第9話 カズヤの過去
工房を出た俺たちは、その足でギルドへ向かった。
素材を取りに行くにしても、正式な依頼として受けた方が都合がいい。
ギルドに入ると、受付嬢のシルビアがこちらに気づき、ぱっと表情を明るくした。
「タイチさん、今日は一人じゃないんですね。
……なんだか嬉しいです」
(そんなに俺はぼっち扱いされてたのか……まぁ無理もないか)
横でカズヤが小声で笑う。
「先輩……相変わらずぼっち好きなんですね」
「うるさい」
軽口を交わしていると、シルビアが書類を確認しながら言った。
「ちょうど良い依頼がありますよ。
アイアンリザードの討伐依頼です」
「アイアンリザード……?」
「はい。北の鉱山に住み着いてしまって、採掘ができず困っているそうです。
本来は深層にいる魔物なんですが……」
俺はふと気になって口を開いた。
「ミスリル鉱石って、この鉱山で採れますか?」
シルビアは一瞬だけ目を瞬かせた。
「え? あ、はい。
深層にミスリル鉱脈があります」
カズヤが小さく笑う。
「先輩、ミスリル鉱脈があるなら、この依頼受けた方が効率いいですね」
シルビアは少し考え、俺の方を見て柔らかく笑った。
「……深層は危険ですけど、タイチさんなら大丈夫ですね。
無茶しますけど、依頼は全部成功させますし」
「……俺、そんな扱いなんですか?」
「い、いえ! 悪い意味じゃなくて……
あなた、ちゃんとやり遂げるじゃないですか。
だから……信頼してますよ」
カズヤが吹き出す。
「ぷは……先輩、問題児だけど実力は本物ってことっすね」
「……否定できないのが腹立つな」
俺は依頼書にサインした。
「アイアンリザード討伐、受けます」
「はい、受理しました。
どうかお気をつけて」
こうして俺たちは、素材を集めるため鉱山へ向かうことにした。
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城門を出て北の街道を歩いていると、カズヤがふいに口を開いた。
「……先輩。
俺がなんでこの国に来たか、聞かないんですか?」
「お前が話したいなら話せばいい」
「先輩らしいっすね……
でも先輩には聞いてほしいです」
カズヤは少し息を吸い、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「俺……あの国じゃ、奴隷扱いだったんです。
寝る間もなく武器を作らされて……
自分の作りたい武器なんて作ろうとしたら、坂上課長に殴られて……
司祭の言っていた自由なんて、ありませんでした」
拳が震えていた。
「霧島部長も早乙女さんも……
俺を道具としか見てませんでした。
そんな毎日でした」
俺は小さく息を吐いた。
「……そうか」
「そんな俺を見かねて……
綾花先輩が逃がしてくれたんす」
俺の足が止まりかけた。
「……綾花が?」
「はい。
俺が殴られてるの見て、こんなの間違ってるって言って……
夜中にこっそり連れ出してくれたんす」
カズヤの声は震えていたが、
その表情はどこか誇らしげだった。
「でも部長たちが追ってきて……
巻くために途中で別れて……
俺はこの国に流れ着いたってわけです」
俺は黙っていたが、拳を握りしめていた。
「……綾花は、その後どうなった?」
カズヤは空を見上げた。
「分からないです。
でも――
銀色の弓使いが軍に引き抜かれた、って噂は聞いたことあります」
胸が強く跳ねた。
(……その噂、俺も聞いた)
「……俺も聞いた」
カズヤが驚いたように顔を向ける。
「先輩も……?」
「ああ。
ただ、確証がなかった。
銀髪の弓使いなんて他にもいるかもしれないし……」
言葉を濁しながらも、胸の奥で静かに熱が揺れていた。
(もし……綾花なら)
カズヤは小さく笑った。
「でも、綾花先輩なら……あり得るっすよね」
俺は深く息を吸った。
「ああ……生きてるなら、それでいい」
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北の空に、黒い山影がうっすらと見えてきた。
「……先輩、あれが鉱山です。
でも、まだ距離があります。
今日はここで休みましょう」
太陽は傾き、風が冷たくなり始めていた。
「明日の昼頃には着きます。
アイアンリザード……今までの魔物とは違います。
覚悟しておいた方がいいです」
俺は静かに頷いた。




