第4話 イグナリアの冒険者
フォレストウルフを倒した夜、村には静寂が戻っていた。
血の匂いはまだ残っているが、空気には安堵が広がっている。
「兄ちゃん、本当に助かったよ……!」
「あんたがいなかったら、村は終わってた……!」
村人たちの言葉が胸に染みた。
追放されてから、誰かに感謝される日が来るなんて思ってもいなかった。
(……俺の力は、誰かのために使える力なんだ)
そんな時だった。
「おーい! 救援に来たぞー!」
松明の光が揺れ、複数の影が村へ駆け込んでくる。
その先頭に立つ赤髪の青年が、俺を見るなり目を見開いた。
「おい……まさか、お前ひとりでフォレストウルフを倒したのか?」
「そ、そうですが……」
青年は豪快に笑った。
「ははっ、マジかよ!
俺はグレイズ! イグナリアの冒険者だ!
お前、只者じゃねぇな!」
その後ろから、分厚い盾を背負った大男が歩み出る。
足音だけで重戦士だとわかる迫力だ。
「グレイズ、騒ぎすぎだ。
……だが確かに、フォレストウルフ三体を一人で倒すとは大したものだ。俺はガントだ」
低く落ち着いた声。
その視線は鋭いが、どこか誠実さがある。
続いて、赤茶の髪の女性が魔力の残滓を指先でなぞりながら俺を見る。
「セリナよ。
この魔力痕……火属性ね?
どんな魔法を使ったら、こんな火力になるのかしら……」
最後に、軽装の少女が勢いよく手を振ってきた。
「リオ! 弓使いだよ!
フォレストウルフ三体って本当? すごいじゃない!」
四人とも雰囲気は違うのに、どこか“まとまり”がある。
実戦をくぐってきたパーティ特有の空気だ。
(……仲間っていうのも、悪くないのかもしれない)
グレイズが俺の肩をバンッと叩く。
「タイチ、だっけ?
行く当てがないなら、俺らの拠点イグナリアに来いよ!
ヴァルリア帝国は軍事国家で、鍛冶屋も強い奴も多いんだ!」
「……俺は、誰かとパーティを組むつもりはないですよ」
自然とそう口にしていた。
誰かと一緒に行動する気にはなれなかった。
もう、裏切られるのはごめんだ。
グレイズは一瞬驚いたが、すぐに笑った。
「いいじゃねぇか。一匹狼でも強けりゃ問題ねぇよ。
イグナリアには単独で動く奴も多いしな。気楽に行こうぜ」
村人たちも背中を押してくれる。
「兄ちゃん、街に行った方がいい!
あんたはもっと強くなる!」
「冒険者になれば経験も積めるしな!
その力、活かさないと損だぞ!」
その言葉に、胸の奥で何かが決まった。
「……わかりました。
イグナリアへ連れて行ってください」
グレイズは満足そうに頷いた。
「よし、決まりだ。明日の朝に出発するぞ!」
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――翌朝。
村人たちに見送られながら村を出た。
「タイチ、気をつけてな!」
「また来いよ!」
その声に、胸がじんわりと温かくなる。
グレイズが先頭に立ち、道を歩き出す。
「しかし……お前、本当に冒険者じゃねぇのか?」
「はい……最近この国に来たばかりなので……」
「訳ありって感じだな……
だがフォレストウルフ三体なんて、普通はパーティでも苦戦するぞ」
ガントが横で静かに頷く。
「こいつの筋肉のつき方を見れば実力があるのはわかる。
イグナリアでも通用するだろう」
セリナがちらりと俺を見る。
「あなたのスキルボード、見せてもらえる?
冒険者じゃない人がフォレストウルフ倒すなんて、普通ありえないのよ」
「ああ、良いですよ。
スキルボード、オープン」
淡い光の板が浮かび上がり、文字が並ぶ。
その瞬間、四人の表情が一変した。
「……は?」
最初に声を漏らしたのはセリナだった。
目を見開き、俺のスキルボードに顔を近づける。
「ちょっと待って……これ、本当?
焔神の加護……?
神の加護なんて、見たことないわよ……!」
リオは口をぱくぱくさせている。
「えっ……えっ……?
神の加護って超レアじゃん……!」
ガントは腕を組み、低く唸った。
「……規格外だな。
火魔法A……フォレストウルフ三体は当然か」
グレイズはしばらく固まっていたが、
次の瞬間、爆発するように笑った。
「ははははっ!!
おいおい、マジかよ!
こんなスキルボード、初めて見たぞ!」
四人の視線が一斉に俺へ向く。
賞賛、驚愕、興味、期待ーー
色んな感情が混ざった目だ。
だが俺は、少し距離を置いて歩いた。
(……誰かと一緒に歩くのは、久しぶりだ)




