天草 裕貴の幼少期2
想定と全く違う目的地に連れてかれた小学校6年のメンタルは、お察しの通りである。ただ!悲しい事に察しの良い子供は、自分が今から何をしなければならないのか理解してしまった。
「スーツ頂戴?着替えてくるから‥‥」
溢れそうな涙を必死に堪えて、控え室でコンクールの衣装に着替えた。
当時、携帯電話を所持していなかったので、恋華に連絡する事が出来なかったのを後悔した記憶が今でも鮮明に覚えている。
そして、間もなくして演奏の出番が来る。
無理矢理拉致られ、嫌々、演奏させられて、一瞬も笑顔の無いまま弾かされたピアノで金賞を受賞した。
そして、あの時の母親の嬉しそうな満面の笑みは、一生忘れる事は、ないであろう。オレには、悪魔の微笑みにしか見えなかった。
家について、生まれて初めて母親を無視して家を飛び出した。そして、恋華のところに走って行き、涙を流し謝った。
「ゴメン! 優勝する約束守れなかった‥‥」
その一言だけ伝えてダッシュで家に戻ると、家から2種類の怒鳴り声が聴こえてくる。
「お前のした事は、親としても人としても最低だ!
子供の夢をなんだと思っているんだ?」
「あの子は、音楽の天才なの!
練習もしないで、金賞取れるのよ!
何で解ってくれないのよ?」
父親が正論を言っている事は、理解出来たが、もはや全てがどうでもよかった。
バスケットボールもピアノも。
父親も母親も。
自分さえも。
そして、バスケットボールもピアノも学校生活も優秀である事を放棄した。
オレが、ダメ人間になった事で父親と母親がますます険悪になり、離婚が決定した。正直どちらについていく気もしなかったが、引っ越すのが面倒な理由だけで、父親と暮らす事にした。
母親は号泣し父親が勝ち誇っていたが興味が無かった。しばらく学校に行かなくなり、バスケを辞めピアノも辞めて卒業式だけ顔出した。
そして、中学生になった。
中学生になり、部活動に所属するはめになった。
どうやら我が校は、何かしらの部活に所属するしかないらしい。
何にもやる気が無かったが、地元の学校という事もあり、バスケ部からスカウトされた。まるで、やる気がない事を顧問に伝えたが、人数が少ないらしく、登録だけでもいいから来てくれ!と、しつこく勧誘された。あまりの必死さに、とりあえずバスケ部に体験入部する事にした。
本音を言うと!恋華に半ば強制的に拉致られたのがきっかけだが、弱いチームでテキトーに練習するバスケも悪くないかも!と思っていたのが甘かった。
「久しぶりだね。天草くん!一緒に県大会目指そうぜ!」
見覚えの無いキラキラしたイケメンに絡まれてしまった。全く心当たりが、無いのだが、残念ながら知り合いらしい。正直、今は、暑苦しいタイプは、勘弁願いたい‥‥。
「えーっと? やぁ!久しぶり‥‥」
「覚えてないのか? 友よ?
県選抜で一緒だった 藤宮 誠だ!」
あーそんなイケメンいたなーくらいの印象だった。オレは正直、人の名前覚えるのだけは、苦手だし、家庭の事がゴタゴタしていたから、あまりコイツの記憶が無い。たかが、1回とか2回バスケした奴なんか覚えてねーよ!
当然、恋華も知らないと思っていたら2人は、顔見知りらしい。しかもハイタッチまでして、勝手に「全国も夢じゃない!」とか、ナンチャラダンクみたいなギャグまでほざいてやがる。冗談じゃない!今日は、体調が悪いと言い張って、見学する事にした。
恋華からの冷たい視線をガン無視して、イケメンくんのプレーを観ることに専念しよう。
‥‥普通に上手いと思った。そして、やはりイケメンだ!
普段、あまり人の事を誉めないオレだが、コイツは、上手い。そして、心からバスケを楽しんでるのがよく分かる。
‥‥
コイツとは、組めないわ。
30分程見学したところで、顧問に許可をとり、帰らしてもらう事にした。そしてバスケ部だけは、入らないと決意し家に帰った。




