第44話 価値観の違い
森の奥で、光が揺れた。
アヤカは弓を構えたまま、
早乙女と真正面から向き合っていた。
早乙女の指先には、
すでに魔力が集まり始めている。
「綾花ちゃんさぁ……なんで私たちのこと裏切ったの?
ちゃんと可愛がってあげてたじゃない?」
アヤカは息を整え、
弓を握る手に力を込める。
「……あなた達のやり方は間違ってる。
生産職のみんなを奴隷みたいに扱って……
一緒に転生してきた仲間なのに……
そんなの、許せない」
早乙女は甲高く笑った。
「アハハハハ! でも結局見捨てたじゃない?
あなたが救えたのは一人だけ。
あとはみーんな捕まって、前よりひど〜い目に遭ってるわよ?」
「そんな……私のせいで……」
「でも安心して。死なない程度には働かせてるから。
ダメになったら私が治してあげてるし?」
「そんなの……人のすることじゃない」
「何言ってるの?この世界は弱肉強食よ?
弱者は強者に媚びるしかないの。
綾花ちゃんが何を言おうと、あなたに救える力なんてないでしょ?
弱者のあなたは目障りなの。
だから――もう死になさい」
空気が震えた。
魔力が一気に膨れ上がり、森の温度が変わる。
アヤカは木陰へ滑り込みながら矢を番える。
「……来る」
「――ホーリーランス!」
光の槍が放たれ、
アヤカの居た場所を貫いた。
アヤカは息を殺し、
早乙女は魔力を溜める。
どちらが先に動くか――
その一瞬の読み合いが、この戦いの勝敗を決める。
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アヤカは木陰から一瞬だけ顔を出し――
――クイックショット。
風を裂く音すら残さない最速の一矢が、
早乙女の視界を奪う。
「ちょっ……速っ……!」
早乙女は反射的に障壁を展開。
光の膜が瞬時に広がる。
その裏で、アヤカはすでに次の矢を放っていた。
――レイトショット。
ふわりと漂うように遅い矢。
だが軌道は読めない。
「遅っ……そんなの当たるわけ――」
言い切る前に、三本目。
――バウンスショット。
木の幹に当たった矢が角度を変え、
早乙女の死角へ滑り込む。
早乙女は光槍を撃つために視線を前へ向けていた。
その一瞬の隙──
矢が頬をかすめた。
細い線が走り、
白い頬に赤い傷が浮かぶ。
「……っ」
早乙女の動きが止まった。
アヤカは木陰から息を殺し、
次の矢を番える。
早乙女はゆっくりと頬に触れ、
指先についた血を見た。
その瞬間──表情が変わった。
「……アヤカちゃん」
声が低い。
「私の大事な顔に……傷つけた?」
アヤカの背筋がぞくりと震えた。
早乙女の魔力が一気に膨れ上がる。
空気が震え、地面が軋む。
「許さない……許さない……許さない……
霧島部長に嫌われたらどうするのよ……
絶対に許さない……!」
怒りで魔力が暴走し、
光が爆ぜるように広がった。
「アヤカちゃん……
一生許さないから。
――ホーリーレインスラッシュ!」
光の刃が空から降り注ぎ、
アヤカの隠れていた木々をまとめて切り裂く。
アヤカはギリギリで避けながら、
息を荒くして呟いた。
「このまま……魔力を使ってもらえれば……」
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早乙女が魔力を溜める。
膨れ上がる魔力が周囲の木々を揺らす。
アヤカは木の影に身を伏せ、
弓を構えたまま動かない。
「……撃たない……?」
早乙女が眉をひそめる。
アヤカは息を止め、
早乙女の魔力の流れを読む。
魔力が収束し、光が集まる。
――その瞬間。
「――ホーリーエクスプロージョン!」
森が白く染まり、爆風が木々を揺らす。
その直後――
魔力が散る。
大技の後の空白。
アヤカはそこを狙っていた。
――ソニックショット。
――レイトショット。
速い矢が早乙女の視線を奪い、
遅い矢がその裏を滑る。
「っ……!」
遅い矢が、
早乙女の腹部に深く刺さった。
「……痛っ……!
ありえないんだけど……!」
早乙女の顔に、再び怒りが浮かぶ。
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「……もういい。消し飛べ……!」
再び、早乙女の魔力が膨れ上がる。
ホーリーエクスプロージョンが、
アヤカの隠れていた木々をまとめて吹き飛ばした。
アヤカは避けきれず、
木に叩きつけられる。
「──っ……!」
視界が揺れ、
アヤカの意識が落ちていく。
早乙女は腹を押さえながら立っていたが、
魔力の消耗が激しく、呼吸が荒い。
「……はぁ……はぁ……
ちょっと……やりすぎた……
魔力……尽きちゃった……」
その場に膝をつく。
森には、
二人の倒れた音だけが響いた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回は太一VS霧島の回になります。
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