第42話 血の契約
霧島の剣が俺の炎を裂くように迫ってくる。
踏み込みの速さ、剣筋の鋭さ、読みの深さ――
全部が俺より上だった。
ガキィィインッ――
剣が交わるたび、赤い火花が森を照らす。
「遅ぇよ――太一」
耳元で霧島の声が響いた瞬間、
反射で身を捻り、首を狙った斬撃を紙一重で避けた。
(早い……ほんの少しでも遅れていたら……首が飛んでいた)
「クソッ……!」
距離を取って、フレイムランスを放つ。
炎の槍が一直線に霧島へ向かう──が。
「はいはい、防御っと。
無詠唱魔法なんてやるわね!
でも残念、効かないの!」
早乙女が指をひらりと振るだけで、
透明な壁が炎を弾き飛ばした。
爆ぜた炎が木々を焼き焦がす。
アヤカが矢を放つ。
だが霧島は剣で弾き、
坂上は笑いながら魔物を呼び出す。
「無駄無駄。お前らじゃ俺たちに勝てねぇよ。
行ってこい! 俺のゴブリンたち!」
三人の力は圧倒的だった。
俺たちの攻撃は全部潰され、
逆に霧島の剣圧だけで体が軋む。
「終わりだ」
霧島の剣が俺の腹を裂いた。
「ーーッ!」
熱い痛みが走り、
次の瞬間、俺の体は後ろへ吹き飛んでいた。
木に叩きつけられ、
口から血が溢れる。
腹から噴き出した血が地面を赤く染めた。
(もう……加護を全解放するしか勝ち目がない)
「タイチくん!!」
アヤカの叫びが聞こえる。
その後ろで、ノエルが震えながら俺を見ていた。
涙で濡れた瞳が、必死に俺を呼んでいた。
「……タイチ……」
アヤカの影から飛び出し、ノエルが駆け寄る。
「タイチ……私と契約して……血の契約して……!」
「血の……契約?」
息が荒い。
視界が揺れる。
ノエルは必死に言葉を続けた。
「血の契約は……奴隷契約より強い……
奴隷契約が破れれば……私も戦える……!」
「ノエル……」
「私は……太一になら……服従してもいい……
だって……あなた……暖かい……いい匂い……
それに……私を守ってくれた……」
涙を流しながら、それでも真っ直ぐ俺を見ていた。
「私は……あなたに一生仕える……
だから……私と血の契約をして……
私も……二人と一緒に戦いたい……!」
ノエルの覚悟は誰よりも強かった。
俺は手を伸ばした。
「……わかった……契約する」
ノエルは俺の手を取り、
傷口から流れる血をそっと舐めた。
その瞬間――
光が爆ぜた。
俺とノエルの胸元から伸びた光が絡み合い、
まるで鎖のように繋がる。
ノエルの首に巻かれていた奴隷の鎖が、
バキバキと音を立てて砕け散った。
「……力が戻って来る……」
ノエルの体から、
黒い霧のような魔力が溢れ出す。
その魔力は一瞬で膨れ上がり、
周囲の空気を震わせた。
坂上が叫ぶ。
「な、なんだよこれ……!
魔力量が……跳ね上がって……!
面白え、ますます欲しくなった!」
早乙女も顔を歪める。
「黒狼族……本来の力……?
こんなの聞いてないんだけど……!
血の契約なんて馬鹿じゃないの?
こんな奴のために一生破れぬ誓いを立てるなんて……!」
ノエルの瞳が金色に輝いた。
「……タイチ……ありがとう……
これで……戦える……!」
その声は、もう黒狼族の戦士の声だった。
霧島が舌打ちする。
「チッ……面倒なことになったな。
だが――雑魚が一人増えたところで問題ない」
坂上が魔物を呼び出し、
早乙女が魔法陣を展開する。
アヤカも弓を構えた。
ノエルは俺の隣に立ち、低く唸る。
「……タイチ。
私、あなたのために戦う。
私の主を傷つけた奴ら……絶対に許さない」
俺は刀を握り直し、前に出た。
「行くぞ、ノエル」
「うん……!」
霧島が踏み込む。
坂上の魔物が吠える。
早乙女の魔法が光を放つ。
俺とノエルの魔力が同時に爆ぜた。
黒炎と黒狼の魔力が重なり、森が震える。
「まだだ……まだ終わってない」
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次回は、ノエルにとって初めての戦闘回となります。
彼女がどう戦うのか、ぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです。
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