第38話 ソルディアからの追跡者
ソルディア兵の怒号が、夜の路地裏に響き渡った。
「いたぞ! 逃亡者だ!!」
金属がぶつかる音。
足音が石畳を叩き、こちらへ雪崩れ込んでくる。
アリスがミノリを抱えたまま叫んだ。
「タイチくん、アヤカちゃん……!」
「任せろ。ここは俺たちが抑える」
アヤカは弓を構え、俺の横に滑り込む。
「タイチくん、前お願い。私は後ろから撃つから」
「……了解。行くぞ」
路地の奥から、ソルディア騎士団が姿を現した。
盾を構えた重兵三人。
剣士四人。
そして、分厚い鎧をまとった隊長らしき男。
「逃亡者を匿うとは……貴様らも処刑対象だ!」
俺は刀を抜いた。
(魔法は使えない……刀一本でどうにかするしかないな……)
最初の一人が、怒鳴りながら突っ込んできた。
「死ねぇッ!」
剣が振り下ろされる瞬間、俺は踏み込み、
手首ごと斬り落とした。
骨を断つ重い感触。
血が夜気に散り、鉄の匂いが広がる。
「ぎゃああああ!!」
その悲鳴をかき消すように、
アヤカの矢が横から飛び、
別の兵士の喉を貫いた。
「がふっ……!」
血が噴き上がり、兵士が崩れ落ちる。
「なっ……こいつら……連携が速すぎる……!」
俺が踏み込むと、
アヤカはその先を読むように矢を放つ。
俺が斬りかかる瞬間、
敵の足を射抜いて動きを止める。
背後に回り込もうとした兵士は、
アヤカの矢が眉間を貫いて倒れた。
「タイチくん、右!」
「わかってる!」
右から斬りかかってきた兵士の剣を弾き、
胴を横一文字に斬り裂く。
血が石畳に飛び散り、兵士は崩れた。
「なんだ……こいつら……!」
「二人で……小隊を……!」
隊長の顔がみるみる青ざめていく。
隊長が前に出た。
「貴様ら……ただの冒険者ではないな!」
分厚い盾でアヤカの矢を弾き、
俺の刀を受け止める腕力も強い。
「この私を相手に、剣一本で勝てると思うなよ!」
「勝てるさ。……お前が遅いからな」
団長が怒りに任せて剣を振り下ろす。
その瞬間、
アヤカの矢が団長の足首に突き刺さった。
「ぐっ……!」
動きが止まった団長の懐に潜り込み、
俺は刀を横薙ぎに振り抜いた。
胴体が半ばまで裂け、血が噴き上がる。
「ば……かな……俺が……」
団長は崩れ落ち、動かなくなった。
路地裏には、血の匂いと倒れた兵士たちの呻き声だけが残った。
アヤカは息を整えながら言う。
「……タイチくん、やっぱり強いね。
魔法なしでここまでやれるなんて……」
「アヤカの援護が完璧すぎるんだよ。助かった」
アヤカは少し照れたように笑った。
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宿に戻ると、アリスがミノリを寝かせて治癒魔法を続けていた。
「……血を失いすぎてる……
疲労も限界……数日は目を覚まさないと思う……」
「……目を覚ましたら、事情を聞こう」
アヤカがミノリの顔を見つめながら呟く。
「ミノリさん……命を狙われるなんて……
どんな研究してたんだろうね……」
アリスはミノリの額に手を当てたまま言う。
「明日は……二人でギルドの依頼を受けてきて。
冒険者として動かないと怪しまれるから……
ミノリさんは私が見てる」
「……わかった。
でもアリス、無茶すんなよ」
「うん……二人とも気をつけてね」
ミノリの寝息は浅く、弱い。
部屋にはまだ血の匂いが残っている。
俺は刀についた血を拭いながら、窓の外を見た。
(……鮎川先輩……
いったい何があったんだ……)
夜は深く、静かに更けていった。
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