第7話 冒険者の噂話
ロックベア討伐からしばらく経った頃。
俺はギルドで受けた大型魔物の討伐依頼に向かっていた。
討伐対象は――フォレストホーン。
森に棲む鹿型の魔物で、跳躍力と突進力が高いCランク上位。
角に風の魔力を宿し突進してくるため、まともに受ければ身体を貫かれる。
(……こいつ相手なら、ヘルフレイムを試してもいいかもな)
森の奥で、そいつは木の皮を削り取っていた。
緑がかった角、苔のついた毛並み。
俺は剣を構え、距離を詰める。
フォレストホーンがこちらに気づき、地面を蹴った。
「ファイヤーバインド」
炎の鎖が伸び、足元を絡め取る。
足が一瞬止まった。
その隙に斬り込む。
ガギィンッ!!
(……反応速度が速い)
角で剣が弾かれ、腕に衝撃が走る。
このままじゃ決め手に欠ける。
フォレストホーンが拘束を引きちぎり、跳躍して飛びかかってきた。
(……あれを使ってみるか)
俺は深く息を吸い、手を前に突き出した。
「――ヘルフレイム」
赤黒い魔法陣が展開し、黒炎がぼうっと灯る。
次の瞬間――視界が黒炎に飲まれた。
(まずい……制御できない……!)
黒炎が暴れ、空気が歪む。
フォレストホーンの跳躍が炎に飲まれ、悲鳴を上げて転げ回る。
だが――
「っ……!」
黒炎が暴走し、俺の腕に迫る。
肌が焼けるような熱気。
ほんの一瞬遅れていたら、自分が焼かれていた。
慌てて魔力を引き、黒炎を押さえ込む。
炎が収まった時、フォレストホーンは黒焦げになって倒れていた。
角は割れ、毛皮は炭。
討伐証明部位すらギリギリ残っている程度。
「……くっ……!」
膝が落ちそうになるほど、魔力が一気に抜けた。
(……制御できるようにならないとな)
この日を境に、俺は毎日のように黒炎の制御練習をした。
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――数週間後。
ギルドの依頼をこなしているうちに、冒険者ランクはBまで上がった。
レベルも20に達し、剣術と魔法はあの頃とは比べものにならないほど上達していた。
ファイヤーボールは貫通力の高い《フレイムランス》へと進化し、ファイヤーバインドはより強力な拘束魔法へと強化された。
そしてヘルフレイムは、武器や魔法へ纏わせて扱えるほどコントロールできるようになった。
成長を実感する日々だった。
ギルドに入ると、冒険者たちが騒いでいた。
「隣国で活躍してた銀髪の弓使いが、この国に来たらしい」
「軍が引き抜こうとしてるって噂だぞ」
「ソルディアと揉めてるのに大丈夫なのかよ……」
銀髪の弓使い。
その言葉に、思わず足が止まった。
(……銀髪……まさか……)
前の世界の同僚たち。
転生後、誰がどんな職を得たのかは知らない。
だが、銀髪という特徴は一致しすぎている。
「しかもその銀髪の弓使い……転生者じゃないかって噂もあるらしい」
胸がざわつく。
さらに別の声が聞こえた。
「鍛冶屋のやつも転生者だって話だぞ」
「イグナリアで店を開いた新入りだ。見たことない形の剣を作ってるらしい」
「頑丈で魔力の通りもいいんだと」
頑丈で魔力通りが良い武器。
(……ヘルフレイムに耐えられる剣が作れるかもしれない……)
受付へ向かうと、シルビアが微笑んだ。
「タイチさん、おはようございます。
鍛冶屋の噂、聞きました?」
「聞きました。ちょうど行ってみようかと」
シルビアは地図を取り出す。
「鍛冶通りの奥です。
最近“カズヤさん”という方が店を開いたんです。
腕が良いって評判ですよ」
(カズヤ……?)
後輩の名前が脳裏をよぎる。
「ありがとう。行ってみます」
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俺はギルドを出てから鍛冶通りへ向かった。
鉄を打つ音、火花、熱気。
いつもの鍛冶通りだが、奥へ進むほど人通りが少なくなる。
その一番奥──
古い建物の前に、新しい木製の看板が掲げられていた。
《鍛冶工房・風林火山》
胸の奥がざわつく。
俺は静かに扉へ手を伸ばした。
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【スキルボード:タイチ・クロサワ 17歳】
LV:20
HP:202
MP:208
魔法適性:火魔法A+
固有スキル
・焔神の加護
・アイテムボックス
剣術
・フレイムスラッシュ
魔法
・フレイムランス
・フレイムチェイン
・ヘルフレイム




