途絶える道、繋がる道
八咫天神は「やってみろ」と言わんばかりに、周囲の木々を斬り払う。一流の剣士と比べれば雑な動きではあるが、元々に備えられた身体能力のせいで油断すれば一瞬で斬られるだろう。そして落ちる木々の軌道を歪め、こちらの対応を増やす。
が、クニサダの呪符で回復&パワーアップしたアナが新たに喚んだ死霊兵が盾となり皆を守る。
「どこまで曲げられんのかしら?」
ミモリが挑発するように斜に構えて指差し、大小様々な蜂を飛ばす。が、やはりそれらは天神には届かない。
「行け、死霊兵たちよ!」
「呪符よ!」
アナも死霊兵数体を、クニサダも攻撃用の呪符をいくつか飛ばす。今回は無駄は承知。それでも確認すべきことがあるのだ。そして、もちろん死霊兵も呪符も天神には届かず、死霊兵は地面に落ち、呪符も空へと消える。
ドンッ!バキバキ…
その空から爆発音と木が倒れる音がした。軌道を反らされた爆裂の呪符、それが上方の木の幹を破壊したのだ。落ちる木々が天神を襲う。
スルッ…
その木々もやはり軌道が歪まされ、術師たちの方へと落下していく。
「ぎゃー!もう、なんなのよ!」
「すまぬ。だが、これではっきりしたな」
「うむ」
「いや、二人で納得してないで周知させろて」
とミモリがトメとヨシノに同意を求めるも、冷やかな視線を返される。
「え?わかってないの私だけ?」
「なんか説明すると、ついでに敵さんにも聞こえてしもてレベルが上がってしまいそうだからのう」
「…ミモちゃん、がんば」
「うええ!?」
術師たちの言動を聞いて実力の順列を測ったのか、天神の攻撃が向かう割合はミモリが増える。元々備わった天狗としての神通力で、木々はもとより岩石までも飛ばしてくるようになった。また、電撃の術も併さることで更に回避が困難になっていく。
「ちっ!ナメやがってこのカラス野郎!」
「ミモリどの!」
「アナ、余計なことせんでよい。手をゆるめるな。ミモリも八大地獄のはしくれじゃ!」
多少の差はあれど、同盟では同列に位置する幹部の一人。護られるなど恥。そしてアナもまた自分の他者を侮った心を恥じた。当のミモリはというと
「トメさん、そろそろ準備しといて」
と不敵に笑う。
「うむ」
トメはその場に座り瞑想を始める。
「アナ、合わせな!」
「了解した」
「さすれば出し惜しみ無し。追加の呪符を」
「……準備、オーケー」
五人全員が最後のターンと呪力を高め、神経を集中させる。天神もまた同様に、呼応するように呪力を高め電撃を纏った石礫を周囲に浮遊させ、いつでも投げつけられる準備を整えた。
先に動いたのは天神。電撃石礫を五人に向けて飛ばす。が、途中でうねり、方向を変える。無論その程度は想定内。難なく躱すと死霊兵、巨体蜂、呪符が天神に向かう。も、やはり軌道が歪まされる。悔しがる歴戦の術師たち顔を見て、仮面越しではあるが明らかに嘲笑しているのが肩の動きから見てとれた。
「やっぱり見える攻撃は曲げられる。知性のあるやつは操られる。ってことみたいね」
「オート兵がこちらを攻撃してこないことから、そうなのだろうな。それに」
「ん。攻撃、届いた」
こちらの会話の内容を理解しているのだろう。「は?」と小馬鹿にするように首を傾げてこちらを斜めに見下す。直後、その顔はおそらく酷く驚くことになる。
ギャギャギャッ!?
カラスのような奇声を上げて落ちる。翼の一つが穴だらけになり、ボロボロに崩れて霧散した。目に見えない程に極小の毒蜂が天神の翼を潰したのだ。おかげでバランスを取れなくなり墜落しているのだ。
「トメさん!」
「おおう!」
若い男の声が響く。準備を終えたトメは憑依召喚を発動、そして無事にそれは成された。圧倒的な力がトメに宿り天神を睨む。
「武神、建御雷神!信者が祈りに応え此処に推参!我が愛刀を模する身の程を弁えぬ塵芥め!天罰を受けよ!」
トメに武神の幻影が重なり、しかし確実に神の力の一部がそこに構える。だが、天神は落ちながらも術を行使し、またもや軌道を歪めようとする。今までがオート発動する簡易歪曲術なら、全力を込めた今回はさしずめ絶対強制歪曲術だろうか。神の力の一部と神を模倣した存在の力。果たしてどちらが上か。興味はあるところではあるが、それを試してみようという余裕は無い。アナが天を仰ぎ叫ぶ。
「ジョナサン!」
結界の外。結界の解析をしていたジョナサンが呟く。そう、その声は届いていた。
「待ちくたびれたよ。では… Rewrite」
ジョナサンが術を発動する。正しくは、既に術は発動しており、結界の書き替え、及び発動の一歩手前までは事は済んでいた。結界を自分の手中に収めることで内部の動き、そして会話をも情報として収集しており、万が一に敵の適応能力が異常に高かった時のためにと直前まで発動をストップしていたのだ。
Rewrite、すなわち結界の書き替え。今、それが完了する。
ギャギャ? ギャッ!?
天神の術は起こらない。いや、起こってはいるのだが弱い。新たな結界の干渉で効力が抑えられているのだ。天神が混乱する中で、そしてトメの一撃が放たれるその直前、さらなる強力な術が天神を貫く。
「…穿て」
ヨシノの一言と共に、藁人形への痛烈な五寸釘の一射し。それが天神の心臓付近を貫き大穴を空ける。また、その攻撃によって残りの翼も体から離れ、術の行使が不可能になる。すなわち、終劇である。
「討ち取ったり!」
建御雷神、もといトメの一撃が天神を斬り消した。同時に結界内の不浄は消え去り、静かで神聖な、いつもの熊野古道が戻ってくる。
「…きれい」
「ほんとだねぇ」
この一撃に全てを込めるために、道中幾度も手を出したくなる状況を堪え続けた二人。そして、その一撃に全てを込めて見事に任務を果たした二人。ある意味、ほかの四人以上にすり減らしていたのかもしれない。が、あまりにも美しい景色と空気に癒される。
「道、と名の付くものを全て歪める天狗の神か。恐ろしい存在だったよ…」
「うちら、大活躍だったよね? 打ち上げ驕り、あるよね? スイーツバイキング希望なんだけど!」
「ほっほっほ。あたしゃ煎餅がいいねぇ」
「それスイーツ?」
「ヨシノさんも決定打、ありがとうございました」
「…いえ、その… ぽっ」
「またそれかい!いい加減に先に進め!」
「…ミモちゃん、下品」
「む… ごほん。先は、まぁいずれ」
「なんとっ!?」
「ほっほ。ともあれ、さっさと戻るとしようかね。最功労者の結界術師殿が待ちわびておるだろうて」
トメが移動を促し、皆が微笑み頷く。
「本当だよ。疲れるし心細いし。ナオズミ様は褒めてくださるだろうか。だといいのだが… なにぶんお忙しい方… はぁ…」
「いや、キモいんだけど」
「おお、はやいな」
ジョナサンの独り言に思わずツッコむミモリ。まぁ、当然の反応だろう。そして、各々の組織への報告もそこそこに、肉もスイーツも食べ放題な店へと向かう。
異例中の異例で始まった幹部クラスのみの合同任務。開けてみれば中身も異例の疑神討伐。更には思わぬ繋がりも生まれ、最終決戦前に良い絆が結ばれたと、思わぬ収穫に他の幹部も笑みがこぼれる。
「ほんとに笑いがこみ上げ… ぷっ」
「そんなに冷やかさないでくれ。こちらとて予想外。よもやこのようなことが起ころうとは」
「でも本気なんしょ?」
「…うむ」
「彼女もいろいろあったらしいからな。クニサダさんが相手ともなれば皆ひと安心だろう」
「む、うむ。だと嬉しいのだが」
「は?」
「めでたいことだ。そうじゃ、皆で宴を開こう」
「いいですね」
「……照れる」
「あ"?」
「若人の縁というのはいつ見ても目映いもの」
「事が終われば、両組織を上げての式もまたありかもしれんな」
「…それ、悪いフラグになりません?」
「……大丈夫。へし折る」




