊れてんじゃない? これッ!」


 ルナが剣を頭の上に掲げて左右に振る。


「だめですよ! 聖剣をそんな雑に扱っちゃ」


 まるで、箒でハエを追い払うかのように神聖な剣を振り回す。

 ベリーは慌てて制止する。


「みなさん、緊張しないで! リラックスリラックス。そして、精神を集中させてください。いいですね!」


 まるで、これからリンク上で演技を披露するフィギュアスケーターに声をかけるコーチのようだ。

 ルナとテンは、目を閉じ深く息を吸ってゆっくりと吐く。


「いきますよー」


(リラックスや、リラックス……)


(そして集中。むぅーーー)


 ルナは無心になろうとするが、なぜか昨日の夕飯の薄いスープの味が思い出される。

 テンは「清らかな心」という言葉を思い浮かべた瞬間、なぜか遠足のてるてる坊主の恨みが蘇った。


「……」

「……」

「……」


 うんともすんともしない。


「なんやねん! ちっとも光らんやないかいっ。やっぱ壊れてんちゃう?」


 テンが地面にコツコツと剣を叩きつける。


「ダメダメッ! そんなことしたら! 神聖な剣ですよ!」


 ベリーの冷や汗が止まらない。


「みなさん、邪念入ってませんか? 余計なことは考えないでください。無心ですよ、む・し・ん」


「せやから、その《《むしん》》ができたら世話ないねん」


「邪念を消すって、意外と難しいのね」


「だったら、せめて頭の中で1、2、3と数を数えててください。いいですね?」


 ベリーの顔に、一抹の不安がよぎる。


(こいつらで、本当に大丈夫なんだろうか……)


「よし、ではもう一度。いきますよー」


「その腑抜けた合図があかんちゃうか?」


 テンはぶつぶつ言いながらも、頭の中で数を数え始めた。

 ルナも同じく数える。


「1、2、3、4……」


 しばらくすると、剣がわずかに震え始めた。

 そして次の瞬間、三本の剣がほぼ同時に眩い光を放った。

 光の筋はまっすぐに互いを結び、空中に三つの頂点を線で繋いだ。

 正三角形の光が、空間の中心に浮かび上がる。


「キターッ! ものすごい光よ!」 


「よし、いまだ!!」


 ベリーの掛け声で三人は剣立てに剣を突き立てた。

 アークライトは光のトライアングルを保ったまま、聖なる輝きを空中に漂わせている。

 見事に光の結界が出来上がった。


「どうや!?」


「成功か?」


 二人は固唾を呑んで光のトライアングルを見つめる。

 すると、先ほどまで黒雲の渦を形成していた異次元エネルギーは、徐々に縮小し、やがて消えてなくなってしまった。洞窟の空気が一気に軽くなる。


「やった! 成功だー!」


 ベリーが小さな拳を天に突き上げた。


「やったー!」


 ルナとテンも諸手を上げて喜ぶ。


「やったね、テン! やればできるじゃん!」


「やればできるってなんやねん! そりゃあ、やればできるやろ!」


 わけのわからない返しだが、理屈だけは間違っていない。

 そう言いながらも、テンの表情は満更でもなさそうだった。


「君たちの澄み切った純真な心がアークライトを出現させ、見事、結界を発現させることができた。感謝するよ、ありがとう」


「えへへへへ、それほどでも~」


 謙遜しつつも、ルナの頬はしっかり緩んでいる。


「まあ、わかりきってたことやけどな」


 最初は不安がっていたテンも腕を組み、堂々のドヤ顔だ。

 ほんの数分前の触角の震えは、なかったことになっている。


 ほどなくして村に入ってこられなかった二人の妖精が飛んできた。


「おお、メロン! チェリー!」


 ベリーが嬉しそうに名前を呼ぶ。


「はぁあ? 全員フルーツなんか! アホくさッ」


「ベリー、エネルギーの暴走が止まったみたいだね」


 テンのディスる言葉をよそに、メロンが嬉しそうにランダムな軌道を描きながら向かってきた。

 メロンは、ベリーと同じく男の子の妖精だった。

 半分に割った夕張メロンの皮をそのまま被ったようなフード付きのグリーンウェアを身に纏っていた。

 背中には鮮やかな緑色の蝶の羽が軽やかに揺れている。


「どうやったの?」


 続いてチェリーが不思議そうな顔をしながら舞い降りてきた。

 瞳の赤いチェリーは、赤いマントにリボンネクタイをした少女だった。

 頭のフードから二本の枝が伸び、その先にはアメリカンチェリーが鈴なりにっている。

 背中には蝶の羽。虹色の光を帯び、空気を震わせるように静かに煌めいていた。


「えーーー! なになに!? かわいい!」


 チェリーを見るや否や、ルナは、目をハートにして思わず絶叫した。

 まるで初めて推しのアイドルを目の前にしたオタクのようだ。


「ルナとテンだ。彼らのおかげだよ」


 ベリーはルナとテンを見て、笑顔で返す。

 すると、メロンとチェリーが二人のところに飛んできて感謝の言葉を口にする。


「ルナ、テン、ありがとう。これで村は再び安泰になる。僕らからもお礼を言うよ」


 二人の妖精は、ホバリングしながら丁寧に頭を下げると、ベリーも近づいてきて気になっていることを尋ねてきた。


「ところで君たちはどうして旅をしてるんだい?」


 ベリーの質問に、ルナはひととおり旅の目的を説明した。


「う~ん、そのような名前の山は、この辺じゃ聞いたことがないね」


 ベリーだけでなく、メロンとチェリーも首をかしげる。


「そうですか……。じゃあもう少し旅を続けながら探してみます」


 妖精なら何か手がかりを持っているかもしれない――そんな淡い期待は、あっさりと打ち砕かれた。


 *   *   *


 洞窟の外に出た。洞窟の中にはわずかな時間しかいなかったが、容赦ない陽射しに二人は思わず顔をそむけた。

 三人の妖精も洞窟から出てきて見送ってくれた。


「じゃあ、行きますね。これからもナカジー村をよろしくお願いします。みなさんもお元気で」


「こちらこそ。ルナもテンも気をつけて」


「ほな、達者でな!」


 踵を返して歩き出そうとしたそのとき――

 ふいに、背後からベリーがふわりと飛んできて、ルナの耳元でそっと囁いた。


『ルナ、元の世界への扉は、星の光を辿る場所で見つかるだろう』


「えっ?」


 思わず振り返る。


 しかし、三人の妖精は笑顔を残し、微風とともに消えていった。


(……どういう意味だろう)


 山を越えて村へ戻ると、そこには久しぶりの雨が降り注いでいた。

 さっきまであれほど晴れていた空が、いつの間にか雲に覆われている。

 ぽつ、ぽつ、と降り始めた雨は、やがて村全体を包み込む優しい雨になった。

 干ばつ続きだったナカジー村は歓声に包まれていた。

 村人たちは空を仰ぎ、手を広げ、雨粒を受け止めている。

 なかにはくるくる回りながら踊っている人もいる。

 雨に濡れているのに、誰も気にしていない。むしろ濡れるほど嬉しそうだった。


 やがて二人は村長のアルバートに一連の出来事を話し、もう村は大丈夫だと伝えた。

 アルバートは深々と頭を下げ、二人に礼を述べる。


「ルナ、テン、君たちのおかげで村は救われた。村人を代表して礼を言う」


「いえいえ、たまたまですよ~」


 ルナは反射的にそう言ってしまったが、たまたまじゃない!

 けっこうがんばった。無心もがんばった。


「いつでも帰っておいで。歓迎するよ」


「ほな、次はうまい飯がごっつう食えるな」


「ははは、そうだね。その時はごちそうするとしよう」


「ほんまか? 忘れんといてや、村長。約束やで!」


 アルバートの言葉に乗じて、テンはちゃっかりタダ飯の約束を取り付け、小指をピンと突き立ててみせる。

 アルバートも自らの小指をその指にそっと絡めた。


 そうして、ルナとテンはナカジー村をあとにした。


「ルナ、俺なー」


「ん?」


「誰かにこんなに感謝されたん、生まれてはじめてやわ」


 テンは前を見たまま言う。

 ルナは一瞬だけ驚いた顔をした。


「ふふ、で、どんな気持ち?」


「う~ん……」


 テンは少し考えてから、肩をすくめる。


「悪くないな」


「はは、そうきたか」


 二人は顔を見合わせて笑った。

 そして再び旅へ出る。


 ――元の世界への扉は、星の光を辿る場所で見つかるだろう――


 どういうことだろうか。

 ルナはベリーの残した言葉がいつまでも頭から離れなかった……。



 エピソード V フェアリーの嘆き 「了」


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


今回は、ナカジー村で三人の妖精と出会いました。


さて、「清らかな心の持ち主でなければ光らない」という神秘の剣。


みなさん、ルナとテンの剣はちゃんと光ると思いましたか?(笑)


「ルナは大丈夫そう」

「テンはちょっと怪しい」

「いや、二人とも怪しい(笑)」


など、一言だけでも感想をいただけるとうれしいです!


ところで清らかな心ってなんだろう? 妖精ベリーの定義する清らかな心・・・。


次のエピソードも、ぜひよろしくお願いします!



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