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Monster PandemiX(モンスター・パンデミックス)  作者: 古賀丸マシカク
エピソード III あんまんの悲劇

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第11話 不吉な予言

noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!


https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825

 ルナとテンは、にぎやかな万寿街を引き続き楽しむことにした。


「なんか、小さい頃に家族と行った街にとても似てるな〜」


 湧き立つ人波と香ばしい匂いに包まれながら、ルナの心はふと、遠い昔へと引き戻された。


「家族って、とーちゃんとかーちゃんのことか?」


 テンが、ルナの顔を見上げて尋ねる。


「そう……、なんかすごい昔に感じる……」


 ルナの瞳が、ふいに沈んだ色を帯びた。時間の長さではなく、距離の長さだ。戻れない場所はやたらと遠く、長く感じる。


 テンは、それを察したのか——


「ほんなら、その思い出話聞かせてくれへんか?」


 予想もしてなかった言葉に、丸くした目をテンの方に向ける。

 好奇心がテンの目の奥で輝いていた。


「うん、いいわよ」


*   *   *


 ——それはね、まだあたしが小さな手でパパの指をぎゅっと握っていた頃のこと。


 初夏の晴れた日。

 ママは、水色のワンピースを着て、髪をひとつに束ね、

 クマの顔が刺繍されたショルダーバッグを肩から下げていた。


 パパは、白いTシャツにわざとダメージを与えたディストレストジーンズ。

 いつものように無口で、それでいてどこか頼もしい背中を見せていたわ。


 出かけた先は横浜の中華街。

 赤い提灯が連なる門をくぐった瞬間、あたしは思わず歓声を上げたの。


「わあ、怪獣がいる!」


 あちこちに飾られた龍のオブジェを見上げて指をさした。

 パパは「おお、ほんとだな」と声を弾ませ、そのままあたしをひょいと肩車してくれた。


 見上げた空がぐんと近くに感じられて、キャッキャと声をあげて喜んだのを覚えてる。

 ママがそれを見て、小さく手を叩いて笑っていた。


 屋台で食べた小籠包は、湯気がすごくて、あたしには少し熱すぎた。

 ママは「ふうふうしてから食べなさい」と優しく言い、パパはその横で「これが本場の味だ」と、どこか誇らしげにうなずいた。


 ママがよく喋り、パパはそれを「うんうん」と聞きながら、最後にぽつりと一言、冗談を言う。あたしはそのやり取りが好きだった。

 まるで家族全体がひとつの優しいリズムで呼吸しているような、そんな心地よさがあったの——


*   *   *


「赤いチャイナドレスも着せてもらえて、なんかとっても楽しかったな〜」


 ルナは、ひととおり話し終えると、テンの顔を覗いた。

 なんとも言えないような表情……。笑っているのか、泣いているのか……。

 いつもなら茶化すはずなのに、いまは黙っている。

 複雑な思いがテンの心に溢れているようだ。


 ルナはそこで、はっとする。


「あっ……、ごめん。テンは両親とこういう思い出ないんだったよね?」


 ルナは、テンに嫌な思いをさせてしまったかと思い、申し訳なさそうに謝った。


 すると——


「なに謝っとんねん。ええ思い出やないけ」


 と、前を向いてスタスタと歩きだす。


「テン……?」


 テンは前方から視線を逸らすことなく、力強く言った。


「ルナ、絶対おまえを元の世界に戻したるからな」


 そう言うと、右手を上げて小さい拳を作った。


 *   *   *


 引き続き商店街を歩いていると、一軒の占いの店が目に入った。


 看板には——


『占い百発百中! 万寿の母――弥生やよい


 と書かれている。



「ねえ、テン、占いやっていい?」


 女子中学生は異世界に行っても占いは好きらしい。


「まあええけど、百発百中ってほんまかいな~。めっちゃ怪しいで」


 テンは眉をひそめながら看板を一瞥する。


 すると、通りすがりのライオン種族の中年女性が、すかさず声をかけてきた。


「ちょっと、あんたたち! あそこはやめとき!」


「えっ?」


「インチキ占いで有名だよ。しかも、金を巻き上げられるから気をつけな!」


 ライオンおばちゃんはそう言い残すと、そのまま足早に去っていってしまった。


「よー教えてくれたで。ほんま、危なかったわー」


「うん……」


 二人はそのまま店を素通りしようとしたその時である――


「そこのお嬢ちゃん、待ちなはれ」


 店のほうから野太い声で呼び止められた。


 ルナはビクッと金縛りにあったように硬直する。そしてゆっくりと声のするほうを振り向く。

 そこには赤いキノコ頭の太った女性が、眼光鋭く店の奥から睨みを利かしていた。

 ちなみに年齢不詳だ。


「……はい?」


 蛇に睨まれたカエルのような声をなんとか絞り出す。


「おまえは、近い将来、とてつもなくつらい事実を目の当たりにするだろう」


 キノコ頭の弥生は、占いを頼んでもいないのに勝手に不吉な言葉を口にする。

 商売としてどうなのかはともかく、効果は抜群だ。


 そんなこといきなり言われたら気になってしょうがない。不安に駆られたルナが思わず訊き返す。


「えっ? つらい事実って……なに?」


 声が、ほんの少し震えている。


「この先を知りたければ……」


 見ると、弥生が片手を差し出している。つまり金を催促しているのだ。

 百発百中は、まず相手の財布を射抜くらしい。


「このインチキ占い師め! その手に乗るかい!」


 警戒心マックスのテンが叫んだ。


「さっさと行くで、ルナ」


 テンはルナの手をぐいっと掴むと、その場から逃げるように歩き出した。


 けれどルナは、一歩進むごとに胸の奥が重くなるのを感じていた。

 占い師の声が、耳の奥に残っている。


 ——近い将来、とてつもなくつらい事実を目の当たりにするだろう——


「いったいなんだろう、つらい事実って……」



 エピソード III あんまんの悲劇 「了」

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!


今回は「あんまんの悲劇」から、まさかのジェット噴射まで(笑)。


いじめられていたムーでしたが、いざという時に真っ先にハニーを助けに動きました。


みなさん、ムーの印象はどうでしたか?


「かっこいい!」

「ジェット噴射は反則(笑)」

「まさかこんなキャラだとは思わなかった」


など、一言だけでも感想をいただけるとうれしいです!


他の感想でも結構です。


そして最後に、万寿の母・弥生が告げた

「とてつもなくつらい事実」。


果たしてルナの旅の先に、何が待っているのでしょうか。


次のエピソードも、ぜひよろしくお願いします!


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