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呪人・廻《カースマン・カイ》  作者: さばみそ
第八章
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道惑わす三翼の荒神『八咫天神』

「これ、結界のせい?」

「いや、この結界に人を惑わす効果は無い。むしろそういう術は消してくれるはずさね。専門家じゃあないがそれは解る」

「ってことは、奥にいるヤツが好き勝手やらかしてるってこと?」

「力が弱まったとはいえ、この神がかりな結界の中でそのような所業を」

「…それはアナさんの死霊兵も、です」

続けてヨシノも頷きながら、自分の藁人形も、と呟く。そう、規格外な強さを持つのは敵だけではない。もちろん敵はその聖なる結界の内部で生まれただろう更に規格外な妖怪。不安はある。

「とはいえ本来は術師もお断りの聖域守護の結界。妖怪退治のためであれ、あまり長く暴れると」

「んじゃ、急ぎますか~只の蜂なら負担軽いっしょ」

ミモリが能力が付与されない探索用の普通の蜂を十数匹、それぞれの道へと飛ばす。少し進むと見通しが悪いわけでもないのに姿が消える。が、さすがにこの五人、特に反応することもなく落ち着いたものだ。

「真ん中、通じた。他は消された」

「行こう」

全員が真ん中の道を進む。先では蜂が待っており、また更に力が増した烏天狗も待っていた。相変わらずはっきりとした意識は無さそうだが、戦闘能力は一段上がる。連携と飛行能力も向上していてより厄介になった。

オートで動いているゾンビ兵が烏天狗の動きに撹乱され、一体捕まり羽交い締めにされる。そこに別の個体が鋭い爪で襲いかかった。

「ふん」

マニュアルで動かしている兵が、クニサダが呪符で作った剣を持ってオートゾンビごと烏天狗を二体同時に斬る。

「うわ~ゾンビの手、呪符にヤられて爛れてるじゃん。ヤッバ!てかゾンビだから元々?」

「遊んでないで貴様も働け」

「言い方~てか、もうやってるし」

大きめな蜂を産んで飛ばしていたが、躱され潰されもはや役立たずかと思われた雀蜂兵。しかし、よく見ればその大きな蜂に紛れて極小の蜂が飛んでいた。程なくして烏天狗の動きが悪くなり妖力も低下する。

「見た目は小さいけど、毒は超濃厚よ?」

「ふむ。失言であった。かなり楽になる」

残りの烏天狗も撃退し先へと進む。

「で、また三叉路?」

「無限ループ、というやつか?」

さすがのクニサダも少し不安になる。しかし、老獪なる術師は笑顔で応える。

「ほっほ。それはないさね。あんたも感じるだろ? 敵さんの気配が強まっていくのを」

再び蜂が先行し、一つの道を進む。敵の強さは増し、三度(みたび)三叉路が出現。しかし、先程の言葉の正しさを証明するかのように敵の気配は更に強くなっていた。唯一、まだ拭えない不安があるとすれば

「てか、敵、かなりじゃね?」

「雑魚ですら我が死霊兵が苦戦するレベル。本体の術次第ではあるが…」

「ほっほ。お主らに最後まで活躍されては私らが温存してきた意味がないわい」

「…うん。任せて」

「はい。ですが、サポートはさせていただきますよ」

「……ぽっ」


そんなこんなありまして、三度の三叉路を駆け抜けて、壮年ラブコメ挟みつつ、いよいよ相対するは…


「強いな」

其処に現れたるは三枚の翼を持ち、烏の面を被りし大天狗。3mはあろうかという巨体。そして翼の一つも1.5m程度はあるだろうか。さらに特筆すべきはその手に携えた剣であろう。普通の日本刀とは異なる内に反った刀

「布都御魂剣」

「三大霊剣の一つ、ですか」

「三尽くしも極まれりじゃん。勝算は?」

「それを見極めるための我ら。行くぞ」

アナの声掛けが終わる前に、既に蜂の軍勢を飛ばしていたミモリ。そして、あわよくば自身の攻撃でこの戦いに終止符を、と一撃必殺の猛毒蜂も忍ばせていた。が

「へ?」

蜂は一匹も天狗の本へ到達できずに、その周辺を右往左往している。

「なにをやっておるか。死霊兵よ行け!」

次はアナが仕掛ける。三尽くしに合わせたわけではないが、三体の死霊を合体させた死霊大兵。それが三体向かっていく。

「なんだと!?」

「あんたこそ何やってんのさ」

やはり誰も辿り着けない。それどころか

「ぐ…」

アナが頭を抑えて膝をつく。そして

「ちょ、マジ何やってんの!?」

「アナ!?」

マニュアル操作をしていた一体が向きを変えてミモリに襲いかかる。無論、アナの本意ではない。それは苦悶の表情からも察せる。

「ちっ!毒で止めとくか」

「おやめ。クニさん、御札で死霊を祓っておくれ」

「心得た!」

クニサダが死霊兵を浄滅させた。すると、アナの顔色が戻り、すまぬと謝罪しつつ立ち上がる。

「ヤツに近づいた時、誘惑とも洗脳とも似た、しかし異なる力に脳の一部を支配された。恥ずかしながら、味方を攻撃することに気分が高揚すら…」

「クソかよ」

「…ミモちゃん、下品」

「なかなかに厄介な力だねぇ。ふむ。烏天狗、道を惑わす、三尽くし…」

トメさんが思考を巡らせる。天狗はというと、此方から向かっていかねば術をかけられることもなく、自らが向かってくる様子もない。カウンター型の術だとすれば戦い方を考え直さねばならない。一撃必殺が返されれば、こちらが祓われることになる。だが、こうして時間を浪費すれば、敵の反射の術式の力がどんどん増す可能性もある。やはり二人の人海戦術の隙間を狙うしか?

そう皆が思いはじめた時

「カウンター、反転、そうか!」

「何かわかったのですか?」

「ここいら一帯で信仰されとる天狗や八咫烏、その融合じゃ。そして反転。道標の力は道を惑わす力となり、進むべき道を、術の軌道を、さらには心の道、人道を歪めたわけじゃな。さしずめ、名付けるならば『道惑わす三翼の荒神、八咫天神』といったところか」

トメの言葉が聞こえたのか、八咫天神は布都御魂を模した剣を掲げて、まるで名乗りを挙げたかのよう。どうやらその名が気に入ったらしい。剣先をこちらに向けて、今度は自ら向かってくる気満々だ。

「なるほど。八咫烏。それで布都御魂」

「なんか繋がりあんの?」

「母国の神話は知っておくべきぞ?」

「うっさい。教えて」

「それが教えを… まぁよい。簡単に言えば、初代天皇が天皇になるべく遠征していた時に道案内をしたのが八咫烏。そして神により与えられた武器が布都御魂剣。だな」

「ほぼ神じゃん」

「天狗も八咫烏も神と呼ばれることもある。そして携えるは神剣。紛い物とはいえども…」

「……くる」

八咫天神が剣を構えながら一直線に飛んでくる。五人は難なくそれを躱す。いや、躱したかに見えた。が、

「ぐ…」

「きゃっ…」

アナとミモリが斬られた。幸い深手ではないが…

「おのれ!」

クニサダが呪符を飛ばす。しかし、軌道は歪められ、あさっての方へと飛んでいく。

「むぅ」

「無駄遣いしなさんな。クニさんが使う相手はこっちだよ」

トメに従い、クニサダは呪力を更に込めた呪符を三人に飛ばした。

「さすがに味方への支援呪術を歪めるまでは出来ないようだね。だがそれも時間の問題かもしれん」

軌道を歪めつつの連続攻撃ならば一網打尽に出来た可能性は高い。だが、それはしなかった。それは高い知性故の慎重であり、そして自らが進化するための観察でもあった。自身の力の扱い方を学んでしまえば、恐らくは全ての力の方向などにはとどまらず、視界も思考も、あらゆるモノが歪められてしまうだろう。『道』を司る邪神。その恐ろしさに戦慄する。

「だが、今回はこちらの勝ち。そして二度目以降は無し、だわね」

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