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Monster PandemiX(モンスター・パンデミックス)  作者: 古賀丸マシカク
エピソード IV 家政夫ノミ太

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第12話 いや、それどっちかゆーとすべり気味やで……

noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!


https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825

 新緑が朝の光を受けて、やわらかくきらめいていた。

 雲ひとつない快晴の空の下、澄んだ空気が胸いっぱいに満ちていく。


 道の脇には赤や黄色、紫の花々が咲き、風に揺れるたび、ほのかな香りを運んできた。

 空高く、二羽のシラサギが並んで翼を広げ、白い影を地面に落としながら遠ざかっていく。


 その様子を目で追いながら、ルナとテンは並んで歩いていた。


 やがて道はゆるやかに開け、視界の先に明るい広場が姿を現す。


 すると、前方になにやら人だかりが見えてきた。

 ルナが目を細める。

 その視線の先には、カラフルなテントや屋台が立ち並び、賑やかな笑い声と音楽が溢れていた。


「なんやなんや〜?」


 わくわく感満載の関西弁を口にするテンの目は、どこか期待に満ちている。


「行ってみようか」


 テンは「やっぱりそう来なくっちゃ」と言わんばかりに、満面の笑みでうなずいた。


 二人はその人だかりへと駆け出した。


 *   *   *


 そこには、陶器、手作りアクセサリー、瓶詰めのジャム、古本、子供のおもちゃ、そして謎の骨董品まで――ありとあらゆるものが並び、色とりどりの古着が風に揺れていた。


「うわー、これフリマじゃない?」


 ルナの目が一段と輝きを増す。


「フリマってなんや?」


 質問したテンの目は、ルナ以上にきらめいているが、目線はルナではなくフリマにロックオンしたままだ。


「個人が、いろんなモノを売っている市場だよ。要らなくなった物や、手作りの品なんかを売っているんだよ」


「えっ? 要らんもん? せやけど、そんなもん売れるんか?」


「その人にとっては不要でも、誰かにとっては必要だったりするでしょ? それに元々捨てるものだから、安く出すのよ」


「にゃるほど〜」


 テンがどこで覚えてきたのか、腕を組んで奇妙な相槌を打った。

 本当に理解しているのかこいつ? などと思っていると、テンはさっそく店を回り始めた。


 テンは、どの店にも興味津々で、ちょこまかと動き回っては「これなんや〜」「すげぇ〜」とひたすら叫んでいる。

 まるで子供だ。そういえばテンって何歳だろうか。


 すると、ルナの目に、色鮮やかで素敵な服が飛び込んできた。


「ねえ、これ見て見て〜。似合う?」


 テンを呼び止め、花柄のワンピースを胸元に当ててポーズをキメる。

 淡いピンクやラベンダー、水色の小さな花が、白地の布いっぱいに散りばめられている。


「ん〜、なんやな〜、なんちゅうか〜」


「何よ!」


「……ぽくない」


「はぁ〜あ⁉ ぽくないって……。女らしくないってこと? 失礼しちゃうわね〜。あたしだって女の子なのよ。あんたに訊いたあたしが間違いだったわ」


 ぷいっとそっぽを向き、ワンピースをラックに戻す。戻し方が、さっきより少し強い。


 そんなルナをよそに、テンがズバッと指をさす。


「ルナー、俺、これ欲しい!」


 それは、線香花火やすすき花火など、手持ち花火が束になった花火セットだった。


「花火か! いいね、今日の夜にでもやろうか」


「やったー!」


 テンはうれしさのあまり両手を上げてぴょんぴょんと跳ねる。

 こいつぜったい十歳いってないな、と思うルナだった。


「5ゲイルです」


 店番をしていたカモノハシ似の青年が穏やかに値段を言う。

 ルナは小さな財布から銅の小さいコインを五枚取り出し渡すと、花火と一緒にマッチを受け取った。


 *   *   *


「安かったね〜。さすがフリマだわ~」


 良い買い物ができたと満足なルナの横で、テンはうれしそうにスキップをしている。

 しかし、その足取りはぎこちない。

 おまけに聞いたこともない曲を口笛で奏でる。音程は、だいぶ自由だ。


「ん?」


 ふとある出店の前でルナは足を止めた。

 そこは、小さな骨董品店。

 古びた棚の上に並ぶ様々な陶器。

 その中に、ひときわ愛嬌のある急須がちょこんと置かれていた。


「あー、かわいい〜♡」


 ルナはその急須を手に取った。

 ふっくらとした丸みのある形。色はやさしいベージュから薄い茶色へ、全体にふんわりとグラデーションがかかっている。


「かわいいフォルムだな〜」


 うっとりと見つめるルナの横で、テンがジト目で見上げる。


「ただの急須やん」


「最近、急須を見るのが好きなんだよね〜。ママに骨董市に連れて行ってもらってから急須にハマっちゃって。でも、買えないから見て楽しんでるだけだけどね~」


 その時、小さい丸椅子に腰かけていた店主が声をかけてきた。


「お嬢ちゃん、それよかったらあげようか?」


 独特なサングラスをかけたアライグのような男が、タバコの煙をくゆらせながら、気怠い言葉を掛けてきた。声だけは妙にダンディーで、低く渋い。


「えっ? あげるって……まさか、タダで?」


「ああ。それ全然売れないから。お嬢ちゃん、お金なさそうだし。タダでいいよ」


 アライグマ種族のド・サローは、乾いた笑みを浮かべながら煙を吐いた。


「いや、知らない人にタダでモノをもらうなんて……。ぜったい裏があるでしょ?」


 懐疑心満々で見返すルナに、ド・サローが余裕の笑みで返す。


「お嬢ちゃん、俺がそんな悪い男に見えるかい?」


 サングラス越しに見つめてくるが、ルナは――てか、アライグマを見て善人か悪人かなんて、正直わからん――と心の中で呟く。


「でも、タダより高いものはないって、うちのママが……」


 ルナが戸惑っているとド・サローがタバコの火を灰皿の上で消しながら言う。


「いらないなら――」

「いります」


 食い気味に被せてくるルナ。


「いるんかいッ!」


 ド・サローがすかさずツッコむ。


「あざーっす! マンモスうれピー! ありがとう! おじさんッ」


 ルナは、 最大限の感謝を口にする。

 疑っていたのは、三十秒前の話である。詐欺にハマりやすい性格かもしれない。


 ド・サローが古新聞のような紙で急須を包んでくれた。ルナはそれを大事にリュックへ仕舞い込む。

 ふと気づくと、隣にいたはずのテンの姿がない。

 あわてて見回すと、少し離れた店先で、あちこち顔を出して物色していた。


「テン、どう? なんかあった?」


「ルナ、フリマってめちゃ楽しいな♡」


 *   *   *


 広い草原の真ん中を軽快に歩く二人。背後には、活気と笑顔に満ちたフリーマーケット。

 小さな紙袋に入った花火を手に、テンは満面の笑顔だ。


「楽しかったな〜フリマ」


「うん、楽しかったね。思わぬ収穫もあったし」


「ん? 花火のことか?」


 テンが見上げる。


「そうだ、まだ見せてなかったね。あのかわいい急須ゲットしたんだよ」


 ルナはリュックから、先ほど骨董品店でもらった急須を取り出す。

 ふっくらとした丸いフォルム。ベージュに薄茶のグラデ模様が柔らかな陽を反射していた。


「おい、まさかうたんか? それ!」


「いや、さすがに買わないわよ。なかなか使う機会がないしね。タダでくれたんだよ」


 ルナは頬を緩ませながら、急須を手のひらでころころと転がして眺めていた。


「ふん、そんなんで喜びおって。お茶目やな」


「お茶だけにね!」


 ウインクと共にドヤ顔を決めたルナ。


 その直後、突然急須がグラグラと震え出した。


「うわっ!」


 驚いて思わず手を放してしまい、急須は草の上にポトリと落ちる。

 すると、その注ぎ口から、もくもくと紫色の煙が立ちのぼってきた。

 煙はルナたちの前で大きな渦を形成すると、次の瞬間、煙の中から豪快な笑い声が響いた。


「ガハハハハハハハハハ!」


「ぎゃあああああああ!!」


 二人は悲鳴と同時に後ろへ飛び退き、次の瞬間、腰を抜かしてぺたんと座り込む。


 なんと煙の中から現れたのは、二メートル近い巨体の、蚤に似た男だった。

 蚤とは、野良猫などに寄生して血を吸うあれである。


 瞳はくりっとして丸い。つぶら、と言えば聞こえはいいが、よく見ると血走っている。

 頭からは二本の触角が突き出している。こいつもか。

 口は左右に大きく裂け、牙がずらり。一見して恐ろしい部類の顔だ。

 その口の下には立派な白い顎ひげ。それだけで少し威厳が垣間見える。

 そして首には茶色いマフラー、腰には謎の白いエプロン。


「で、で、出たー、お、お化けー!」


「な、なんやねん、このおっさん!?」


 突然現れた蚤の巨人に、二人ともさすがに身体が震える。


「おめーら、ほんま失礼なヤツらじゃのう! お化けとか、おっさんとか。わしは偉大な大魔王じゃけん!」


 しかも、妙な方言まじりで大魔王などとのたまう。


「だ、大魔王って……。なんで急須から出てくるのよ!」


「いや〜、ひさしゅうぶりに笑わせてもろうたわ〜。おめーらのギャグ、なかなかええのぉ!」


「ギャグ?」


「そうじゃ、わしは、ギャグがツボに入るとこの急須から出れるんじゃ」


 ルナとテンは、キョトンとしたまま顔を見合わせる。


「俺たちがいつギャグなんかゆーた?」


「言うたじゃろ〜? お茶目に対して、お茶だけに、っちゅうてのぉ! もんげーウケたわー。ガッハッハッハッハ!!」


「いや、それどっちかゆーとすべり気味やで……」


noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!


https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825

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