第12話 いや、それどっちかゆーとすべり気味やで……
noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!
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新緑が朝の光を受けて、やわらかくきらめいていた。
雲ひとつない快晴の空の下、澄んだ空気が胸いっぱいに満ちていく。
道の脇には赤や黄色、紫の花々が咲き、風に揺れるたび、ほのかな香りを運んできた。
空高く、二羽のシラサギが並んで翼を広げ、白い影を地面に落としながら遠ざかっていく。
その様子を目で追いながら、ルナとテンは並んで歩いていた。
やがて道はゆるやかに開け、視界の先に明るい広場が姿を現す。
すると、前方になにやら人だかりが見えてきた。
ルナが目を細める。
その視線の先には、カラフルなテントや屋台が立ち並び、賑やかな笑い声と音楽が溢れていた。
「なんやなんや〜?」
わくわく感満載の関西弁を口にするテンの目は、どこか期待に満ちている。
「行ってみようか」
テンは「やっぱりそう来なくっちゃ」と言わんばかりに、満面の笑みでうなずいた。
二人はその人だかりへと駆け出した。
* * *
そこには、陶器、手作りアクセサリー、瓶詰めのジャム、古本、子供のおもちゃ、そして謎の骨董品まで――ありとあらゆるものが並び、色とりどりの古着が風に揺れていた。
「うわー、これフリマじゃない?」
ルナの目が一段と輝きを増す。
「フリマってなんや?」
質問したテンの目は、ルナ以上にきらめいているが、目線はルナではなくフリマにロックオンしたままだ。
「個人が、いろんなモノを売っている市場だよ。要らなくなった物や、手作りの品なんかを売っているんだよ」
「えっ? 要らんもん? せやけど、そんなもん売れるんか?」
「その人にとっては不要でも、誰かにとっては必要だったりするでしょ? それに元々捨てるものだから、安く出すのよ」
「にゃるほど〜」
テンがどこで覚えてきたのか、腕を組んで奇妙な相槌を打った。
本当に理解しているのかこいつ? などと思っていると、テンはさっそく店を回り始めた。
テンは、どの店にも興味津々で、ちょこまかと動き回っては「これなんや〜」「すげぇ〜」とひたすら叫んでいる。
まるで子供だ。そういえばテンって何歳だろうか。
すると、ルナの目に、色鮮やかで素敵な服が飛び込んできた。
「ねえ、これ見て見て〜。似合う?」
テンを呼び止め、花柄のワンピースを胸元に当ててポーズをキメる。
淡いピンクやラベンダー、水色の小さな花が、白地の布いっぱいに散りばめられている。
「ん〜、なんやな〜、なんちゅうか〜」
「何よ!」
「……ぽくない」
「はぁ〜あ⁉ ぽくないって……。女らしくないってこと? 失礼しちゃうわね〜。あたしだって女の子なのよ。あんたに訊いたあたしが間違いだったわ」
ぷいっとそっぽを向き、ワンピースをラックに戻す。戻し方が、さっきより少し強い。
そんなルナをよそに、テンがズバッと指をさす。
「ルナー、俺、これ欲しい!」
それは、線香花火やすすき花火など、手持ち花火が束になった花火セットだった。
「花火か! いいね、今日の夜にでもやろうか」
「やったー!」
テンはうれしさのあまり両手を上げてぴょんぴょんと跳ねる。
こいつぜったい十歳いってないな、と思うルナだった。
「5ゲイルです」
店番をしていたカモノハシ似の青年が穏やかに値段を言う。
ルナは小さな財布から銅の小さいコインを五枚取り出し渡すと、花火と一緒にマッチを受け取った。
* * *
「安かったね〜。さすがフリマだわ~」
良い買い物ができたと満足なルナの横で、テンはうれしそうにスキップをしている。
しかし、その足取りはぎこちない。
おまけに聞いたこともない曲を口笛で奏でる。音程は、だいぶ自由だ。
「ん?」
ふとある出店の前でルナは足を止めた。
そこは、小さな骨董品店。
古びた棚の上に並ぶ様々な陶器。
その中に、ひときわ愛嬌のある急須がちょこんと置かれていた。
「あー、かわいい〜♡」
ルナはその急須を手に取った。
ふっくらとした丸みのある形。色はやさしいベージュから薄い茶色へ、全体にふんわりとグラデーションがかかっている。
「かわいいフォルムだな〜」
うっとりと見つめるルナの横で、テンがジト目で見上げる。
「ただの急須やん」
「最近、急須を見るのが好きなんだよね〜。ママに骨董市に連れて行ってもらってから急須にハマっちゃって。でも、買えないから見て楽しんでるだけだけどね~」
その時、小さい丸椅子に腰かけていた店主が声をかけてきた。
「お嬢ちゃん、それよかったらあげようか?」
独特なサングラスをかけたアライグのような男が、タバコの煙をくゆらせながら、気怠い言葉を掛けてきた。声だけは妙にダンディーで、低く渋い。
「えっ? あげるって……まさか、タダで?」
「ああ。それ全然売れないから。お嬢ちゃん、お金なさそうだし。タダでいいよ」
アライグマ種族のド・サローは、乾いた笑みを浮かべながら煙を吐いた。
「いや、知らない人にタダでモノをもらうなんて……。ぜったい裏があるでしょ?」
懐疑心満々で見返すルナに、ド・サローが余裕の笑みで返す。
「お嬢ちゃん、俺がそんな悪い男に見えるかい?」
サングラス越しに見つめてくるが、ルナは――てか、アライグマを見て善人か悪人かなんて、正直わからん――と心の中で呟く。
「でも、タダより高いものはないって、うちのママが……」
ルナが戸惑っているとド・サローがタバコの火を灰皿の上で消しながら言う。
「いらないなら――」
「いります」
食い気味に被せてくるルナ。
「いるんかいッ!」
ド・サローがすかさずツッコむ。
「あざーっす! マンモスうれピー! ありがとう! おじさんッ」
ルナは、 最大限の感謝を口にする。
疑っていたのは、三十秒前の話である。詐欺にハマりやすい性格かもしれない。
ド・サローが古新聞のような紙で急須を包んでくれた。ルナはそれを大事にリュックへ仕舞い込む。
ふと気づくと、隣にいたはずのテンの姿がない。
あわてて見回すと、少し離れた店先で、あちこち顔を出して物色していた。
「テン、どう? なんかあった?」
「ルナ、フリマってめちゃ楽しいな♡」
* * *
広い草原の真ん中を軽快に歩く二人。背後には、活気と笑顔に満ちたフリーマーケット。
小さな紙袋に入った花火を手に、テンは満面の笑顔だ。
「楽しかったな〜フリマ」
「うん、楽しかったね。思わぬ収穫もあったし」
「ん? 花火のことか?」
テンが見上げる。
「そうだ、まだ見せてなかったね。あのかわいい急須ゲットしたんだよ」
ルナはリュックから、先ほど骨董品店でもらった急須を取り出す。
ふっくらとした丸いフォルム。ベージュに薄茶のグラデ模様が柔らかな陽を反射していた。
「おい、まさか買うたんか? それ!」
「いや、さすがに買わないわよ。なかなか使う機会がないしね。タダでくれたんだよ」
ルナは頬を緩ませながら、急須を手のひらでころころと転がして眺めていた。
「ふん、そんなんで喜びおって。お茶目やな」
「お茶だけにね!」
ウインクと共にドヤ顔を決めたルナ。
その直後、突然急須がグラグラと震え出した。
「うわっ!」
驚いて思わず手を放してしまい、急須は草の上にポトリと落ちる。
すると、その注ぎ口から、もくもくと紫色の煙が立ちのぼってきた。
煙はルナたちの前で大きな渦を形成すると、次の瞬間、煙の中から豪快な笑い声が響いた。
「ガハハハハハハハハハ!」
「ぎゃあああああああ!!」
二人は悲鳴と同時に後ろへ飛び退き、次の瞬間、腰を抜かしてぺたんと座り込む。
なんと煙の中から現れたのは、二メートル近い巨体の、蚤に似た男だった。
蚤とは、野良猫などに寄生して血を吸うあれである。
瞳はくりっとして丸い。つぶら、と言えば聞こえはいいが、よく見ると血走っている。
頭からは二本の触角が突き出している。こいつもか。
口は左右に大きく裂け、牙がずらり。一見して恐ろしい部類の顔だ。
その口の下には立派な白い顎ひげ。それだけで少し威厳が垣間見える。
そして首には茶色いマフラー、腰には謎の白いエプロン。
「で、で、出たー、お、お化けー!」
「な、なんやねん、このおっさん!?」
突然現れた蚤の巨人に、二人ともさすがに身体が震える。
「おめーら、ほんま失礼なヤツらじゃのう! お化けとか、おっさんとか。わしは偉大な大魔王じゃけん!」
しかも、妙な方言まじりで大魔王などとのたまう。
「だ、大魔王って……。なんで急須から出てくるのよ!」
「いや〜、久しゅうぶりに笑わせてもろうたわ〜。おめーらのギャグ、なかなかええのぉ!」
「ギャグ?」
「そうじゃ、わしは、ギャグがツボに入るとこの急須から出れるんじゃ」
ルナとテンは、キョトンとしたまま顔を見合わせる。
「俺たちがいつギャグなんかゆーた?」
「言うたじゃろ〜? お茶目に対して、お茶だけに、っちゅうてのぉ! もんげーウケたわー。ガッハッハッハッハ!!」
「いや、それどっちかゆーとすべり気味やで……」
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