第36話 新たな旅立ち
数日が過ぎた。
アリスの家で三人で過ごす日々は、
慌ただしくもどこか温かかった。
それもーー
今日で終わりだ。
「……しばらく帰れないのね」
アリス母は寂しそうに目を細めたが、
すぐに笑顔を作った。
「でも、軍人なんだから仕方ないわよね。
タイチくん、アリスのこと頼んだわよ」
「もちろんです」
アリスは頬を赤くしながらも、
どこか誇らしげに胸を張った。
アヤカも深く頭を下げる。
「……必ず帰ってきます」
こうして俺たちは、
しばらくこの国を離れることになった。
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軍議室に入ると、
ギルバート将軍がすでに待っていた。
「来たか。
手紙でも伝えていたがーー
今日からお前たちにはソルディア王国へ向かってもらう」
アリスが息を呑む。
「はい……」
「心配するな。準備はこちらで整えている」
ギルバートは机の上に置かれた三枚のカードを指差した。
「これは冒険者ギルドの登録証だ。
偽造だが精度は高い。
お前たちは冒険者パーティとして潜入する」
カードにはそれぞれの名前が刻まれていた。
「冒険者に……扮するんですね」
「国を転々とする冒険者は多い。
一番怪しまれないだろう」
ギルバートは地図を広げる。
「まず、ソルディア王国は火魔法の使い手を迫害する文化がある。
タイチ、絶対に魔法を使うな」
「……わかりました」
胸の奥の魔力が、
まるで反発するように脈打つ。
アリスが心配そうに袖を掴んだ。
「タイチくん……一応、封印魔法かけておくね。
咄嗟に魔法を使っちゃうかもしれないし」
「ああ……助かるよ」
アリスがそっと手をかざすと、
胸の奥の熱が少しだけ静まった。
ギルバートはアヤカに視線を向ける。
「アヤカ、その銀髪は目立つ。
身元が割れている以上、変装は必須だ。
……染めるか、隠すかだな」
アヤカは自分の髪をそっと触り、
少しだけ寂しそうに目を伏せた。
「……わかりました。染めます」
アリスが一歩前に出る。
「アヤカちゃん、座って。
魔法なら髪を傷めずに自然な色にできるから」
「アリスちゃん……そんな魔法も使えるんだね」
「治癒師はね、患者さんの外見を整える魔法も習うんだ。
怪我の跡を隠したり、色素を調整したり……」
アリスがアヤカの髪に手をかざすと、
淡い光がふわりと広がった。
銀色の髪が、
ゆっくりと栗色へと変わっていく。
アヤカは驚いたように目を見開いた。
「……すごい……
本当に染まってる……違和感もない……」
アリスは満足げに微笑む。
「うん、似合ってるよ。
これならソルディアでも目立たないはず」
俺も思わず口にした。
「そんな便利な魔法があるのか……
俺も染めようかな」
アリスは即座に首を振った。
「タイチくんは今のままがいいよ」
「そ、そうか……」
アヤカもくすっと笑う。
「うん。タイチくんはそのままが一番似合ってるよ」
アリスは小声で続けた。
「……私は、今のタイチくんが好きだから」
「えっ?」
「な、なんでもないっ!」
ギルバートが咳払いをする。
「……話を戻していいか?」
「「す、すみません!」」
ギルバートは地図の一点を指差した。
「まず向かうのは、ソルディア王都の隣街──
レグナスだ」
「レグナス……?」
「加護の研究者はそこに拠点を置いている。
だが、ソルディアの研究者は信用するな。
何を企んでいるかわからん」
アヤカが真剣な表情で頷く。
「……気をつけます」
ギルバートは三つの袋を差し出した。
「潜入用の装備だ。軍用品は置いていけ」
中にはーー
軽装の剣士装備、旅の治癒師ローブ、弓兵の軽装。
三人とも、完全に冒険者の姿になった。
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王城を出る前、アリスが俺の袖を掴んだ。
「……絶対に無茶しないでね」
アヤカも真剣な表情で言う。
「タイチくん、魔法は絶対に使っちゃダメだからね」
「わかってるよ」
二人に心配され、
(俺ってそんな信用ないのか……)
と苦笑する。
王都の門が開く。
三人の影が長く伸びた。
俺たちは、静かにソルディアへ歩き出した。




