第39話 黒狼の少女
ギルドへ向かう道を、俺とアヤカは静かに歩いていた。
アリスはミノリの治療で宿に残っている。
アヤカは落ち着かない様子で、何度も後ろを振り返っていた。
「……昨日のこと、バレてないよね……」
「今のところは大丈夫そうだな」
ギルドの扉を開けた瞬間、ざわついた声が耳に飛び込んできた。
「おい聞いたか? 兵士の話……」
「惨殺されてたらしいな。犯人はまだ見つかってねぇってよ」
「研究者を追ってた連中だろ? 兵士が血眼で探してるらしいぜ」
アヤカが小さく息を呑む。
「……完全に、私たちのことだよね……」
「しばらくは大人しくしてた方が良さそうだな」
掲示板へ向かうと、アヤカが一枚の紙を指さした。
「これ……どうかな?
オーガの群れの討伐。Bランクだけど、二人なら行けるよね?」
「オーガくらいなら問題ないな。これにするか」
受付へ向かおうとした、その時だった。
ギルドの扉が勢いよく開き、四人組の冒険者が出ていった。
その後ろで、黒い耳と尻尾を持つ獣人の女の子が、大きな荷物を背負ってついていく。
先頭の男が振り返り、舌打ちした。
「おい獣人、遅ぇんだよ。荷物くらいちゃんと持てよ」
横の女が鼻で笑う。
「ほんと使えないわね。歩くの遅いんだけど?
依頼失敗したらあんたのせいだからね?」
獣人の女の子は俯いたまま、小さく震えていた。
「……すみません……」
アヤカが立ち止まる。
「……あの子……」
「ひどいな……。だけど今は目立てない。耐えてくれ……」
そう言ったが、アヤカは獣人の女の子の背中をずっと見つめていた。
受付に向かうと、受付嬢が申し訳なさそうに頭を下げた。
「その依頼、先ほどCランクの四人組が受けました」
アヤカの目が見開かれる。
「……さっきの人たち……?」
「ちょっと待て。Cランクでオーガの群れなんて自殺行為だろ。
ハイオーガが混じってる可能性だってあるのに……」
受付嬢は小さくため息をついた。
「止めましたが……聞き入れてもらえませんでした。
それでも受けるかどうかは自己責任ですので……。
正直、戻ってこないと思っています」
アヤカが唇を噛む。
「……あの子、死んじゃう……」
俺は受付嬢に向き直った。
「……これ、俺たちも受けられるのか?」
「はい。可能です。
あの方々が達成できるとは……思えませんので」
アヤカが俺の袖を掴む。
「タイチくん……あの子、助けに行くの……!」
「流石にこれは放っておけないからな」
依頼を受注し、俺たちは森へ向かった。
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森の入口に差し掛かった時、
血相を変えた三人がこちらへ走ってくるのが見えた。
「クソッ……なんであんな数が……!」
「無理よ無理よ無理よ!!」
「もうダメだ! 逃げるしかねぇ!」
俺は三人の前に立ちふさがった。
「……おい。獣人の子はどうした?」
先頭の男が鼻で笑う。
「あぁ? あんな荷物持ち、囮に決まってんだろ。
高い金出して買ってやったんだ、それくらいやってもらわないとな」
アヤカの顔が怒りで震える。
「……置いてきたの……なんで?」
女が肩をすくめた。
「偽善者? 奴隷なんかより自分の命の方が大事でしょ?」
その瞬間、俺の中で何かが切れた。
「……テメェら……」
アヤカが俺の腕を掴む。
「タイチくん……今は……!」
「行くぞ。まだ間に合うかもしれない」
「……うん!」
俺たちは森の奥へ駆け込んだ。
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木々の間を抜けると、
血の匂いが微かに漂ってきた。
アヤカが指を震わせながら前を指す。
「……あれ……!」
視界の先に、黒い耳と尻尾が見えた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
獣人の少女は、無事なのか……
次回はその部分を書いていきます。
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