第10話 勇者ムー
noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!
https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825
すると突然うしろのほうで声がした。
「ぼくの背中に急いで乗せて」
それは、さっきまで虐められていたムーの声だった。
「ムー、おまえ! なにを言ってるんだ、こんな時に!」
怪訝な顔で恫喝してくるゲッペ兄弟を尻目に、ムーはハニーを無理やり背中に乗せた。
そして、六本の手足を甲羅の中に引っ込めると――
ゴオォォォッ!!
手足を引っ込めた穴から噴き出すジェット噴射で、なんと宙に浮いたのだ!
目をむいて驚くゲッペ兄弟とルナ。そしてあんまんを食べ終わったテン。
「ムー! いったいなにをする気だー!」
マロンが叫ぶ。
「病院に連れていく。ついてきて」
ムーはそう叫ぶとぎゅーんと凄まじいスピードで飛び去った。
呆気にとられて立ち尽くしているゲッペ兄弟。
「ほらっ! ノソノソしてないで、あたしたちも病院に急ぐよ!」
ルナの声でハッと我に返り、ゲッペ兄弟はルナたちの後を慌てて追いかけた。
* * *
ムーの飛行スピードは驚異的に速く、とても追いつけなかった。
そりゃそうだ、相手はジェットだ。歩兵に勝ち目はない。
ルナとテンは全速力で走り、なんとか病院にたどり着いた。
「あ~、しんど~。さっき食ったあんまんが口から出そうや」
「テン……なにへこたれてんのよッ。たいして走ってないわよ……」
余裕のルナに対してテンはへろへろだ。
だいぶ遅れてゲッペ兄弟二人も病院に着いた。
「がはーっ…… がはーっ……」
いまにもなにかを吐きそうな状態で、その場に崩れた。
饅頭のような体は、走るために作られているわけではない。
「あー、こんなに走ったの人生初だわー」
「遅すぎ! あんたたち! 少しはダイエットしなさいよッ。まったく~」
何はともあれ、四人は病院の入口をくぐっていった。
すると、待合室の椅子に座るムーの姿があった。
「ムー。ハニーはどこだ?」
長男のマロンは、妹の姿がどこにも見えないので凄みをきかしてムーに迫る。
凄んでも息が上がっているせいで、迫力が少し削がれている。
「緊急手術になって、いまオペ中だよ」
「な、なんだって!?」
マロンとチョコはお互いの顔を見合わせ、血の気が引いていくのを感じていた。
「えっ! あたしのせい?」
ルナの表情が一気に曇る。
自分の空中殺法が原因ではないかと、罪悪感が胸をよぎる。
「正義のつもりが過失致傷」――そんな新聞の見出しが頭をかすめる。
すると、手術室の扉が開き、ドクターJが姿を現した。
白衣をまとい、メガネをかけたシロクマ種族の医師。
なぜかその頭には、雄鹿の角が申し訳なさそうに生えていた。
「あ〜、二日酔いでのオペはキッツイな〜」
ドクターJは、いかにもダルそうに肩を回すと、ポケットからタバコを一本取り出し一服する。
緊張感と紫煙が、同時に漂う。
「先生! ハニーはどうなったんですか?」
チョコは泣きそうになりながら尋ねる。いや、もうすでに泣いているのだろうが、全速力で走ってきた汗と混じってよくわからない。
「いやー、あとちょっと遅かったら大変なことになっていたぜ」
機関車が出発するときみたいに煙を鼻から思いっきり吐き出した。
「えっ? 大変なことって?」
ルナが、眉を寄せながら前のめりになる。
まさか、内臓破裂とか……? 肋骨複雑骨折とか? 内心穏やかではなかった。
「まあ、でももう大丈夫だ。俺って天才だから」
「だ、大丈夫って……。どこかケガでも?」
マロンの言葉に固唾を呑む。
「ん? ただの盲腸だよ」
「盲腸……」
一瞬フリーズしたあと、安堵のあまりマロンとチョコはその場にへなへなと崩れ落ちた。
(あ~、よかった。あたしのせいじゃなくて〜)
ルナも心の声が漏れないように、ほっと胸をなでおろした。
安心したのか、ゲッペ兄弟の二人はムーに近寄ると、マロンが少し照れくさそうに口を開く。
「ムー、おまえのおかげで妹は助かったよ。ありがとな」
チョコも頷きながら、素直に言葉を続けた。
「おまえぜんぜんのろまじゃないんだな」
あの驚異的なジェット飛行を目の当たりにし、ムーへの認識がガラリと変わったようだった。
すると、ルナが腕を組んでふんぞり返る。
「あんたたちは、あたふたするばかりでなにもできなかったけど、そこの勇者ムーはとっさに行動することができた。本当に強いということは、そういうことなんだよ」
自分の責任ではないことがわかったとたん、急に強気な態度に出た。
したたかな女である。
「せや、みんな仲良くするんやで! 同じ街の住人やねんから」
テンが偉そうに説教を垂れる。
おまえは、さっきまであんまん食ってただけだろうがいッ。
ルナは心の中で激しくそう思ったが口に出すのはやめておく。
「……そうだな、いままでいじめてごめん」
マロンが素直に頭を下げると、チョコもそれに倣った。
ところが、ムーは、そんな謝罪を聞いているのかいないのか、まったく気にしている様子もなく、壁にかかっている時計を見ると、「もう帰らないとお母さんに叱られる」と、言って外に駆け出した。
すると、また手足を引っ込めてジェット噴射で宙に浮くと、今度はコマのようにクルクルと回転しながら、遥か彼方へ飛んでいってしまった。
ルナ、テン、ゲッペ兄弟は、口をあんぐりと開けて見送ることしかできなかった。
それ以降、ゲッペ三兄弟がいじめをすることはなくなった。
noteにて「Monster PandemiX」の裏話を公開中!
https://note.com/kogamaru_mp/n/na6350cefe825




