第11話 不吉な予言
noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!
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ルナとテンは、にぎやかな万寿街を引き続き楽しむことにした。
「なんか、小さい頃に家族と行った街にとても似てるな〜」
湧き立つ人波と香ばしい匂いに包まれながら、ルナの心はふと、遠い昔へと引き戻された。
「家族って、とーちゃんとかーちゃんのことか?」
テンが、ルナの顔を見上げて尋ねる。
「そう……、なんかすごい昔に感じる……」
ルナの瞳が、ふいに沈んだ色を帯びた。時間の長さではなく、距離の長さだ。戻れない場所はやたらと遠く、長く感じる。
テンは、それを察したのか——
「ほんなら、その思い出話聞かせてくれへんか?」
予想もしてなかった言葉に、丸くした目をテンの方に向ける。
好奇心がテンの目の奥で輝いていた。
「うん、いいわよ」
* * *
——それはね、まだあたしが小さな手でパパの指をぎゅっと握っていた頃のこと。
初夏の晴れた日。
ママは、水色のワンピースを着て、髪をひとつに束ね、
クマの顔が刺繍されたショルダーバッグを肩から下げていた。
パパは、白いTシャツにわざとダメージを与えたディストレストジーンズ。
いつものように無口で、それでいてどこか頼もしい背中を見せていたわ。
出かけた先は横浜の中華街。
赤い提灯が連なる門をくぐった瞬間、あたしは思わず歓声を上げたの。
「わあ、怪獣がいる!」
あちこちに飾られた龍のオブジェを見上げて指をさした。
パパは「おお、ほんとだな」と声を弾ませ、そのままあたしをひょいと肩車してくれた。
見上げた空がぐんと近くに感じられて、キャッキャと声をあげて喜んだのを覚えてる。
ママがそれを見て、小さく手を叩いて笑っていた。
屋台で食べた小籠包は、湯気がすごくて、あたしには少し熱すぎた。
ママは「ふうふうしてから食べなさい」と優しく言い、パパはその横で「これが本場の味だ」と、どこか誇らしげにうなずいた。
ママがよく喋り、パパはそれを「うんうん」と聞きながら、最後にぽつりと一言、冗談を言う。あたしはそのやり取りが好きだった。
まるで家族全体がひとつの優しいリズムで呼吸しているような、そんな心地よさがあったの——
* * *
「赤いチャイナドレスも着せてもらえて、なんかとっても楽しかったな〜」
ルナは、ひととおり話し終えると、テンの顔を覗いた。
なんとも言えないような表情……。笑っているのか、泣いているのか……。
いつもなら茶化すはずなのに、いまは黙っている。
複雑な思いがテンの心に溢れているようだ。
ルナはそこで、はっとする。
「あっ……、ごめん。テンは両親とこういう思い出ないんだったよね?」
ルナは、テンに嫌な思いをさせてしまったかと思い、申し訳なさそうに謝った。
すると——
「なに謝っとんねん。ええ思い出やないけ」
と、前を向いてスタスタと歩きだす。
「テン……?」
テンは前方から視線を逸らすことなく、力強く言った。
「ルナ、絶対おまえを元の世界に戻したるからな」
そう言うと、右手を上げて小さい拳を作った。
* * *
引き続き商店街を歩いていると、一軒の占いの店が目に入った。
看板には——
『占い百発百中! 万寿の母――弥生』
と書かれている。
「ねえ、テン、占いやっていい?」
女子中学生は異世界に行っても占いは好きらしい。
「まあええけど、百発百中ってほんまかいな~。めっちゃ怪しいで」
テンは眉をひそめながら看板を一瞥する。
すると、通りすがりのライオン種族の中年女性が、すかさず声をかけてきた。
「ちょっと、あんたたち! あそこはやめとき!」
「えっ?」
「インチキ占いで有名だよ。しかも、金を巻き上げられるから気をつけな!」
ライオンおばちゃんはそう言い残すと、そのまま足早に去っていってしまった。
「よー教えてくれたで。ほんま、危なかったわー」
「うん……」
二人はそのまま店を素通りしようとしたその時である――
「そこのお嬢ちゃん、待ちなはれ」
店のほうから野太い声で呼び止められた。
ルナはビクッと金縛りにあったように硬直する。そしてゆっくりと声のするほうを振り向く。
そこには赤いキノコ頭の太った女性が、眼光鋭く店の奥から睨みを利かしていた。
ちなみに年齢不詳だ。
「……はい?」
蛇に睨まれたカエルのような声をなんとか絞り出す。
「おまえは、近い将来、とてつもなくつらい事実を目の当たりにするだろう」
キノコ頭の弥生は、占いを頼んでもいないのに勝手に不吉な言葉を口にする。
商売としてどうなのかはともかく、効果は抜群だ。
そんなこといきなり言われたら気になってしょうがない。不安に駆られたルナが思わず訊き返す。
「えっ? つらい事実って……なに?」
声が、ほんの少し震えている。
「この先を知りたければ……」
見ると、弥生が片手を差し出している。つまり金を催促しているのだ。
百発百中は、まず相手の財布を射抜くらしい。
「このインチキ占い師め! その手に乗るかい!」
警戒心マックスのテンが叫んだ。
「さっさと行くで、ルナ」
テンはルナの手をぐいっと掴むと、その場から逃げるように歩き出した。
けれどルナは、一歩進むごとに胸の奥が重くなるのを感じていた。
占い師の声が、耳の奥に残っている。
——近い将来、とてつもなくつらい事実を目の当たりにするだろう——
「いったいなんだろう、つらい事実って……」
エピソード III あんまんの悲劇 「了」
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
今回は「あんまんの悲劇」から、まさかのジェット噴射まで(笑)。
いじめられていたムーでしたが、いざという時に真っ先にハニーを助けに動きました。
みなさん、ムーの印象はどうでしたか?
「かっこいい!」
「ジェット噴射は反則(笑)」
「まさかこんなキャラだとは思わなかった」
など、一言だけでも感想をいただけるとうれしいです!
他の感想でも結構です。
そして最後に、万寿の母・弥生が告げた
「とてつもなくつらい事実」。
果たしてルナの旅の先に、何が待っているのでしょうか。
次のエピソードも、ぜひよろしくお願いします!




