第32話 静かな余韻と揺れる心
三日が経った。
目が覚めるたび、身体の奥がじんじんと熱を持っている。
皮膚の下で魔力がざわつき、立ち上がろうとすると視界が揺れた。
「タイチくん、起きた?」
アリスが椅子から身を乗り出し、俺の額に手を当てる。
その手は少し冷たくて、心地よかった。
「熱は……うん、昨日より下がってる。
でも、まだ無理しちゃダメだからね?」
「……悪いな、アリス。ずっと付きっきりで」
「いいの。
これくらい、させてよ」
アリスは照れたように笑いながら、
俺の髪をそっと撫でた。
その仕草が、以前よりずっと自然で──胸の奥がくすぐったくなる。
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昼過ぎ、テントの布が勢いよくめくれた。
「タイチ、生きてるか!」
グレイズ、ガント、セリナ、リオ。
四人とも包帯だらけだが、表情は明るい。
「お前ら……もう動けるのか」
「なんとか、みんな自力で歩けるようにはなった」
グレイズが笑う。
「でも、命は助かった。……お前のおかげだ」
ガントが深く頭を下げる。
「命の借りだ。必ず返す」
セリナも静かに言った。
「あなたが来てくれなかったら……私たち、全員……」
リオは照れたように視線を逸らす。
「……ありがとね、タイチ」
胸が熱くなる。
「無事でよかったよ。
それだけで十分だ」
グレイズはアリスに視線を向け、真剣な顔で頭を下げた。
「アリス、お前にも礼を言わせてくれ。
俺たちの仲間を治してくれたんだってな」
「い、いえ……私はただ、できることをしただけで……」
アリスは少し照れながら、俺の袖をつまむ。
「……タイチくんの友達だから、絶対に救わないとって思って……」
グレイズがニヤリと笑う。
「ははっ、いい子じゃねぇか。
タイチ、大事にしろよ?」
「ちょ、ちょっと……!」
アリスが真っ赤になる。
グレイズは手を振った。
「俺たちはイグナリアに戻る。
また会おう、タイチ」
四人は深く頭を下げ、テントを後にした。
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静かになった頃、
テントの入口から控えめな声がした。
「……タイチくん、入ってもいい?」
アヤカだった。
以前より少し痩せたように見える。
目の下には薄いクマがあり、
無理して笑っているのが分かった。
「アヤカ……来てくれたのか」
アヤカはベッドの横に立ち、
ぎゅっと拳を握りしめた。
「助けてくれて……ありがとう。
あの時、タイチくんが来てくれなかったら……
私、本当に……」
声が震え、言葉が途切れる。
「それと……追放された日のこと……ごめんなさい。
私、自分のことでいっぱいいっぱいで……
タイチくんの気持ち、何も考えられなかった」
俺は首を振った。
「もういいよ。
アヤカが無事でいてくれたなら、それでいい」
アヤカは涙をこらえるように笑う。
「……生きててくれてよかった。
本当に……よかった」
その言葉には、安堵だけがあった。
だが――
アリスが俺の手を握っているのを見た瞬間、
アヤカの表情がほんの一瞬だけ揺れた。
すぐに笑顔に戻ったが、
あの一瞬の揺れは何だったんだろう。
疲れているだけ……そう思うことにした。
「私、仕事あるから戻るね。
タイチくん、お大事に」
テントを出ていく背中は、どこか寂しげだった。
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アヤカが去った後、
アリスは俺の横に座り直し、
少し迷ったように口を開いた。
「……ねぇ、タイチくん。
デイビットさんたち、イグナリアに戻ったでしょ?」
「ああ。戦後処理があるって言ってたな」
アリスは小さく首を振る。
「それだけじゃないの。
今回の戦い……上の人たちが、
“緊急会議”を開いてるって」
「緊急会議……?」
「うん。
デイビットさん、すごく真剣な顔で言ってた。
国が動くかもしれないって」
アリスは俺の手をそっと握る。
「タイチくんの功績も……全部報告されてるみたい。
それで……新しい部隊を作る話が出てるって」
「新しい部隊……?」
アリスは少しだけ誇らしげに微笑んだ。
「王国直属の精鋭部隊。
タイチくんを中心にした、特別な部隊なんだって」
胸が高鳴る。
アリスは不安そうに俺の手を握りしめた。
「タイチくんが認められるのは、本当に嬉しい。
でも……偉い人たちって、何を考えてるか分からないから……
ちょっとだけ、心配」
俺はアリスの手を握り返した。
「大丈夫だよ。
アリスがいてくれるなら、俺はどこに行っても平気だ」
アリスは少し涙ぐみながら笑った。
「……うん」
テントの中には、
静かな時間が流れていた。
今回は少し穏やかな回でした!
タイチとアリスを見て、アヤカも色々と思うところがあるようです……
三人の関係がどう変わっていくのか、続きが気になった方はぜひブックマークと高評価していただけると嬉しいです!




