第12話 王からの徴兵令
カズヤが刀を打ち始めてから一週間が経った頃。
俺は鍛冶工房《風林火山》の扉を開けた。
炉の熱気と鉄の匂いが、いつものように迎えてくれる。
「先輩、来ましたね」
カズヤが笑顔で、布に包まれた一本の刀を差し出した。
布を外すと、黒い刀身が静かに光を返す。
ただ黒いだけじゃない。
光を吸い込み、奥底で赤く揺らめくような、不思議な色だった。
鍔は――ついていない。
「鍔はないんだな」
「はい。
先輩の魔力は癖が強いんで、鍔があると流れが乱れるんすよ。
一直線の方が魔力伝導の効率が良くなるんです」
握ってみると、手に吸い付くような感覚があった。
試しに魔力を流すとーー
刀の樋が、赤く発光した。
「……すげぇな」
「切れ味も保証します。
芯金にミスリル混ぜてあるんで、ヘルフレイムにも耐えられますよ」
カズヤは胸を張る。
その表情には、鍛冶師としての誇りが宿っていた。
「どんな名前にするんですか?」
俺は刀身を見つめ、静かに答えた。
「獄焔刀。
俺の二つ名でもあるしな……」
カズヤは目を丸くし、すぐに笑った。
「意外と二つ名気に入ってんすね。
でも先輩の刀って感じがします」
さらに、アイアンリザードの鱗で作った胸当ても渡された。
軽く、動きやすい。防御力も十分だ。
「……助かる。本当にありがとう、カズヤ」
「いえいえ。
また何かあったら、いつでも来てください。
あと……あまり期待してませんけど、工房の宣伝もお願いしますね」
「何も言い返せないのが悔しいな……
ああ、なるべく宣伝しとく」
工房を出ると、冷たい風が頬を撫でた。
獄焔刀は、手の中で静かに重みを主張している。
(……これで、俺はもっと強くなれる)
そう思いながら、俺はギルドへ向かった。
数日前から招集がかかっていたのだ。
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ギルドに入ると、すでに大勢の冒険者が集まっていた。
ざわつきと緊張が入り混じった空気が漂っている。
その中に、見慣れた顔があった。
「グレイズ、今日は一人か?」
声をかけると、グレイズは振り返り、苦い顔をした。
「タイチか……
ああ、今日は他の連中には待機してもらってる。
リーダーの俺だけ来たって感じだ」
「そうか……それで、どういう状況だ?」
「国王から徴兵命令が出たらしい。
ギルドから何人か送らなきゃならねぇんだとよ」
周囲の冒険者たちも、重い表情で話している。
「お前はパーティを組んでない。
優先的に選ばれる可能性が高いぞ。
……覚悟しておけよ」
そのとき、ギルドマスターが前に出て、場を見渡した。
「静かに!」
ざわめきが止まり、全員の視線が集まる。
ギルドマスターは深く息を吸い、重い声で告げた。
「アースドラゴンの出現と、隣国ソルディアの戦力増強の噂は聞いているな。
国王より命令が下った。
各支部のギルドから、数名を軍へ送れとのことだ」
空気が一気に張り詰める。
「単刀直入に言う。
……誰か、軍に行ってくれる者はいるか」
沈黙。
誰も手を挙げない。
誰も目を合わせようとしない。
その中で、ぽつりと声が上がった。
「……タイチ、お前はパーティ組んでいないだろ?」
周囲の視線が一斉に俺へ向く。
「獄焔の狼か……」
「可哀想だが……パーティ組んでないんじゃしょうがないよな」
「でも、あいつなら厳しい訓練にも耐えられるんじゃないか?」
ひそひそとした声が広がる。
ギルドマスターが俺を見た。
その目は、申し訳なさと期待が入り混じっていた。
「タイチ……どうだ。
訓練は厳しいと思うが、軍は戦闘のプロフェッショナルだ。
学べることは多いと思う。
どうか頼まれてくれないか?
もちろん強制はしない」
冒険者たちは目を逸らす。
誰も死地に向かいたくない。
俺だって同じだ。
だが――
このまま黙っていても、何も変わらない。
胸の奥で、心が静かに揺れた。
(……強くなれる、か。
今のまま独学で続けても、俺はこれ以上伸びない。
それに――綾花のことも気になる)
俺はゆっくりと前に出た。
「……行くよ」
ざわめきと安堵の声が広がる。
「マジか……」
「よかった……これで行かなくていい……」
「すげぇな……あいつ」
ギルドマスターは深く頷いた。
「そうか……ありがとう。
三日後に駐屯地へ向かってくれ」
グレイズが苦い顔で肩を叩いた。
「タイチ……無茶すんなよ。
でも、お前なら……まだまだ上を目指せる」
俺は軽く頷いた。
その後ろで、シルビアが目を潤ませながら俺を見つめていた。
「シルビアさん、色々ありがとうございました。
本当に助かりました」
シルビアは涙を拭いながら、震える声で言った。
「タイチさんは無茶をするから心配です……
また……元気な姿を見せてくださいね」
グレイズがそっとシルビアの肩に手を置く。
俺は手を振り、ギルドを後にした。
こうして――
俺はイグナリアにある帝国軍の駐屯地へ向かうことになる。




